【アナリスト水田雅展の銘柄分析】サンバイオは底値圏から反発基調、再生細胞薬「SB623」の開発目指す

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 サンバイオ<4592>(東マ)は、日本発・世界初の再生細胞薬の開発を目指す創薬ベンチャーで、再生細胞薬「SB623」の超大型新薬としての期待感は強い。15年12月には慢性期脳梗塞治療剤として開発中の「SB623」について、北米におけるフェーズ2b臨床試験の被験者募集開始を発表した。900円近辺の底値圏から反発基調に変化はなく出直り展開だろう。

■脳神経分野で日本発・世界初の再生細胞薬の開発を目指す

 01年2月米国サンバイオ設立、13年2月日本法人サンバイオ設立、14年1月日米親子逆転の企業再編を実施、15年4月東証マザーズに新規上場した。

 脳神経に係る疾患(眼科含む)分野で、慢性期脳梗塞(発症後6ヶ月経過した脳梗塞)、外傷性脳損傷、加齢黄斑変性、パーキンソン病、脊髄損傷、アルツハイマー病など、アンメットメディカルニーズ(未だ有効な治療法がない治療ニーズ)を充たす再生細胞薬の開発・販売を目指している。

 再生医療とは損傷を受けた生体の機能を、幹細胞などを用いて復元または活性化させる医療である。そして再生細胞薬は、病気・事故等で失われた身体機能の自然な再生プロセスを誘引ないし促進させ、運動機能・感覚機能・認知機能を再生させる効能が期待される医薬品である。従来なし得なかった根治治療を可能にする。

 日本発・世界初の再生細胞薬という全く新しい分野の創出と、同分野でのグローバルリーダーを目指して、01年2月に米国カリフォルニア州のシリコンバレーで米国サンバイオを創業した。創業科学者は脳神経領域の再生医療・iPS研究で世界第一人者の慶応義塾大学の岡野栄之教授で、主な提携研究機関は米スタンフォード大学、米ピッツバーグ大学、米ノースウェスタン大学である。

 その後、日本で13年5月公布「再生医療推進法」の理念のもとで、14年11月に「医薬品医療機器等法(旧薬事法の改正)」および「再生医療等安全性確保法」の再生医療関連2法が施行された。これによって日本が再生医療において、世界で最も早く製品認可を取得できる事業環境となった。

 このため日本市場での展開も視野に入れて、14年1月に日本法人サンバイオを親会社、米国サンバイオを子会社とする日米親子逆転の企業再編を実施して日本を中心とした経営体制に移行した。

■神経再生作用を持つ再生細胞薬「SB623」

 14年には米国において慢性期脳梗塞を適用疾患とする再生細胞薬「SB623」のフェーズ1・2a臨床試験が終了した。再生細胞薬「SB623」は神経再生作用を持つ細胞からなる医薬品である。これまで全く治療薬の無かった慢性期脳梗塞という疾患で、再生細胞薬「SB623」のヒトでの安全性・有効性が確認され、14年6月に米国FDA(食品医薬品局)からフェーズ2b臨床試験開始の承認を取得した。

 一般的に再生医療は、自家移植(患者の細胞を採取・調整して再度患者本人に戻す形態の治療法)と、他家移植に分けられる。自家移植の場合は細胞の均質性が低い、量産化を目的としていない、費用が高額化するなど、実用化に当たっての課題が指摘されている。

 これに対して再生細胞薬「SB623」は他家移植による均質の細胞を量産化した医薬品で、量産化して同一の製品で多くの患者を治療できるメリットがある。健康なドナー(細胞提供者)から骨髄液を採取し、大量に培養して均質な製品を製造する。これを凍結保存して輸送し、融解して患者に投与(定位脳手術により細胞を脳内に直接移植)する。投与は局所麻酔で翌日退院も可能である。量産技術が確立されているため、従来の製薬企業モデルを適用でき収益性も高い。

■マイルストン収入などを得るビジネスモデル

 再生細胞薬「SB623」はグループにおいて基礎段階から研究開発を行ってきた独自製品のため、上市後の製品供給権を保有している。当社グループが非臨床試験・臨床試験などを実施し、安全性と有効性を確認する段階まで開発を進めたうえで、医薬品の販売網を有するパートナー製薬会社に開発権および販売権をライセンス許諾する。

 開発段階では契約一時金収入、開発マイルストン収入、開発協力金収入、上市後は製品売上高に比例したロイヤルティ収入、製品供給収入、販売マイルストン収入を得るビジネスモデルだ。

 そして再生細胞薬「SB623」の慢性期脳梗塞を適用疾患として、09年10月帝人<3401>に日本における開発・販売権のライセンス許諾、14年9月大日本住友製薬<4506>に米国およびカナダにおける開発・販売権のライセンス許諾契約を締結した。

 大日本住友製薬との契約に基づくシミュレーションでは、フェーズ1~3の研究開発段階で合計40百万ドルの収入(契約一時金および開発段階ごとのマイルストン収入)を得る。そして上市後は販売マイルストン収入、ロイヤルティ収入、および製品供給収入(定額単価×供給量)を得る。

■慢性期脳梗塞を対象に米国でフェーズ2b臨床試験の被験者募集開始

 再生細胞薬「SB623」は慢性期外傷性脳損傷プログラムも動物試験を済ませ、フェーズ2臨床試験の開始準備段階にある。15年7月には再生細胞薬「SB623」に関して、日本における慢性期外傷性脳損傷プログラムの製造販売承認に向けた開発に本格着手することを決定した。

 15年10月には外傷性脳損傷(TBI)治療剤として開発中の再生細胞薬「SB623」について、北米におけるフェーズ2臨床試験の被験者募集開始を発表した。臨床有効性と安全性の評価を目的として、米国の約20ヶ所の医療機関で実施され、登録被験者数は52名に達する見込みとしている。

 12月21日には慢性期脳梗塞治療剤として開発中の再生細胞薬「SB623」について、北米におけるフェーズ2b臨床試験の被験者募集開始を発表した。米国の約60施設において、慢性期脳梗塞患者156例を対象に安全性および有効性を検討する。

■16年1月期はフェーズ2b臨床試験開始で費用増加

 今期(16年1月期)第3四半期累計(2月~10月)の連結業績は、事業収益が前年同期比64.8%減の10億99百万円、営業利益が5億66百万円の赤字(前年同期は24億11百万円の黒字)、経常利益が6億08百万円の赤字(同24億03百万円の黒字)、純利益が4億70百万円の赤字(同19億13百万円の黒字)だった。

 通期の連結業績予想(9月14日に事業収益を減額、利益を増額)は、事業収益が前期比43.2%減の18億35百万円、営業利益が8億55百万円の赤字(前期は22億48百万円の利益)、経常利益が8億38百万円の赤字(同22億28百万円の利益)、純利益が7億44百万円の赤字(同17億36百万円の利益)としている。脳梗塞用途フェーズ2b臨床試験(米国)および外傷性脳損傷用途フェーズ2臨床試験(米国)開始に伴う費用の増加で各利益とも赤字見込みだ。

 期初計画との比較で見ると、事業収益では、大日本住友製薬との共同開発に伴う開発協力金収入(当社グループが負担する開発費総額の50%相当額)および開発マイルストン収入(フェーズ2開始時10百万ドル)を見込むが、計上タイミングの見直しなどで期初計画を下回る。

 利益面では、日本における外傷性脳損傷用途の臨床試験を新たに織り込んで追加費用64百万円が発生するが、開始準備中の脳梗塞用途フェーズ2b臨床試験(米国)および外傷性脳損傷用途フェーズ2臨床試験(米国)にかかる費用発生時期を、臨床試験開始後の来期(17年1月期)に重点的に発生する見通しに変更したため、費用見込みが期初計画に比べて5億48百万円減少し、各利益とも期初計画に比べて赤字幅が縮小する。

 なお米国子会社を主たる研究開発拠点としているため、事業収益および費用の多くは米ドル建てとなる。修正後の想定為替レートは通期1米ドル=122円87銭(下期想定1米ドル=125円)としている。

■「SB623」適用拡大も推進して超大型新薬への期待高まる

 当社グループが手掛ける再生細胞薬は、世界的に旧来の治療では対応できなかった中枢神経系領域の疾患を対象としているため対象患者数が極めて多く、たとえば脳卒中(脳梗塞を含む)の患者数は日本では約123万人、米国では約680万人と推計され、このうち一定割合が慢性期脳梗塞の患者と見込まれている。

 今後は「SB623」の適用疾患を慢性期脳梗塞から、外傷性脳損傷、加齢黄斑変性(ドライ型)、網膜色素変性、パーキンソン病、脊髄損傷、アルツハイマー病に広げる。慢性期脳梗塞用途の臨床試験において安全性が確認されたため、外傷性脳損傷用途についてはフェーズ2から臨床試験を開始する。

 そして「SB623」の慢性期脳梗塞用途の他地域(欧州など)での開発・販売権、外傷性脳損傷・その他用途の開発・販売権について、パートナー製薬会社との提携を検討していく方針だ。

 さらに新薬候補として、末梢神経障害を適用疾患とする「SB618」や筋ジストロフィーを適用疾患とする「SB308」の研究開発も推進する。なお再生細胞薬「SB623」「SB618」「SB308」については、米国、日本、欧州、中国、カナダ、オーストラリアなど世界の主要国で基本特許を自社保有しているため、他社へのロイヤルティ支払は不要である。

 大日本住友製薬は20年に「SB623」の上市を目指している。米国での脳卒中(脳梗塞を含む)患者数約680万人のうち5%を取り込み、販売額を保守的に想定しても1兆円規模の売上高が試算されている。当面の収益は費用が先行するが、超大型新薬に育つことが期待される。

■株価は底値圏から反発基調

 株価の動きを見ると、12月16日の戻り高値1295円から反落したが、8月の上場来安値855円まで下押すことなく、12月25日の直近安値933円から切り返して1000円台を回復した。底値圏から反発基調に変化はないようだ。

 1月6日の終値は1065円で、時価総額は約475億円である。週足チャートで見ると一旦割り込んだ13週移動平均線を素早く回復し、さらに26週移動平均線突破の動きを強めている。再生細胞薬「SB623」の超大型新薬としての期待感は強い。900円近辺の底値圏から反発基調に変化はなく出直り展開だろう。

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