アイリッジは反発の動き、23年3月期減益予想だが24年3月期収益拡大期待

アイリッジ<3917>(東証グロース)は、企業のOMO領域を支援するオンラインマーケティング関連およびオフラインマーケティング関連をベースに、デジタル地域通貨プラットフォームなど新規事業領域も拡大し、リアルチャネル保有企業向けDXソリューションカンパニーへの進化を目指している。23年3月期は減益予想としている。リアル領域においてコロナ禍の影響が残り、オンラインマーケティング関連における開発進捗遅延も影響する見込みだ。ただしFANSHIP導入アプリのMAU増加に伴ってストック型収益が拡大基調であり、デジタル地域通貨MoneyEasy新規導入によるライセンス収益も本格化してきた。積極的な事業展開で24年3月期の収益拡大を期待したい。株価は地合い悪化も影響してボックスレンジ下限を下回る形となったが、調整一巡して反発の動きを強めている。出直りを期待したい。

■OMOソリューションをベースに事業領域拡大

企業のOMO(Online Merges with Offline)領域を支援するオンラインマーケティング関連(スマホをプラットフォームとするOMOソリューション提供、OMOアプリ企画・開発など)、およびオフラインマーケティング関連(リアル領域のプロモーション支援など)をベースに、デジタル地域通貨プラットフォームなど新規事業領域も拡大し、リアルチャネル保有企業向けDXソリューションカンパニーへの進化を目指している。

デジタルガレージ<4819>との資本業務提携を21年2月に解消した。デジタルガレージから株式80%取得したセールスプロモーションの連結子会社DGマーケティングデザイン(DGMD)については両社の株式保有を継続し、21年4月に社名をQoil(コイル)に変更した。また22年10月には業務システム受託開発を展開するプラグイン(札幌市)を連結子会社化した。

22年3月期の売上高は、デジタルマーケティング領域中心の単体ベースが33億25百万円、リアルプロモーション領域中心の連結子会社Qoil他(連結数値から単体数値を減じて算出、連結修正含む)が20億98百万円だった。

なおwithコロナ対応として、オフィスを約5割削減・再編し、出社勤務と在宅勤務を併用するハイブリッド型働き方に最適な環境と勤務体制「iRidge Hybrid Working Style」を構築した。さらに、事業拡大に向けた採用力強化と働きやすさ向上を目的として、22年4月から全社員を対象に、副業や地方移住などの多様な働き方を選べる新人事制度「Work Style for Next iRidge」の運用を開始した。

3月16日には、社会の課題解決のために自社の経営資源を有機的・持続的に活用した社会貢献活動を顕彰する公益社団法人日本フィランソロピー協会主催「企業フィランソロピー大賞」において、子会社フィノバレーが第20回企業フィランソロピー賞「こころのフィンテック賞」を受賞したと発表している。フィノバレーがシステムパートナーとして取り組んでいる「Table for Kids」(子どもの「食」応援クーポン事業)が受賞対象となった。

■オンラインマーケティング関連はFANSHIPやアプリ開発が主力

OMO領域のオンラインマーケティング関連は、ファン育成プラットフォーム(顧客データ分析プラットフォーム)FANSHIPやアプリ開発を主力としている。

FANSHIPスマホ向け位置情報連動型popinfoを19年7月にブランドリニューアルした。さらにFANSHIPを活用し、LINEサービスに組み込んで使えるLINEミニアプリに対応するアプリ開発プラットフォーム「FANSHIP for ミニアプリ」も展開している。

22年3月期第4四半期時点のFANSHIP導入アプリの合計MAU数(四半期平均)は21年3月期第4四半期比37.7%増の7389万ユーザーとなった。利用ユーザー数に応じた従量課金型月額報酬の積み上げによるストック収益である。FANSHIP導入アプリのMAU増加に伴って、22年3月期第4四半期のストック型収益は前年同期比19.0%増の4億90百万円、ストック売上の構成比は0.5ポイント上昇して33.6%となった。

22年5月には、LINEが提供する法人向けサービスの販売・開発パートナーを認定する「LINE Biz Partner Program」の「Technology Partner」において「LINE ミニアプリ」部門の初回パートナーに認定された。22年9月には、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が提供するAWSパートナーネットワーク(APN)において「AWSアドバンストティアサービスパートナー」認定を取得した。

22年11月には、ノーコード・低コストで販促用LINEミニアプリを開発・運用できるサービス「Kit-Curu(キットクル)」の提供を開始した。別途ポイントシステムを導入することなく、単体でCRMや集客施策を行える店舗集客LINEミニアプリの販促ツールである。そして12月より天満屋のランニング支援サービス「てんまやRUN」で導入が開始された。23年1月には「Kit-Curu」が南砂町ショッピングセンターSUNAMO(スナモ)で導入され、LINEミニアプリ「SUNAMO+」が公開されたと発表している。

23年2月には、西武リアルティソリューションズ(SRS)およびワイヤ・アンド・ワイヤレスとの3社共同で、SRSが保有・運営する軽井沢・プリンスショッピングプラザにおいて「高セキュリティWi-Fi」×「アプリ自動連携」による顧客体験向上に向けた実証実験を実施(2月20日から約半年間)すると発表した。

■オフラインマーケティング関連はリアルプロモーション支援が主力

オフラインマーケティング関連は子会社のQoilが、リアル領域のプロモーション支援などを展開している。

22年1月にはQoilが一般消費財メーカー等に向けて、LINE上でリピート購入とマーケティングDXを実現する「購入スタンプミニアプリforメーカー」の提供を開始した。デジタルスタンプカード機能で特典が受けられる仕組みを通じて長期的な顧客接点を形成し、LINEを通じたOne to Oneマーケティングによるファン育成(顧客定着化)を実現する。

22年2月にはQoilが、脳波計測に基づく「足を止める」POP制作から店頭設置代行、店頭データに基づく効果検証までをワンストップで提供する「ニューロクリエイティブ&店頭最適化パック」の提供を開始した。22年11月にはQoilがCAMPFIREの公式パートナーとして、一般消費財メーカー等に向けた購入型クラウドファンディングプロモーション支援メニューFUND FAN FUN(ファン ファン ファン)の提供を開始した。

■デジタル地域通貨プラットフォームの展開を加速

フィンテック領域(デジタル地域通貨)は子会社フィノバレーが、決済システムを中心としたデジタル地域通貨プラットフォームMoneyEasyを展開している。ファン育成プラットフォームFANSHIPと組み合わせて、マーケティング機能を融合した決済基盤構築も可能となる。地域経済活性化施策として自治体におけるデジタル地域通貨需要が高まっていることも背景に事業展開を加速している。

システム提供実績として、17年の岐阜県飛騨・高山地域「さるぼぼコイン」を皮切りに、千葉県木更津市「アクアコイン」、長崎県南島原市「MINAコイン」、東京都世田谷区「せたがやPay」、岐阜県「ぎふ旅コイン」、長野県松本市「まつもとコイン」、熊本県人吉市「きじうまコイン」、大分県大分市「おおいたPay」などがある。

21年6月には「大阪スマートシティパートナーズフォーラム」の第2期プロジェクトのインバウンド・観光再生に関するコーディネーター企業に選出された。21年11月には神戸市「大学発アーバンイノベーション神戸」選定事業として採択され、地域通貨アプリ実証実験「すいすいコイン」のプラットフォームとして採用された。水道筋商店街周辺の加盟店で実証実験を行う。

21年12月にはフィノバレーが、自治体向けの新たなデジタル通貨サービスの共同開発に向けて三菱電機と資本業務提携した。スマートシティ/スーパーシティ関連システムの構築を目指す。22年5月には、フィノバレーが慶応大学発スタートアップのLiquitous(リキタス)と業務提携した。自治体のDXや住民参加型まちづくりに向けて協業する。

22年7月には福島県磐梯町の「ばんだいコイン」、22年10月には東京都板橋区の「いたばしPay」、東京都府中市の「ふちゅチケ」、長崎県佐世保市の「させぼeコイン」の運用を開始した。

23年1月には岡山県真庭市でMoneyEasyを採用したデジタル地域通貨「まにこいん」が開始された。市内に設置予定のチャージ機等からの現金チャージで誰でも使える「まにこいんPay」のみで開始後、来年度には中国銀行とトマト銀行の銀行口座と紐付けてチャージやユーザー同士の送金がおこなえる「まにこいんBank」にも対応して本格稼働予定である。

また23年1月には、富山県が実施する全国旅行支援事業「富山で休もう。とやま観光キャンペーン」における電子クーポンアプリ「とやマネー」のプラットフォームとして採用された。

■DXソリューションカンパニーへの進化を目指す

リアルチャネル保有企業向けDXソリューションカンパニーへの進化を目指し、FANSHIPを中心としたクラウド型プロダクトやソリューションの強化・拡充、顧客ニーズに合わせたプロフェッショナルサービスによるDX支援強化を両輪として、新規事業の立ち上げ・収益化も推進している。

中期的な目標値としては、26年3月期の売上高133億円+αを目指すとしている。利益面については、当面は採用費用や新規事業への先行投資費用の増加が見込まれるが、販管費を適切にコントロールして、営業利益は毎期着実な増益を目指すとしている。

■新規事業領域を育成

新規事業領域の育成を強化している。18年9月には、AIスピーカーAlexaスキル開発運用クラウドNOIDの提供を開始した。プログラミング不要で簡単にスマートスピーカーアプリが作れるクラウドサービスである。22年5月にはNOIDを活用して森永乳業の育児相談などAlexaスキル7種を開発支援、22年7月には大塚製薬のAlexaスキル「ウル・オスお試し」を開発支援した。

20年11月にはソフトバンクとトヨタ自動車の共同出資会社MONETが設立したMONETコンソーシアムに参画した。MaaS事業への取り組みを強化する。また欧州系最大の戦略コンサルティングファームの日本法人ローランド・ベルガーの価値共創ネットワーク(VCN)に参画した。

21年2月には、小売業界向けSaaS型オンラインプラットフォームを提供するFlow Solutionsと資本業務提携した。またオンライン・モンスターと提携し、接客・相談・学習指導など対面サービスを提供する企業向けに、対面サービスのオンライン化を実現するビデオ通話機能付マッチングプラットフォームの提供を開始した。さらに、メディカルネット(20年5月に歯科向けオンライン診療サービスの共同開発で業務提携)と共同で、マッチングプラットフォームを利用したオンライン歯科相談サロン「デンタルオンラインサロン」と、業界初の歯科用口腔内カメラを活用した歯科向けオンライン診察サービス「デンタルオンライン」の提供を開始した。

21年5月には、DXプロジェクトに必要な人材調達・稼働管理などの業務効率を改善し、外部企業とのコラボレーションを促進する開発リソース最適化プラットフォーム「Co―Assign」の提供を開始した。プロジェクト成功の確度を高める体制づくりを支援するクラウドサービスとして、24年度中の500社導入を目指すとしている。23年2月には保険診断・一括比較・見積サイト運営のSasuke Financial Lab、CAD開発のキャパが導入した。

21年8月にはワイヤ・アンド・ワイヤレス、データセクション、Flow Solutionsおよび子会社Qoilと、リテールDXプラットフォームの共同展開に関して業務提携した。小売企業のDXを支援する。

21年12月にはFlow Solutions、三菱商事UBSリアルティ(現KJRマネジメント)と、21年11月にオープンしたサステナブル&OMO体験ポップアップストア「mozo SUSTAINABLE PARK」の実証実験プロジェクトに参画した。

22年10月には、東急建設<1720>と共同で、RFID(無線自動識別)タグとスマートフォンアプリを活用した建設DXサービス「工具ミッケ」の販売を開始した。工事現場で使う工具の照合作業を自動化し、管理業務の縮減と生産性向上を実現するDXサービスである。鉄道工事現場を中心に22年度中の20ヶ所程度展開を目指すとしている。

23年2月には企業向けアプリビジネスプラットフォーム「APPBOX」を4月より提供開始すると発表した。アプリで使う各種機能群(SDK)を組み合わせることで、ゼロからのアプリ開発や既存アプリの機能拡張、マーケティング施策まで、アプリビジネスに必要なすべてを支援するプラットフォームである。他社で開発したアプリの機能拡張にも活用できるなどの特徴があり、3年後に200社導入を目指すとしている。

■23年3月期減益予想だが24年3月期収益拡大期待

23年3月期連結業績予想(先行投資で営業外損益等の合理的な見積もりが困難なため経常利益と親会社株主帰属当期純利益は非開示、2月10日付で下方修正)は売上高が22年3月期比0.1%増の54億30百万円、営業利益が41.5%減の2億円としている。

期初予想(レンジ予想で売上高63億円~68億円、営業利益3億75百万円~4億75百万円)に対して、売上高と営業利益を下振れる見込みとした。リアル領域においてコロナ禍の影響が残り、オンラインマーケティング関連における開発進捗遅延も影響する見込みだ。

第3四半期累計は、売上高が前年同期比6.9%減の36億89百万円、営業利益が54.0%減の92百万円、経常利益が51.0%減の98百万円、親会社株主帰属四半期純利益が60.9%減の49百万円だった。

減収減益だった。新規事業領域における子会社フィノバレーのデジタル地域通貨プラットフォーム事業の収益が本格化してきたが、OMO領域オフラインマーケティング関連がコロナ禍の影響を受けて想定を下回った。

OMO領域オンラインマーケティング関連の単体ベース売上高は2.9%増の23億86百万円だった。スマホアプリ開発を中心に高水準の引き合いが継続し、ストック型収益も伸長したが、開発体制強化が想定まで進んでいないため小幅増収にとどまった。

OMO領域オフラインマーケティング関連の子会社Qoil+デジタル地域通貨関連の子会社フィノバレーの売上高(連結数値から単体数値を減じて算出、連結修正含む)は20.8%減の13億03百万円だった。フィノバレーはデジタル地域通貨プラットフォームMoneyEasy新規導入によるライセンス収益増加で大幅増収だったが、Qoilはコロナ禍の影響で新規顧客獲得が遅れて減収だった。

なお、第3四半期のFANSHIP導入アプリのMAU(FANSHIP導入アプリを月に1回以上起動しているユーザー数、四半期平均)は27.0%増の8676万ユーザーとなった。ストック型収益(月額報酬・ライセンス等、3ヶ月以上の準委任契約)はFANSHIP導入アプリのMAUの増加、MoneyEasy新規導入によるライセンス収益増加により、74.5%増の7億77百万円となり、ストック収益比率は23.1ポイント上昇して51.9%となった。

四半期別に見ると、第1四半期は売上高が10億27百万円で営業利益が45百万円の赤字、第2四半期は売上高が11億63百万円で営業利益が18百万円の黒字、第3四半期は売上高が14億97百万円で営業利益が1億19百万円の黒字だった。ストック型収益は第1四半期が4億57百万円、第2四半期が4億86百万円、第3四半期が7億77百万円、ストック型収益比率は第1四半期が44.5%、第2四半期が41.9%、第3四半期が51.9%だった。FANSHIP導入アプリのMAU増加に伴ってストック型収益が拡大基調であり、第3四半期はMoneyEasy新規導入によるライセンス収益増加も寄与した。

23年3月期は減益予想だが、FANSHIP導入アプリのMAU増加に伴ってストック型収益が拡大基調である。さらにデジタル地域通貨MoneyEasy新規導入によるライセンス収益も本格化してきた。積極的な事業展開で24年3月期の収益拡大を期待したい。

■株価は反発の動き

株価は地合い悪化も影響してボックスレンジ下限を下回る形となったが、調整一巡して反発の動きを強めている。出直りを期待したい。3月17日の終値は668円、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS471円41銭で算出)は約1.4倍、そして時価総額は約47億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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