【アナリスト水田雅展の銘柄診断】アイリッジは16年7月期利益減額だが、積極的な先行投資で中期成長シナリオに変化なし

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 アイリッジ<3917>(東マ)はスマートフォンをプラットフォームとして、企業のO2Oマーケティングを支援するO2Oソリューション事業を主力としている。3月1日に16年7月期利益予想を減額したが、人材採用など積極的な先行投資費用増加が主因であり、中期成長シナリオに変化はないだろう。フィンテック関連も注目テーマだ。株価は地合い悪化の影響を受けた2月安値から切り返している。利益減額を一時的に嫌気する場面があっても戻り歩調に変化はないだろう。なお3月11日に第2四半期累計(8月~1月)の業績発表を予定している。

■O2Oソリューション事業が主力

 08年8月モバイル関連ビジネスを主たる事業目的として設立、09年11月携帯電話待ち受け画面にポップアップで情報配信するフィーチャーフォン対応popinfo(ポップインフォ)提供開始、10年2月popinfoに配信エリア設定可能なGPS配信機能を搭載、10年7月スマートフォン対応popinfo提供開始、15年7月東証マザーズに新規上場した。15年7月末時点の従業員数は32人である。

 自社開発O2Oソリューション(組み込み型プログラム)である位置情報連動型プッシュ通知ASPのpopinfo提供をコアサービスとして、popinfoを搭載したO2Oアプリの企画・開発、さらに集客・販促を中心としたO2Oマーケティング企画・運用支援の提供まで、企業のO2Oマーケティングを支援するO2Oソリューション事業を包括的に展開している。

 O2O(オンライン to オフライン)とは、消費者にオンライン(webサイトやアプリ)を通じて各種情報を提供し、オフライン(実店舗)への集客や販売促進に繋げるマーケティング手法である。

 位置情報連動型プッシュ通知ASPのpopinfoは、企業や店舗のスマートフォンアプリに組み込み、アプリユーザーのスマートフォン待ち受け画面に、伝えたい商品・イベント・クーポンなどの情報やメッセージをプッシュ通知によって配信できるO2Oソリューションである。そして「位置情報×属性情報×時間」を組み合わせて指定した場所・人・時間帯で配信が可能なため、たとえばアプリユーザーが実店舗指定エリアに接近するとイベント・セール・タイムサービスの情報を配信するなど、実店舗への誘導・集客や販売促進に高い効果を発揮する。

■ストック型ビジネスモデル、導入アプリ数・利用ユーザー数は増加基調

 収益は、アプリ利用ユーザー数に応じた従量課金型の月額報酬(popinfoサービスのライセンス収入)、およびアプリ開発・コンサル等(popinfoを組み込んだO2Oアプリ開発に係る収入、O2O促進マーケティングに係る収入)である。導入企業数の増加と利用ユーザー数の増加に伴って収益が積み上がるストック型ビジネスモデルだ。

 そしてO2Oやオムニチャネル化の進展とともに、popinfo導入アプリ数およびアプリ利用ユーザー数とも増加基調である。

 15年10月現在でGU(ジーユー)、三井ショッピングパーク、三菱東京UFJ銀行、三井住友カード、阪急阪神、東急電鉄、トリンプ、トヨタカローラ神奈川などの大手企業に採用され、小売・流通、金融、交通など業種を問わず大手企業を中心に、popinfo導入アプリ数は300アプリ(導入社数ベースでは100社弱のもよう)を超えている。最近では金利情報や地域イベント情報を配信するために、地銀の導入が増加しているようだ。当社の第3位株主であるNTTデータ<9613>経由の導入も増加している。

 またpopinfo利用ユーザー数(プッシュ通知の配信に同意しているユーザー数、アプリごとにカウント)は、14年1月1000万ユーザーを突破、15年3月2000万ユーザーを突破、15年9月2500万ユーザーを突破、そして16年1月3000万ユーザーを突破した。16年1月末時点では3133万ユーザーに達している。

■スマートフォンの普及も追い風として急成長

 15年10月には、有限責任監査法人トーマツが発表したTMT(テクノロジー・メディア・テレコミュニケーション)業界の収益(売上高)成長率ランキングである第13回「デロイト トウシュ トーマツ リミテッド 日本テクノロジー Fast50」において、直近4年間の売上高成長率763.69%を記録し、50位中5位を受賞した。

 15年12月には、デロイト トウシュ トーマツ リミテッドが発表したTMT業界の収益(売上高)成長率ランキングである第14回「アジア太平洋地域テクノロジーFast500」において、直近3決算期の成長率190%を記録し、500位中233位を受賞した。

 当社の成長要因として、外部要因ではスマートフォンの普及とともにスマートフォンを活用した企業のマーケティング活動が活発化していること、内部要因としてO2Oアプリ開発・リリース後も「新店舗オープンや季節イベントなどに応じたアプリ内企画」「利便性向上や機能追加」などに継続的に取り組んでいることがあげられる。O2O関連の技術面だけでなく、集客・販売促進の企画ノウハウも蓄積して、O2Oソリューションを包括的に展開していることが強みだ。

 さらなる成長に向けて、顧客層拡大(大手企業への深堀、中堅企業への拡大)とサービスラインナップ拡充に取り組み、積極的な人材採用やサービス開発も継続している。サービスラインナップ拡充ではpopinfoの情報配信機能を軸として、アナリティクス機能、クーポン機能、ポイント管理機能、iBeaconを用いた来店検知機能、ゲーム機能、アプリ決済機能などの機能改善・拡充に取り組んでいる。

 より効果的なO2Oマーケティングを実現するため、ビッグデータ解析の活用によって従来よりも精度の高いターゲティング機能の整備を図る、ポイント残高管理機能を強化するなど、従来の集客・販売促進だけでなくターゲティングや決済までを網羅する方針だ。

 海外展開については、アジア圏からの訪日旅行客をターゲットとして日本の店舗への集客をサポートするインバウンド対応とともに、パートナーとのアライアンスによって中国・東南アジア市場に進出する方針だ。

■中期成長に向けて「フィンテックとO2Oの融合」も推進

 15年12月にはテックビューロ(大阪市)と業務提携した。テックビューロの国内唯一のプライベート・ブロックチェーン技術「mijin」を利用することで、高いセキュリティと効率の良いアプリ開発が可能になるため、当社の位置連動ソリューションであるpopinfoを組み合わせて、フィンテックとO2Oを融合し、信頼性の高いフィンテック関連スマートフォン用アプリの共同開発を開始する。

■15年7月期大幅増益

 15年7月期は14年7月期比55.5%増収、同4.0倍営業増益、同3.9倍経常増益、同4.1倍最終増益の大幅増収増益だった。サービス別売上高は、月額報酬がユーザー数増加で同54.5%増の1億90百万円、アプリ開発・コンサル等が新規取引先開拓で同63.2%増の5億52百万円、その他が同86.9%減の2百万円だった。15年7月末時点の利用ユーザー数は同1027万人増加の2403万人だった。アプリ開発・コンサル等売上高のうち既存取引先は約6割、新規取引先は約4割だった。

 売上総利益率は41.1%で同0.3ポイント低下、販管費比率は26.6%で同9.1ポイント低下、売上高営業利益率は14.5%で同8.8ポイント上昇、ROEは12.2%で同7.0ポイント上昇、自己資本比率は82.4%で同0.4ポイント上昇した。配当は無配を継続した。

 四半期別売上高の推移は、第1四半期(8月~10月)1億20百万円、第2四半期(11月~1月)1億54百万円、第3四半期(2月~4月)2億56百万円、第4四半期(5月~7月)2億13百万円だった。多くの取引先の決算月(3月)を含む第3四半期(2月~4月)の構成比が高くなる傾向があるとしている。

 16年7月期第1四半期は大幅増収増益、利用ユーザー数も開発も増加基調

 今期(16年7月期)第1四半期(8月~10月)の非連結業績は、売上高が2億29百万円、営業利益が10百万円、経常利益が10百万円、純利益が5百万円だった。前年同期は四半期連結財務諸表を作成していないため単純比較はできないが、会社資料によると前年同期との比較で売上高が91.1%増収、営業利益が2.1倍増益、経常利益が2.1倍増益、純利益が66.5%増益だった。

 サービス別売上高は、月額報酬がユーザー数増加で前年同期比60.1%増の62百万円、アプリ開発・コンサル等が既存取引先との取引拡大や新規取引先の開拓で同2.1倍の1億66百万円だった。15年10月末の利用ユーザー数は2686万人(14年10月末比1071万人増加、15年7月末比283万人増加)だった。アプリ開発・コンサル等売上高で既存取引先は8割強、新規取引先は2割弱だった。

 売上総利益率は34.0%で同8.2ポイント低下、販管費比率は29.5%で同8.7ポイント低下、売上高営業利益率は4.5%で同0.4ポイント上昇した。サービスラインナップ拡充への取り組みに係る先行費用や、通常案件とは異なる案件受注の影響などで、原価人件費や外注費が増加して売上総利益率が低下した。アプリ案件の大型化に伴って開発期間が長期化しているため、第1四半期および第2四半期は設計・コンサル段階の案件が増加していることも売上総利益率低下の一因となっているようだ。ただし増収効果で販管費比率が低下し、売上高営業利益率は上昇した。

 なお前四半期の15年7月期第4四半期(5月~7月)との比較で見ると、売上高は7.6%増収だが、営業利益は45.8%減益、経常利益は45.4%減益、純利益は62.9%減益だった。原価人件費や外注費の増加が影響した。

■16年7月期利益予想を減額修正、先行投資負担だが大幅増収基調に変化なし

 3月1日に今期(16年7月期)第2四半期累計(8月~1月)および通期の非連結業績予想の修正(売上高を増額、利益を減額)を発表した。中期成長に向けた積極的な人材採用やサービス開発などの先行投資を継続しているため、採用費、人件費、自社サービス開発費などが計画以上に増加する。ただし売上は順調であり、通期ベースで増収増益を維持する。

 第2四半期累計については、前回予想(9月11日公表)に対して売上高を14百万円増額、営業利益を33百万円減額、経常利益を33百万円減額、純利益を23百万円減額した。修正後の第2四半期累計の非連結業績予想売上高が4億91百万円、営業利益が20百万円、経常利益が20百万円、純利益が12百万円となる。人員体制(15年7月期末32名)は16年7月期末で48名の計画としていたが、第2四半期末時点で48名体制となった。人材を投入してサービス開発の内製化を進めている。

 通期については、前回予想(9月11日公表)に対して売上高を14百万円増額、営業利益を80百万円減額、経常利益を80百万円減額、純利益を53百万円減額した。修正後の通期非連結業績予想は、売上高が前期比49.6%増の11億14百万円、営業利益が同11.5%増の1億20百万円、経常利益が同11.1%増の1億20百万円、純利益が同10.6%増の80百万円とした。配当予想は無配継続としている。

 第2四半期時点で当初計画の期末人員体制を達成しているが、サービス開発の内製化による売上総利益率改善に向けて積極的な人材採用を継続するため、採用費、人件費、開発費といった先行投資費用が期初計画以上に増加する。このため利益を減額修正した。ただし通期ベースで増益予想を維持している。売上面では月額報酬はユーザー数の順調な増加、アプリ開発・コンサル等は既存取引先との取引拡大や新規取引先の開拓で、大幅増収基調に変化はないようだ。

■株価は調整一巡して戻り歩調

 株価の動きを見ると、地合い悪化の影響で水準を切り下げたが、2月12日の上場来安値2647円から切り返した。そして2月25日には4130円まで上伸した。調整が一巡して戻り歩調の形だ。

 3月1日の終値3885円を指標面で見ると、今期予想PER(会社予想のEPS29円14銭で算出)は133倍近辺、実績PBR(前期実績のBPS289円82銭で算出)は13倍近辺である。時価総額は約107億円である。

 日足チャートで見ると25日移動平均線を突破した。週足チャートで見ると2月安値圏から反発し、陽線を立てて13週移動平均線に接近している。3月1日発表の利益減額修正を一時的に嫌気する場面があっても、中期成長力を評価して戻り歩調に変化はないだろう。

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