【宮田修 アナウンサー神主のため息】日本人と米

宮田修

■連作障害の出ない米のすばらしさが日本人の命を繋いできた

秋は、収穫の季節です。田んぼの稲はいつの間にか穂を出し、順調に実っていきます。実るほど首を垂れる稲穂かな―まさにその通りです。日本人は、米を食べて命を繋いできた民族です。全国に8万社あると言われる神社は、多くの場合、その昔、米作りの共同体の中に神さまをお招きし、豊作を祈ったことを起源としています。米との結びつきが強いのです。

日本人は、数千年前から米を作り始めました。これによって定住生活が可能になりました。一方、冷害などで米が収穫できないと餓死者を出してきたのです。そんなの昔の話で今の我われには関係ないという声が聞こえてきそうです。しかし、よく考えてください。つい100年ぐらい前までは餓死をする人がいました。死なないまでも米がとれないための悲劇はたくさんあったのです。何より今この国に生きている人たちはその当時、命を繋ぐことに成功した人たちの子孫です。ご先祖さまは米を食べて命を繋いでくれたのです。そのおかげで私たちは毎日楽しく、まあ時には辛いこともありますが、暮らすことができるのです。

こんな話も聞きました。農家の友人の話です。さまざまな農産物を作付していて大きな悩みになっているのが、「連作障害」だそうです。同じ畑で次の年も同じ作物を作ると生産量が減ってしまいます。これを連作障害と呼んでいます。私も野菜づくりを楽しんでいますが、作付場所には配慮をしています。誠に厄介な連作障害ですが、日本人が主食にしてきた米には誠に有り難いことにこの障害が出ないのです。そう言われてみれば毎年毎年同じ田んぼに米を作っています。

そんなこと大した問題ではないという声がまた聞こえてきそうです。いやいや、そんなことはありません。米しか食べるものがなかった頃のことを考えてください。もし、米に連作障害があったとしたら同じ量の米を生産するために2倍の面積の田んぼが必要となります。同じでしたら半分しか米はとれません。当然米の生産量が減少することになります。ということは食べるものがなく命を繋げなくなることも考えられるのです。つまり、今生きている人のうち生まれてこなかった人がいるということに繋がるのです。恐ろしいことです。

江戸時代、大名の大小は、石高つまり領地で取れる米の量で表しました。石高の多い大名はそれだけ領民を養うことができたのです。石高は大名の力をも表していたのです。日本人は、この島国で長く長く米を食べて生きてきました。その過程で日本人独特の遺伝子が形成されてきたと信じています。最近、特に戦後になって食事の欧米化が進みました。動物性のたんぱく質をたくさん摂取するようになりました。それによって例えば大腸がんのような病気が増えたと指摘されています。またカロリーのとり過ぎによる糖尿病も増えました。

世界的に見ると米を中心とした和食の素晴らしさが盛んに言われているのに本家本元のわが国でそれが失われているのは残念で仕方ありません。米を食べなくても他に食べるものがたくさんあります。パン、うどん、そば、スパゲッテイなどがあります。それ自体はとても素晴らしいことだと考えます。しかし「日本人は、米を食べてきた民族である」ということを是非忘れないでいただきたいのです。そして米に感謝する毎日を過ごしてほしいと神主は願うのです。(千葉県長男町宮司・元NHKアナウンサー)

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