負け組IPO株の「敗者復活戦」は「小さく産んで大きく育てる」投資セオリー通りに新年相場で本番か=浅妻昭治

<マーケットセンサー>

 今年2015年のIPO(新規株式公開)市場も、盛況のうちに幕を閉じた。社数は、昨年2014年の77社から92社へ拡大し、初値が公開価格を上回ったか下回ったかで計算する勝率も、昨年の約77%(59勝15敗3分け)から約89%(79勝8敗2分け)へ大きくアップした。その上にメガIPOの日本郵政<6178>(東1)グループ3社の「御用金相場」まで無事に消化したのだから、メデタシメデタシとなった。

 とくに日本郵政グループ3社のIPOは、1987年のNTT<9432>(東1)以来、28年ぶりの大型民営化案件として、これにより初めて証券会社の口座を開設して株式投資を始めた個人投資家も多い。「アベノミクス」の主軸の株高政策の「貯蓄から投資へ」、さらに景気対策としての「貯蓄から消費へ」の流れを加速させたことになる。産業界も、法人税減税と引き換えに「内部留保から設備投資へ」、「内部留保から賃上げへ」を強要されており、個人投資家も、同じく国民経済的役割の一端をになったわけだ。

 ただ個人投資家のなかには、「貯蓄から投資へ」ならぬ「貯蓄から投機へ」に巻き込まれ、敗北感に苛まれた向きも少なくないのではないかと心配になる。というのも、今年もまたIPO株は、初値を形成するまでの高人気と初値形成後のセカンダリーの人気離散との落差が大きかったからだ。IPO初日、2日目と買い気配値を切り上げたまま推移して、やっと公開価格の2倍、3倍の初値をつける高人気になったにもかかわらず、初値形成後は、今度はストップ安を交えて急落、初値の半値、3分の1などとなった銘柄も珍しくないからだ。

 現に、日本郵政グループ株の1社のかんぽ生命保険<7181>(東1)は、応募倍率が最も高く初値倍率も公開価格比33%と3社中トップとなり、2日目には上場来高値4120円まで急伸したが、その後のセカンダリーでは伸び悩み、前週末25日の終値3230円は、初値の2929円は上回っているものの、11月5日につけた上場来高値4120円には遠く及ばない。25日には、かんぽ生命の加入限度額を現行の1300万円から2000万円に引き上げられる報告書がまとめられたが、新年相場では、これを含めてさらにサプライズが続くかどうかで直近IPO株買いが再燃するか試すことになる。新年相場も、期待外れで再動意不発のなるようなら、投資マインドが悪化するばかりか、消費マインドも「貯蓄から節約へ」と後退し、アベノミクスは手痛いしっぺ返しを蒙らないとも限らない。

 以前からIPO株への投資セオリーは、「小さく産んで大きく育てる」といわれ続けてきた。この引き合いに必ず出されるのは、かつてベンチャー企業だったソニー<6758>(東1)とホンダ<7267>(東1)である。ただ、昨今のIPO株の初値形成時とセカンダリーとの株価乱高下に遭遇すると、そうした投資セオリーも有名無実化したと認めざるを得ない一面が拭えない。しかしである。IPO株と精査すると、株価乱高下のなかで、確かに「小さく生んで大きく育てる」IPO株が存在もしているのである。

 例えば、丸和運輸機関<9090>(東1)である。同社株は、昨年4月に公開価格3400円で東証第2部にIPOされ、初値は公開価格を下回る3100円でつける「負け組」となり「小さく産まれる」結果となった。しかし、その後は、昨年9月の株式分割(1対2)や今年4月の東証第1部指定替え、今年9月の2回目の株式分割(1対2)を経て、今年9月には3050円高値をつけ、2回の株式分割権利落ちを勘案すると、株価は、実質で公開価格比約4倍に大化へ、確かに「大きく育てる」結果となった。

 この丸和運輸機関の「敗者復活戦」を目の当たりにすると、「小さく産まれた」IPO株のなかから「第2の丸和運輸」をスクーリングする投資銘柄戦略が浮上することになる。「柳の下のドジョウ」を2匹も3匹も掴えられると期待したくなるのが投資家心理というものだ。対象銘柄は、昨年・今年合計のIPO株169銘柄のうち、初値が公開価格を下回った負け銘柄23銘柄、引き分け銘柄5銘柄、さらに低初値倍率銘柄で、投資戦略の成否は、各投資家の選球眼次第なのはいうまでもない。今年の正月休みは短期間となるが、例年、IPOは2~3月までは休止となって端境期となるだけに、新年相場に向けて焦点を絞って取り組んでみるのも一法だろう。(本紙編集長・浅妻昭治)

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