【宮田修 アナウンサー神主のため息】七五三に思う

宮田修

■歴史を振り返ると、七五三お参りには現代とは異なったもっと切実な側面を感じる

この時期になると神社の境内に両親や祖父母に連れられた小さな子どもたちの姿をたくさん目にすることができます。七五三のお参りです。晴着で着飾った子どもたちはふだんのわんぱくさとは違いこの日だけは神妙な面持ちです。実に微笑ましい風景です。少し大袈裟に言えば、平和だなと私は思ってしまいます。

七五三は、もちろんわが子の無事な成長と幸せを願う行事です。私たち神主がご神前で神さまに申し上げる祝詞の中にも「すくすくと生い立ち正しい国民になり、悪いことが起こらないようにお守りください。」とあります。両親をはじめ家族の願いを神主が代弁して神さまにお願いをしています。しかし、歴史を振り返ると、七五三お参りには現代とは異なったもっと切実な側面を感じるのです。

現在では生まれた子どもはそのほとんどが成人になることができます。今やそんなことは当たり前ですが、それは長い歴史の中ではごくごく最近のことです。そうですね、今から100年ぐらい前には多くの子どもが幼児の頃に命を落としていました。栄養状態が良くありませんでしたし、何より医学が進歩していませんでした。子どもたちはなかなか丈夫に育ってくれなかったのです。特に3歳まででは非常に死亡率が高かったのです。無事に3歳を迎えることができた時、それは大きな喜びでした。お祝いをし、神さまに感謝の気持ちを伝えるため神社にお参りをしたのです。心の底から神さまお守りいただきまして有難うございますとご神前で額ずいたに違いありません。

さらに7歳まで育つと一安心だったようです。それが証拠に7歳になるとようやく一人の人間として扱われました。それまでは人の子どもではなく神さまの子どもだとされていたのです。もし亡くなっても届け出る必要はなく、お葬式も簡単に済ませました。悲しいことです。逆に7歳になった時の喜びは一入です。神さまに無事に育った姿をお見せし、ご加護に感謝しました。子どもたちは住んでいる地域でも7歳になると一人前と認められました。神社でも正式な氏子になりました。私が宮司を務めている神社では地域全体で七五三のお祝いをしているところがあります。その神社は、疫病退散の神さまをお祀りしています。

病魔をやっつける天狗のお面が伝わっています。天狗で病気が治るかと言われそうですが、その昔、流行病で苦しむ子どもたちに何もしてやれない大人たちが止むに止まれず天狗の力を借りたいと考えたのでしょう。これも悲しい話です。天狗の面を見るたびに私は切ない気持ちになってしまうのです。現代に生きる我われは当時に人たちに比べれば幸せだと思います。しかし逆にその幸せに慣れてしまったせいか感謝する心を失っているのではないかと感じるのです。今この国で暮らしている人たちは祖先から命を引き継いだ人たちです。私たちの祖先はいつ命を失うかも知れない厳しい状況の中で必死に命を守り、今生きている我々に命をリレーしてくれました。ご先祖さまに有難うございますと感謝をしなければと私は思うのです。同時に今を生きる私たちは自分の命を子孫に伝えなくてはいけないと強く思うのです。幸せそうな七五三参りを見るとそう感じてしまいます。(宮田修=元、NHKアナウンサー、現在は千葉県長南町の宮司)

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