【アナリスト水田雅展の銘柄診断】一蔵の16年3月期は大幅増益、17年3月期も増収増益基調

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 一蔵<6186>(東2)は和装事業とウェディング事業を展開している。女性の成人数が減少する中でも和装事業は順調に拡大し、16年3月期は大幅増益予想である。そして増額の可能性があるだろう。呉服市場は縮小傾向のイメージだが振袖など着物をファッションとして見直す動きが強まっている。積極的な店舗網拡大戦略などで17年3月期も増収増益基調が期待される。株価は上場来安値圏だがほぼ底値圏と考えられる。好業績を見直して反発のタイミングだろう。なお5月10日に16年3月期決算発表を予定している。

■和装事業とウェディング事業を展開

 91年2月設立・呉服販売開始、95年4月オンディーヌを買収(現オンディーヌ事業本部)してレンタル事業に進出、00年9月ウェディング事業に進出、12年6月ECサイト「いち利モール」開設してWeb事業開始、15年12月東証2部市場に新規上場した。社名は明治維新の立役者である大久保利通公青年時代の名前「大久保一蔵」にちなんだものである。

 経営理念に「日本文化をもっと身近にする」「私たちのおもてなしを世界に広げる」「世の中を楽しく変えていく」を掲げて、和装事業(呉服の販売、振袖等の販売・レンタル、成人式の前撮り写真撮影、成人式当日の着付け・メイクサービス、着物の着方教室運営)とウェディング事業(結婚式場運営)を展開している。

 15年3月期の売上構成比は、和装事業が64.5%(うち販売33.3%、レンタル10.3%、写真13.6%、加工6.6%、その他0.7%)、ウェディング事業が35.5%である。また15年3月期末の店舗数は和装事業62店舗、ウェディング事業3ヶ所である。

■和装事業はJTS事業本部とオンディーヌ事業本部の2チャネル

 和装事業は、JTS(Japanese Tradional Style)事業本部とオンディーヌ事業本部の2チャネルで、一定の集客が見込める全国主要都市のオフィスビルやショッピングセンターなどに出店し、小売店舗、フォトスタジオ、着物の着方教室、それらを併設した店舗形態で運営している。15年3月期末の店舗数(取扱代理店含む)はJTS事業本部31店舗(うち取扱代理店2店舗)、オンディーヌ事業本部32店舗(うち取扱代理店9店舗)である。

 JTS事業本部では主に古典柄系やブランド物の呉服、振袖等、着物全般を取り扱い、集客はダイレクトメール送付や「SAKURA学園」(17~20歳の女性を対象に、ヘアメイクやファッション情報、イベント、ミスコン等に参加できるWeb上のコミュニティ)会員への案内を主としている。

 販売チャネルは、直営店の一蔵(着物や関連商品の販売、振袖のレンタル、フォトスタジオでの撮影・着付け・メイク、着物ショールーム運営など)、いち瑠(着物の着方教室)、銀座いち利(東京・銀座と大阪・心斎橋で産地直送着物の販売)、アムール(首都圏ファッションビル中心に出店する振袖専門店)、取扱代理店の一蔵、インターネット通信販売のECサイトいち利モール、および催事である。

 オンディーヌ事業本部では、主に可憐系の振袖を取り扱い、集客は電話販促や「学祭・サークル応援NAVI」(大学等の学園祭や大学生等が組織するサークルを紹介するサイト)会員への案内を主としている。

 販売チャネルは、直営店のオンディーヌ(振袖の販売・レンタル、卒業式用の袴等のレンタル、フォトスタジオでの写真撮影・着付け・メイクなど)、取扱代理店のオンディーヌ、および特約店(美容室や写真館など特約店契約により、振袖フェア期間中に限定して当社製品を臨時で販売する店舗)である。

■和装事業は低価格やワンストップサービスが強み

 和装事業は、多種多様な約4万点(15年3月期末現在)の着物在庫、生産者からの直接買い取りによって実現した低価格、顧客ニーズを反映した商品およびワンストップサービス(自社所有フォトスタジオでの成人式の前撮り写真撮影、成人式当日の着付け・メイクサービス)、着物の着方教室の運営、悉皆(着物の丸洗い、シミ抜き、刺繍直し、仕立直しなど着物にまつわるお手入れ全般)サービス、新規顧客獲得からリピート需要に繋げるマーケティング力などを強みとしている。

 また着物の着方教室では、着物の着方を教えるだけでなく、着物を着て名所に出掛けるなどのイベント開催を通じて着物を着る機会を提供し、着物ファンの拡大に努めている。着物の着方教室では年間参加者が6000名を超えている。

■ウェディング事業は直営結婚式場3ヶ所を運営

 ウェディング事業は直営の結婚式場において、挙式・披露宴の企画・立案・運営、およびパーティドレス・ウェディングドレスのレンタルなどを行っている。運営に際しては、顧客の本物志向を充足させる結婚式のトータルプロデュースを実現するために「本物志向のファシリティ」「ソフトの内製化」を重視している。

 なお結婚式場は、18~19世紀の英国風のCamelot Hills(キャメロットヒルズ)(埼玉県さいたま市)、ヨーロピアンクラシックスタイルのGLASTONIA(グラストニア)(愛知県名古屋市)、和魂洋才の建築様式の百花籠(愛知県名古屋市)の3ヶ所である。

■呉服市場は着物をファッションとして見直す動き

 ここ数年の呉服市場(レンタル除く)は概ね2800億円~3000億円規模(矢野経済研究所推計)で推移している。産地工房の職人など作り手の高齢化、消費者のライフサイクルの変化などで縮小傾向が続いていたが、昨今は振袖を中心としたレンタル需要や着方教室をきっかけに、呉服販売が盛んになりつつある。

 以前は資産として高価な着物を所有し、特別な機会にのみ着用することが多い傾向にあったが、昨今では、ファッションとして着て楽しむ消費者層が増加(所有から使用への変化)する兆しがみられる。さらに訪日外国人旅行客が日本旅行のお土産として着物等を購入するなど、外国人による和文化への注目度が高まっている。

 また経済産業省は国内和装産業の振興を図るため「きものの日」の導入を検討している。その一環として、一般社団法人全日本きもの振興会が定める「きものの日」に合わせて、同省において15年11月15日に和服で執務を行う取り組みが実施された。

■和装事業の拡大に向けてM&Aも活用

 和装事業の拡大に向けた中期戦略として、店舗網拡大、販売強化、原価低減を掲げている。消費者ニーズに基づく品揃え・サービスの充実、若年層の開拓による需要の掘り起こし、大都市圏中心とする店舗網拡大、低価格を実現するためのSPA(製造小売)モデルへの進化を推進する。M&Aも積極活用する。

 店舗網拡大では、15年9月にアムールなんばマルイ店、一蔵横浜駅前店、15年12月に一蔵新横浜プリンスペペ店がオープンした。

 また3月24日には、京都きもの学院(大阪市)の株式100%を取得(株式譲渡5月20日予定)して子会社化すると発表した。

 京都きもの学院は関西地区において88教室(16年3月現在)を展開し、100名を超えるベテラン講師陣による、初心者から着付けのプロを目指す専門課程まで充実したカリキュラムを持ち、長年の和装文化の啓蒙実績と知名度を有する着物着付け教室である。人財たるベテラン講師陣が得られることに加えて、毎年3000名を超える京都きもの学院の受講者向けに、当社商品・サービスを広く提供することが可能となる。

■ウェディング事業は本物志向が強み

 ブライダル関連市場のうち挙式披露宴・披露パーティ分野の市場(矢野経済研究所推計)は概ね1兆4000億円~1兆5000億円規模で推移している。少子化・晩婚化・未婚化などで婚姻組数の減少傾向が続いている。

 こうした状況下でも、当社のウェディング事業は、本物の調度品や美術品など、本物感のあるファシリティのゲストハウスを特徴としている。また社員スタッフによるサービス内製も強みとしている。なお英国風のキャメロットヒルズは、フジテレビ系列月9ドラマ「恋仲」の第1話および最終話のロケ地として使用された。

 ウェディング事業の成長戦略としては、3式場の収益力(単価×挙式数)の向上を推進する。料理の質の向上、プロジェクションマッピングなど新サービスの提供、リノベーションによる集客力の向上、インバウンド需要取り込みなどによる平日の稼働率向上、広告戦略の高度化などに取り組む方針だ。

 なお滞在型リゾートウェディングとして沖縄での開発を開始し、18年開業を予定している。

■16年3月期第3四半期累計は実質増収増益

 前期(16年3月期)第3四半期累計(4月~12月)の非連結業績は、売上高が105億86百万円、営業利益が10億51百万円、経常利益が10億44百万円、純利益が6億48百万円だった。

 セグメント別に見ると、和装事業は売上高が66億52百万円、営業利益(連結調整前)が5億45百万円、ウェディング事業は売上高が39億34百万円、営業利益が9億93百万円だった。

 前年同期は四半期財務諸表を作成していないため比較はできないが、和装事業では積極的な広告宣伝やシルバーウィークに開催した催事の効果などで、特に振袖の販売・レンタル、成人式の前撮り写真撮影などが大幅に伸長したようだ。またウェディング事業は、少子化・晩婚化・未婚化などの影響で婚姻組数が減少して競争が激化する中でも、積極的な広告宣伝やプロジェクションマッピングなどの新サービスが奏功して、挙式・披露宴の成約件数が大幅に伸長した。なお売上総利益率は63.5%、販管費比率は53.6%だった。

■16年3月期大幅増益予想、第3四半期累計で通期利益予想を超過達成

 前期(16年3月期)通期の非連結業績予想(15年12月25日公表)については、売上高が前々期(15年3月期)比5.4%増の137億74百万円、営業利益が同31.1%増の10億20百万円、経常利益が同33.0%増の10億05百万円、純利益が同25.6%増の6億39百万円としている。

 配当予想は年間35円(期末一括)(15年3月期は無配)としている。予想配当性向は23.0%となる。配当については、将来の事業展開と経営体質の強化のために必要な内部留保を確保しつつ、安定した配当を継続して実施していくことを基本方針としている。

 通期会社予想に対する第3四半期累計の進捗率は売上高が76.9%、営業利益が103.0%、経常利益が103.9%、純利益が101.4%で、利益は超過達成している。成人式や卒業式などで第4四半期(1月~3月)の需要が高まることも考慮すれば、通期業績の会社予想は増額の可能性が高いだろう。そして17年3月期も増収増益基調が期待される。

■株主優待制度を導入

 株主優待制度(2月15日に導入発表)は、毎年3月31日現在の1単元(100株)以上保有株主を対象として、16年3月期末から開始する。

 優待内容は次の2点から1点を選択する。①和装事業が展開している店舗(一蔵、オンディーヌ、いち瑠、いち利、アムール)で利用可能な優待券(税込10万円以上のお代の場合1万円割引、10万円未満のお代の場合5000円割引)。②ウェディング事業が展開している3つの結婚式場のチャペルコンサート&ディナー1人3000円割引券(1枚で2名まで利用可能)。

■株価はほぼ底値圏で反発のタイミング

 株価の動き(15年12月IPO初値1236円、高値1259円)を見ると、2月の戻り高値圏1100円近辺から反落して水準を切り下げている。4月6日には上場来安値となる836円まで下押した。ただしほぼ底値圏だろう。

 4月6日の終値836円を指標面で見ると、前期推定PER(会社予想のEPS152円09銭で算出)は5~6倍近辺、前期推定配当利回り(会社予想の年間35円で算出)は4.2%近辺、実績PBR(16年3月期第3四半期実績のBPS912円07銭で算出)は0.9倍近辺である。時価総額は約46億円である。

 日足チャートで見ると25日移動平均線に対するマイナス乖離率が10%を超えて売られ過ぎ感を強めている。指標面の割安感も強く、好業績を見直して反発のタイミングだろう。

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