【作家・吉田龍司の歴史に学ぶビジネス術】「環日本海経済圏」と日本神話(下)

 オオクニヌシ(大国主命)は出雲大社(島根県)の祭神であり、特に「因幡の素兎」神話でよく知られる神である。スサノオの子孫で、「国作り」を行って天下を治めたが、最後はアマテラスを中心とした高天原の神々に屈して国土を譲り、隠退した。中世以降は密教の神である大黒天と混同されて、大黒様、福の神として信仰を集めるようになった。

 オオクニヌシの神話には太古の環日本海経済圏、日本海文化圏を示す話が多い。

 もちろん神話や伝承は歴史そのものではないが、丹念に検証するといくばくかの史実がかいま見えてくる。

 代表的なものが越(北陸道の古称。高志国)のヌナカワヒメとのラブロマンスだ。出雲の王ヤチホコ(オオクニヌシの別名)がヌナカワヒメに求婚するため越に向い、互いに歌を詠みあって結ばれる、という話である。

 ヌナカワとは翡翠の川、つまり古代にヒスイの産地だった糸魚川の意味がある。ヌナカワヒメは糸魚川を守護する女神ということになる。

 ヒスイは勾玉や大珠などで珍重された縄文~古墳時代の宝物だ。『魏志倭人伝』には邪馬台国が魏に朝貢した記録もある。最大の産地だった糸魚川産ヒスイは九州、山陰・山陽から三内丸山遺跡(青森県)、北海道、さらには朝鮮半島にかけて幅広く出土しており、日本海に巨大な交易圏があったことを裏付けるものだ。

 オオクニヌシの神話からは婚姻による出雲と越の交易関係の締結、またはヒスイの権益を狙った出雲による越の平定、という解釈も成り立つ。

 他に日本海文化圏を示すものは「四隅突出型墳丘墓」という山陰特有の墳丘墓だ。弥生時代にタイムラグを挟んで北陸でも造られるようになった。まさに出雲から越への文化の伝播である。中国発祥の「鉄刀(素環頭鉄刀)」もこれらの地域で広く出土している。また出雲大社、三内丸山やチカモリ巨木遺跡(石川県)に見られる「巨木文化」もヤマト王権の文化には見られない、環日本海特有のものだ。

 各地方は対馬海流を利用した丸木舟による「海上の道」で結ばれ、沿岸のラグーン(潟湖。外海と遮断された浅い湖)が中継地、港として機能したのである。それはヤマトとは別の、独自の経済圏だったのである。

 さて、日本海の時代は再びやってくるか。日本経済がアメリカからアジアへシフトするというメインシナリオのもと、例えば天然資源に富む極東ロシアの発展、中国東北部の振興策といった好材料は確かにある。また、先日36年ぶりの労働党大会が発表された北朝鮮にも変化の兆しが見え始めた。まだまだ不透明な部分はあるのだが、今後の日本にとっては数少ない、夢が持てる成長市場であることは間違いない。

 テーマ的には地域的優位性がある、日本海側の港湾整備・海上土木が大きなものとなろう。いわゆるマリコン(マリンコンストラクター)である。こうしたインフラ関連を初め観光、物流など色々なテーマが出てくるだろう。他には例えば島根県の木工など地場産業の意外な有望性を唱える声もある。日本海の経済連携は、オオクニヌシの国作りを彷彿とさせる壮大な夢に満ち満ちている。

(作家=吉田龍司、『毛利元就』(新紀元社)、『信長のM&A、黒田官兵衛のビッグデータ』(宝島社)など著書多数)

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