【アナリスト水田雅展の銘柄診断】テラは樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の薬事承認取得を目指す

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 テラ<2191>(JQS)は、樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の薬事承認を目指す東京大学発バイオベンチャーで、16年の治験届提出を目指している。16年12月期は費用先行で赤字継続だが、薬事承認取得に向けた開発進展や先端医療周辺事業への積極展開で中期成長期待が高まる。株価は地合い悪化も影響して安値圏だが切り返しの動きを強めている。調整が一巡して出直り展開だろう。

■独自開発のがん治療技術を医療機関に提供

 東京大学医科学研究所発バイオベンチャーである。樹状細胞ワクチン「バクセル」を中心とした独自開発がん治療技術「樹状細胞ワクチン療法」を契約医療機関に提供する細胞医療事業を主力として、医療支援事業(研究機関・医療機関から受託する細胞加工施設の運営・保守管理サービス、細胞培養関連機器の販売、治験支援サービスなど)、および樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の薬事承認取得を目指す医薬品事業を展開している。

 主力の細胞医療事業は契約医療機関における症例数に応じた収入が収益柱である。15年12月期末時点の契約医療機関数は全国37ヶ所(内訳は基盤提携11ヶ所、提携7ヶ所、連携19ヶ所)で、契約医療機関における当社設立以降の累計症例数は約1万100症例である。

 15年9月には、樹状細胞ワクチン療法の技術・ノウハウを提供している福島県立医科大学付属病院が「WT1ペプチドを用いた樹状細胞ワクチン療法」を胃がん、食道がん、肺がんを対象に先進医療として治療を開始した。15年12月には、契約医療機関である医療法人社団愛友会上尾中央総合病院において、樹状細胞ワクチン療法の提供が開始された。

 なお2月12日に、学校法人金沢医科大学との提携契約締結を発表した。北陸地方では初めての契約医療機関となる。また一般財団法人メディポリス医学研究財団メディポリス東京クリニックとの連携契約締結を発表した。いずれも樹状細胞ワクチン療法の技術・ノウハウの提供を開始する。この契約により、全国の連携医療機関は合計20ヶ所、契約医療機関は合計39ヶ所となった。

■樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の薬事承認取得を目指す

 樹状細胞ワクチン療法(がん治療)は、患者自身の免疫細胞を用いることによってがん細胞を狙い撃ちするように進化させた最先端のがん免疫細胞療法として注目されている。10年には米国で前立腺がんに対する樹状細胞ワクチン療法による延命効果が証明され、樹状細胞ワクチンが認可された。

 樹状細胞(体内に侵入した異物を攻撃する役割を持つリンパ球に対して、攻撃指令を与える司令塔のような細胞)を体外で大量に培養し、患者のがん組織や人工的に作製したがんの目印である物質(がん抗原)の特徴を認識させて体内に戻すことで、樹状細胞からリンパ球にがんの特徴を伝達し、そのリンパ球にがん細胞のみを狙って攻撃させようというのが樹状細胞ワクチンである。

 当社は独自技術で改良を重ね、がんの目印にWT1ペプチド(当社が独占実施権を保有)を用いる樹状細胞ワクチン「バクセル」を、がん治療用として最適化した。そして14年1月に子会社テラファーマを設立し、樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の薬事承認取得を目指している。

 日本では13年5月に公布された「再生医療推進法」の理念のもと、14年11月に「医薬品医療機器等法(旧薬事法改正)」および「再生医療等安全性確保法」の再生医療関連2法が施行された。そして再生医療・細胞医療の早期実用化の促進が期待されている。

 樹状細胞ワクチン療法(がん治療)は「医薬品医療機器等法」に基づいて、がん治療用再生医療等製品として早期承認制度を活用して薬事承認を取得する方針だ。開発体制整備を強化して16年の治験届提出を目指している。

 15年3月には再生医療・細胞医療の要素技術である免疫細胞用凍結保存液の製造・販売に関する独占的通常実施権を取得した。樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の薬事承認取得を目指す子会社テラファーマに再実施権を許諾し、樹状細胞ワクチン「バクセル」を搬送する際に用いる凍結保存液の実用化を図り、薬事承認取得に向けた準備を加速させる。

 15年4月には、11年1月から進行膵臓がんを対象として慶應義塾大学医学部と共同研究を進めてきた、抗がん剤を併用したWTIペプチドを用いた樹状細胞ワクチン療法(がん治療)第1相臨床研究結果を発表した。

 また15年11月には、進行膵臓がんおよび進行胆道がんを対象として東京慈恵会医科大学附属柏病院と共同で進めてきた、抗がん剤を併用した樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の安全性ならびに有効性を評価するための第1相臨床研究において、治療前後の測定データを解析し予後予測因子の探索を行った結果が論文発表された。

■中期成長に向けて先端医療周辺事業に積極展開

 中期成長に向けて先端医療周辺事業への展開も積極的に推進している。13年5月がん新薬を中心としたCRO(治験支援)事業に参入するため子会社タイタンを設立、14年2月ゲノム診断支援事業に向けてゲノム解析ソフトウェア開発のジナリスと合弁子会社ジェノサイファー(14年9月オールジーンに商号変更)を設立、14年8月少額短期保険業者のミニンシュラーを子会社化(14年12月テラ少額短期保険に商号変更)して保険事業(免疫保険)に参入した。

 15年3月には、一部契約医療機関において10年後、20年後のがん治療に備えるための「免疫細胞バンク」サービスを15年4月以降に開始すると発表した。アフェレーシス(成分採血)で単球を採取して樹状細胞に成熟させ、樹状細胞ワクチンの状態で凍結保管する。がんに罹患した場合に、健康な時に作成した樹状細胞ワクチンを用いて治療を行うことが可能になる。

 15年10月には、がんをはじめとする疾病の早期診断・早期予防等を実現する独自の技術プラットフォームを開発する新会社karydo TherapeutiX社(15年10月設立)に資本参加した。先端医療周辺事業への展開の一環として早期診断・早期予防関連事業に参入する。なお出資比率は49%で同社は持分法適用関連会社となる。

■アライアンス戦略も積極活用

 アライアンス戦略も積極活用している。13年4月iPS細胞による再生医療実用化を目指すヘリオス<4593>に出資、13年7月アンジェスMG<4563>と子宮頸がんの前がん病変治療ワクチンの共同研究・開発基本契約を締結、13年12月iPS細胞を利用したがん免疫細胞療法の開発に向けてヘリオスと業務提携、14年4月組織培養用培地のパイオニアであるコージンバイオに出資して資本業務提携した。

 15年5月には子会社オールジーンが、ハウステンボス「健康と美の王国」に先制医療のための新サービス「プリエンプティトータルチェック&ケア」の提供を開始した。遺伝子、腸内細菌バランス、免疫細胞活性の検査など5つのサービスがあり、自分の身体の状態を知ることで食生活や生活習慣の改善に活用することが可能となる。

 15年6月には、当社が参画している一般社団法人再生医療イノベーションフォーラムが15年4月設立した再生医療産業化拠点実証タスクフォース(RMIT)に参画して活動を支援すると発表した。

 15年7月には東京慈恵会医科大学悪性腫瘍治療研究部との共同研究契約締結を発表した。医薬品等を汚染するエンドトキシン等の発熱性物質の検出法を開発するための、ヒトiPS細胞由来樹状細胞の樹立に関する研究を開始する。

■15年12月期は赤字拡大、減損損失増加も影響

 2月9日に発表した前期(15年12月期)の連結業績は、売上高が前々期(14年12月期)比2.3%増の19億09百万円で、営業利益が6億01百万円の赤字(前々期は2億93百万円の赤字)、経常利益が6億23百万円の赤字(同3億30百万円の赤字)、純利益が9億90百万円の赤字(同4億02百万円の赤字)だった。症例数の減少、一部連結子会社の立ち上げ、承認取得に向けた開発費用の増加、特別損失の計上などで赤字が拡大した。

 セグメント別に見ると、細胞医療事業は樹状細胞ワクチン療法の症例数が前々期に比べて減少したため売上高が同6.7%減の10億33百万円、営業利益が2億13百万円の赤字(前々期は1億71百万円の赤字)だった。なお症例数は第4四半期が約290症例、通期では約1180症例、会社設立以降の累計では約1万100症例となった。

 医療支援事業は、細胞培養関連装置の販売が増加して売上高が同15.0%増の9億73百万円だったが、一部の連結会社が立ち上げフェーズにあるため営業利益が2億57百万円の赤字(前々期は34百万円の赤字)だった。医薬品事業は、売上高が細胞保存溶液の販売を開始して41百万円だが、営業利益は承認取得に向けた開発費用が増加して1億22百万円の赤字(同85百万円の赤字)だった。

 なお前回予想(8月7日に減額修正)との比較で見ると、売上高は36百万円下回ったが、営業利益は80百万円、経常利益は88百万円、それぞれ赤字が縮小した。純利益については特別損失に減損損失2億24百万円、および投資有価証券評価損1億55百万円計上したため、前回予想に対して赤字が2億63百万円拡大した。

 四半期別業績推移を見ると、売上高は第1四半期(1月~3月)6億40百万円、第2四半期(4月~6月)4億52百万円、第3四半期(7月~9月)3億87百万円、第4四半期(10月~12月)4億30百万円、営業利益は第1四半期84百万円の赤字、第2四半期1億45百万円の赤字、第3四半期1億77百万円の赤字、第4四半期1億95百万円の赤字だった。

■16年12月期も薬事承認取得に向けた費用継続だが、赤字は縮小予想

 今期(16年12月期)の連結業績予想(2月9日公表)については、売上高が前期比7.5%増の20億52百万円、営業利益が3億16百万円の赤字(前期は6億01百万円の赤字)、経常利益が3億16百万円の赤字(同6億23百万円の赤字)、純利益が3億49百万円の赤字(同9億90百万円の赤字)としている。

 細胞医療事業において、新規医療機関等取引先の拡大、治療ラインナップの拡充、先進医療に関わる支援、海外患者のインバウンド受入拡大などを積極的に展開し、成長を加速させる新たなアライアンスを推進する。医療支援事業においては、細胞培養関連装置などの機器販売、および少額短期保険商品の販売を拡大する。樹状細胞ワクチン療法(がん治療)薬事承認取得に向けた費用が継続するが、家賃など固定費削減効果や、広告宣伝費など変動費の費用選別効果で、赤字幅は縮小する予想だ。

 樹状細胞ワクチン療法(がん治療)については16年治験届提出を目指している。薬事承認取得に向けた開発の進展と中期成長に対する期待が高まる。

■継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと判断

 なお当社は、がん治療技術やノウハウなどの研究開発・医療支援サービスに関わる費用が収益に先行して発生するなどの理由から、継続的に営業損失が発生しており、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在している。

 しかし、15年12月期末の資金残高の状況、および今後の資金繰りを検討した結果、当面は事業活動の継続性に懸念はなく、今後の運転資金も十分に確保できているため、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないものと判断している。

 また当該状況の解消を図るべく、グループ経営体制の効率化と投資および営業費用を最小限に抑えつつ、営業面と技術面において医療機関やグループ会社との連携促進を進め、16年12月期から17年12月期の2年間において、当社グループ連結ベースで黒字化することを目指している。

■株価は安値圏から切り返し

 株価の動きを見ると、地合い悪化も影響して2月12日に12年9月475円以来の安値水準となる498円まで調整したが、その後は切り返しの動きを強めている。18日と19日には654円まで戻した。調整が一巡したようだ。

 なお2月19日の終値は650円で、時価総額は約91億円である。週足チャートで見ると13週移動平均線を割り込んで調整局面だが、日足チャートで見ると25日移動平均線突破の動きを強めている。調整が一巡して出直り展開だろう。

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