【編集長の視点】「大回り三年」の再スタートなら3年前の初動銘柄の証券株に年末相場の先取り妙味=浅妻昭治
このところ安倍晋三首相からお得意のフレーズの「アベノミクス」を聞かなくなった印象がある。「新3本の矢」などの新聞の見出しを見受けることも少なくなり、その代わりに幅を利かしているのが、「一億総活躍社会」というキャッチコピーで、担当の大臣ポストまで新設する力の入れようだ。「アベノミクス」もそろそろ賞味期限切れで、新しいカンバンに架け替えて目先に変化をつける時期にきているのかもしれないと勝手に想像している。
兜町の相場格言では「大回り三年」といわれている。どんな大相場でも、3年も続けば一丁上がりとなるとするアノマリー(経験則)である。「アベノミクス」も、今度の日曜日、11月14日でちょうど3年を経過したことになる。この3年前、2012年11月14日に何があったかといえば、当時の政権与党だった民主党の野田佳彦前首相と野党の自民党の安倍晋三総裁が党首討論を行い、その席で野田前首相が、11月16日の衆議院解散を明言したのである。
テレビ中継されたこの党首討論の光景は、いまでもはっきり思い出せる。野田前首相の解散発言に最も驚いていたのは、テレビ画面にクローズアップされた討論相手の安倍総裁自身であった印象で、野田前首相の持ち出した交換条件をすぐさま飲み込み合意に達した。「自爆」といわれた同年12月16日に投開票された衆議院総選挙では、自民党は大勝、民主党は惨敗を喫し、その後の参議院選挙の連勝も加わって自民党の「一強他弱」体制を構築、「何も決められない政治」から「何でも決められる政治」に大転換して「アベノミクス」がスタート、今年9月には国論を二分した集団的自衛権行使を容認する安全保障関連法案まで可決・成立させた。
さて「大回り三年」が一巡したとして、次の「大回り三年」は、どんな3年間になるのか?「来年の話をすると鬼が笑う」というから、まして3年後の日本や株式市場がどのような絵姿になっているのかは、容易には想像がつかないのは当たり前である。ただ来年、再来年の政治スケージュールだけは明確である。来年7月には参議院選挙があり、翌2017年4月には消費税が8%から10%に増税される。安全保障関連法案の強行採決などで内閣支持率が低下した安倍内閣にとって、この政治イベントをどうクリアするかが、政権の存続に大きく影響することになる。とすれば、株式市場にとってこの11月中旬以降の「大回り三年」の前半半分は、3年前の2012年11月の政治相場の再現となる可能性が高いとみて間違いない。
現に来夏の参議院選挙に関しては、すでに衆議院選挙を同時に実施するダブル選挙も観測され、安倍首相は、前週開催の官民対話では経済界に賃上げ継続と設備投資の上積みを強力プッシュして経済優先を鮮明化し、さらに前週末には補正予算編成や黒田東彦日銀総裁の追加金融緩和策発言なども伝わるなど選挙対策モードを濃くしている。選挙民全体に景気回復の実感が乏しく、そのうえ消費税が増税されるのでは、選挙を戦えないのは目に見えている。こうした政治プレッシャーは、株式相場にとってプラスに働くとみて間違いない。株高が進めば進むほど景気回復の実感が強まるからだ。11月14日に3年経過となる「大回り三年」のアベノミクスでも、唯一の成果は、株高による富裕消費の持ち直しといわれているから確かである。
折から新規株式公開(IPO)された日本郵政<6178>(東1)グループ3社は、好調に初値を形成し、さらに為替相場も12月15日~16日開催のFRB(米連邦準備制度理事会)のFOMC(公開市場委員会)で金利引き上げが予想されるとして円安・ドル高となっており、市場内外で株高賛成のセンチメントが高まることは明らかである。市場の一部では、日経平均株価の年内2万円台回復などの強気見通しも囁かれ始めており、11月中旬以降、年末の相場に向けてドドッと雪崩れ込む展開も想定される。
さて、この相場シナリオが実現されるとしたら、どの銘柄に投資対象を絞ればより良好なパフォーマンスが期待できるか?円安・ドル高なら輸出関連の主力株とするのが定石だろうが、ここで敢えて注目したいのが3年前の政治相場で先陣を切った初動銘柄である。当時の初動銘柄は、含み資産銘柄と証券株であったが、今回は、とくに日本郵政グループ3社のIPOがあって株式市場に初めて株式投資をする新規マネーが流入、好回転して滞留しているだけに、新規口座開設期待も高まる証券株に年末の「餅つき相場」を先取りしてアタックして妙味十分だろう。