【アナリスト水田雅展の銘柄診断】生化学工業は調整一巡して戻り歩調、16年3月期業績予想は増額余地

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 生化学工業<4548>(東1)は糖質科学分野に焦点を絞り、関節機能改善剤アルツが主力の医薬品メーカーである。16年3月期業績予想には増額余地がありそうだ。株価はアルツの適応症追加の開発中止を嫌気する場面があったが、調整が一巡して下値を切り上げている。戻り歩調の展開だろう。

■関節機能改善剤アルツなど糖質科学分野が主力の医薬品メーカー

 糖質科学分野が主力の医薬品メーカーで、国内医薬品(関節機能改善剤アルツ、白内障手術補助剤オペガン、内視鏡用粘膜下注入材ムコアップ)、海外医薬品(米国向け関節機能改善剤スパルツ、米国向け単回投与関節機能改善剤ジェル・ワン、中国向けアルツ)、医薬品原体(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸)、LAL事業(エンドトキシン測定用試薬関連)を展開している。高齢者人口増加を背景に関節機能改善剤の需要拡大が期待される。

 なお3月10日に内視鏡用粘膜下注入材ムコアップの販売提携先変更を発表した。ジョンソン・エンド・ジョンソンのメディカルカンパニー(東京都)との独占販売契約を、16年3月31日をもって契約期間満了により終了する。そして新たにボストン・サイエンティフィック・ジャパン(東京都)と日本国内における独占販売契約を16年4月1日に締結する。ボストン・サイエンティフィックのエンドスコピー事業は、消化器疾患ならびに肺疾患治療用機器の世界的リーダーである。

 生産面では15年1月にアルツディスポ新製剤設備(高萩工場第5製剤棟)が稼働した。第5製剤棟および第4製剤棟にアルツディスポの生産を集約することで効率化を推進するとともに、アルツディスポの中長期的な安定供給を図る。

 海外は重点地域の米国での事業展開加速に向けて、14年10月の米国駐在員事務所開設に続き、15年5月に北米戦略室を新設した。製品認知度向上策や製品価値向上策で販促を強化し、LAL事業の拡大も推進する。

■新薬開発は糖質科学分野に焦点

 09年3月策定の「生化学工業10年ビジョン」に基づいて、研究開発は糖質科学分野(糖鎖や複合糖質を研究する科学分野)に焦点を絞り、国際競争力を確立する「グローバル・カテゴリー・ファーマ」としての発展を目指している。

 開発中の新薬には、腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI-6603(コンドリアーゼ)、変形性膝関節症改善剤SI-613(NSAID結合ヒアルロン酸)、ドライアイ治療剤SI-614(修飾ヒアルロン酸)がある。

 SI-6603は日本で14年1月に製造販売承認申請して審査継続中である。米国・欧州では15年4月に安全性評価を主目的としたオープン試験を開始し、15年7月にフェーズ3試験の症例登録を完了した。SI-613は日本で14年10月フェーズ2試験(反復投与)の治験届を提出し、15年7月症例登録が完了した。SI-614は米国・欧州で15年1月フェーズ2・3試験が終了した。次相試験について検討中である。

 なおアルツの腱・靭帯付着部症の国内適応症追加SI-657(ヒアルロン酸)については2月2日に開発中止を発表した。科研製薬<4521>と共同で開発を進めていたが、日本での第3相臨床試験結果において期待していた有効性を明確に見いだせなかったため中止を決定した。引き続きアルツの製品付加価値向上に取り組むとともに、糖質科学に研究開発の焦点を合わせ、GAG(グリコサミノグリカン)を対象物質として、運動器疾患、眼科領域疾患、免疫・アレルギー疾患などを対象に効率的な新薬開発を進めるとしている。

 2月15日にはジェネリック医薬品である眼科手術補助剤「シェルガン0.5眼粘弾剤」の製造販売承認取得を発表した。当社製品である眼科手術補助剤オペガンと同様に参天製薬<4536>が販売し、16年6月の薬価基準収載後の発売に向けて準備を進める。

■品揃え充実で重点地域の米国におけるプレゼンスを強化

 15年12月には、変形性膝関節症を適応症とする医療機器「VISCO-3」について、米国食品医薬局(FDA)の承認取得を発表した。ヒアルロン酸主成分とする関節機能改善剤で、1治療あたり3回投与の3本キット製品である。14年3月から3回投与の競合製品との非劣性臨床試験を実施して、FDAの承認を新たに取得した。

 なお「SUPARTZ」は、15年3月に再投与の安全性に関する承認をFDAから取得したことに伴う添付文書の改訂に合わせて、15年10月にブランド名を「SUPARTZ FX」に変更した。

 米国では人口の高齢化に伴って関節機能剤の市場拡大が予想されているため、単回投与製品「Gel-One」、5回投与製品「SUPARTZ FX」に加えて、3回投与製品「VISCO-3」を新たに市場投入し、成長戦略における重点地域である米国に置いてプレゼンス強化を図る方針だ。

■薬価改定、為替、研究開発費などが影響する収益構造

 15年3月期の四半期別の推移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)75億77百万円、第2四半期(7月~9月)66億70百万円、第3四半期(10月~12月)78億28百万円、第4四半期(1月~3月)74億47百万円、営業利益は第1四半期11億87百万円、第2四半期3億77百万円、第3四半期7億09百万円、第4四半期1億10百万円だった。

 薬価改定、為替の動向、研究開発費の増減、受取ロイヤリティーの増減などが影響する収益構造だ。15年3月期の売上総利益率は58.9%で14年3月期比3.2ポイント低下、販管費比率は50.8%で同5.4ポイント上昇、ROEは5.4%で同2.1ポイント低下、自己資本比率は87.0%で同0.8ポイント低下した。配当性向は40.5%だった。

 利益配分に関しては、1株当たり年間26円を基本として、安定的かつ継続的な配当を目指し、資本効率の向上を目的として自己株式の取得等を適宜検討するとしている。

■16年3月期第3四半期累計は2桁営業増益

 今期(16年3月期)第3四半期累計(4月~12月)の連結業績は、売上高が前年同期比6.2%増の234億37百万円、営業利益が同20.6%増の27億43百万円、経常利益が同5.8%増の40億06百万円、純利益が同0.8%減の30億17百万円だった。

 売上面では、国内アルツが前年同期並みにとどまったが、円安効果やジェル・ワンをはじめとする海外医薬品の効果で増収だった。為替レート(期中平均)は1ドル=121円70銭(前期比14円82銭のドル高・円安)で、円安による売上高への影響は約11億円だった。

 利益面では、高萩工場第5製剤棟関連の減価償却費が増加し、海外子会社を含む米国関連経費が円安も影響して増加したが、研究開発費が前年同期並みにとどまったことも寄与して2桁営業増益だった。売上総利益率は58.9%で同0.2ポイント低下、販管費比率は47.2%で同1.6ポイント低下、減価償却費は同30.9%増の23億79百万円、研究開発費は同1.1%減の56億34百万円だった。

 また営業外収益では、受取配当金が増加(前期1億86百万円計上、今期2億30百万円計上)、保有外貨建て資産に係る為替評価益が減少(前期5億85百万円計上、今期57百万円計上)、受取ロイヤリティーが増加(前期2億41百万円計上、今期3億61百万円計上)した。なお前期の一過性の税率低減要因が終了して税率が上昇したため純利益は減益だった。

 セグメント別の売上高は、医薬品事業が同4.7%増の193億06百万円(国内医薬品が同0.8%減の130億17百万円、海外医薬品が同24.1%増の53億39百万円、医薬品原体が同6.4%減の9億50百万円)だった。LAL事業は同13.4%増の41億30百万円だった。

 国内医薬品は、関節機能改善剤アルツが後発品使用促進の影響で前年同期並み(市場は0.5%増、アルツの医療機関納入本数は0.2%増)にとどまった。眼科手術補助剤オペガンは競争激化で微減、内視鏡用粘膜下注入材ムコアップは前年同期の出荷が高水準だった反動で減収だった。

 海外医薬品は、米国向け関節機能改善剤スパルツFX(15年10月スパルツFXにブランド名変更)が、3回投与の競合品が伸長する中で、販売提携先の拡販努力によって現地販売が前年同期並みを維持し、円安効果で換算売上が増加した。中国向けアルツは政府主導による公定価格制度廃止の影響で現地販売が減少したが、販売提携先が在庫水準を高めたことと円安効果で増収だった。米国向け単回投与関節機能改善剤ジェル・ワンは現地販売が増加し、円安効果も寄与した。

 医薬品原体はヒアルロン酸の市場が低調だった。LAL事業は海外におけるエンドドキシン測定用試薬などの数量増と円安効果で増収だった。

 なお四半期別業績推移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)77億62百万円、第2四半期(7月~9月)81億92百万円、第3四半期(10月~12月)74億83百万円、営業利益は第1四半期8億83百万円、第2四半期11億67百万円、第3四半期6億93百万円だった。

■16年3月期業績予想に増額余地

 今期(16年3月期)通期の連結業績予想(5月12日公表)は、売上高が前期比3.8%増の306億50百万円、営業利益が同0.7%増の24億円、経常利益が同5.2%減の38億円、純利益が同20.6%減の29億円としている。配当予想は前期と同額の年間26円(第2四半期末13円、期末13円)で、予想配当性向は50.9%となる。

 想定為替レート(期中平均)は1米ドル=118円で、為替感応度(1円変動による影響額)は売上高で約95百万円、営業利益で約35百万円としている。また売上総利益率は同0.7ポイント低下の58.2%、販管費比率は同0.4ポイント低下の50.4%、研究開発費は同3.6%減の78億50百万円の計画としている。

 セグメント別売上高の計画は、医薬品事業が同3.1%増の254億円(国内医薬品が同0.3%増の169億50百万円、海外医薬品が同12.0%増の71億円、医薬品原体が同4.1%減の13億50百万円)、LAL事業が同7.7%増の52億50百万円としている。

 国内は厳しい市場環境が継続するが営業強化で競合品からのシェア獲得を目指し、米国向けジェル・ワンと中国向けアルツの数量増加および円安効果で増収見込みだ。営業利益については、研究開発費が減少するが、高萩工場第5製剤棟稼働に伴う減価償却費の増加、ジェル・ワンなどの販売関連費用の増加で前期並みとしている。純利益については、受取ロイヤリティーが増加するが、為替評価益の減少、税負担の正常化などで減益見込みとしている。

 通期会社予想に対する第3四半期累計の進捗率は売上高が76.5%、営業利益が114.3%、経常利益が105.4%、純利益が104.0%で、利益は通期会社予想を超過達成している。米国における腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI-6603を中心とした研究開発費の進捗を踏まえて通期会社予想を据え置いたが、増額余地があるだろう。

■株価は調整一巡して下値切り上げ

 株価の動きを見ると、アルツの適応症追加の開発中止を嫌気し、さらに地合い悪化も影響して2月12日の昨年来安値1166円まで急落したが、その後は下値を切り上げる動きだ。3月23日には1580円まで上伸する場面があった。調整が一巡したようだ。

 3月23日の終値1541円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS51円05銭で算出)は30倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間26円で算出)は1.7%近辺、そして前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1239円51銭で算出)は1.2倍近辺である。なお時価総額は約903億円である。

 日足チャートで見ると25日移動平均線を突破し、25日移動平均線が上向きに転じた。また週足チャートで見ると、13週移動平均線および26週移動平均線突破の動きを強めている。調整が一巡して戻り歩調の展開だろう。

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