【アナリスト水田雅展の銘柄分析】エストラストは17年2月期減益予想だが契約進捗率高水準、地方創生も追い風

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 エストラスト<3280>(東1)は、山口県および福岡県を地盤とする不動産デベロッパーで、成長市場である九州主要都市への展開を加速している。17年2月期はプロジェクト先行費用などで減益予想としているが、分譲マンション引き渡し予定戸数に対する契約進捗率は高水準である。アベノミクス「地方創生」戦略や日銀のマイナス金利政策に伴う住宅ローン金利低下も追い風だ。株価は直近安値圏でモミ合う展開だが、17年2月期営業減益予想に対するネガティブ反応は限定的であり、調整一巡して出直り展開だろう。

■山口県・福岡県を地盤とする不動産デベロッパー

 山口県および福岡県を地盤とする不動産デベロッパーである。一次取得ファミリー型の新築分譲マンション「オーヴィジョン」シリーズ、ハイクオリティ・ミドルプライスの新築戸建住宅「オーヴィジョンホーム」の不動産分譲事業を主力として、不動産賃貸事業、そして「オーヴィジョン」マンション管理受託の不動産管理事業(連結子会社トラストコミュニティ)も展開している。

 15年2月期末時点の分譲マンション供給数は累計68棟・3389戸である。また14年のマンション販売実績は九州・山口エリアで5位、山口県では1位(13年に続いて2年連続)である。

 成長市場である九州主要都市への展開を推進し、特に重点エリアとしている福岡県での事業展開加速に向けて、13年6月に第三者割当増資によって、ふくおかフィナンシャルグループ<8354>傘下の福岡銀行との関係を強化している。また14年3月には、山口県内最大のオフィス街に立地する下関第一生命ビルディング(山口県下関市)を取得して、不動産賃貸事業の収益基盤を強化した。

 なお4月19日に「平成28年熊本地震」の影響に関するリリースを発表し、当社グループが熊本県内において供給した物件につて、建物の内外および周囲において被害が発生しているが、現時点での重大な被害は報告されていないとしている。

■引き渡し物件数によって四半期収益は変動

 15年2月期の四半期の業績推移を見ると、売上高は第1四半期(3月~5月)3億60百万円、第2四半期(6月~8月)48億84百万円、第3四半期(9月~11月)49億65百万円、第4四半期(12月~2月)17億32百万円、営業利益は第1四半期2億12百万円の赤字、第2四半期6億50百万円、第3四半期7億32百万円、第4四半期8百万円だった。

 引き渡し物件数によって四半期収益が変動する構造だ。15年2月期の売上総利益率は20.9%で14年2月期比1.7ポイント低下、販管費比率は11.0%で同2.1ポイント低下、ROEは21.3%で同8.7ポイント低下、自己資本比率は28.5%で同6.3ポイント上昇した。配当性向は9.6%だった。

 なお15年1月に「オーヴィジョン下関海峡テラス」「オーヴィジョン広島パークサイド」「オーヴィジョン飯塚本町」の各プロジェクト、15年4月に「オーヴィジョン新下関駅南」プロジェクト、15年5月に「オーヴィジョン新山口駅ネクシア」「オーヴィジョン青山グランテラス」の各プロジェクト、15年6月に「オーヴィジョン舞鶴」プロジェクト、15年8月に「オーヴィジョン防府駅天神口」プロジェクト、15年11月に「オーヴィジョン西小倉」プロジェクトが始動している。

■16年2月期は増収・営業減益

 4月12日発表した前期(16年2月期)連結業績は、売上高が前々期(15年2月期)比7.4%増の128億27百万円、営業利益が同5.4%減の11億15百万円、経常利益が同0.1%増の9億54百万円、純利益が同2.4%増の6億円だった。分譲マンション開発目的で取得した不動産の売却が寄与して増収だったが、業容拡大に伴う人員体制の強化、新規分譲マンション販売開始に伴う販売費の増加などで営業減益だった。

 不動産分譲事業における引き渡し戸数は、分譲マンションが「オーヴィジョン照葉アクアテラス」(福岡市、139戸)や「オーヴィジョン山口駅前セントラルスクエア」(山口市、78戸)など6物件391戸(前々期比38戸減少)、および分譲戸建が38戸(同2戸増加)で、総引き渡し数は429戸(同36戸減少)だった。また分譲マンション開発目的で取得した不動産を売却した。なお分譲マンション引き渡し戸数は期初計画の370戸に対して、実績は21戸上回った。

 セグメント別売上高は、不動産分譲事業が同7.7%増の123億33百万円、不動産管理事業が同4.8%増の2億78百万円、不動産賃貸事業が同4.8%増の1億99百万円、その他(不動産仲介など)が同47.5%減の15百万円だった。不動産管理事業ではマンション管理戸数が2627戸(同488戸増加)と順調に増加した。

 売上総利益は同3.2%増加したが、売上総利益率は20.0%で同0.9ポイント低下した。販管費は10.9%増加し、販管費比率は11.4%で同0.4ポイント上昇した。営業外費用では前々期計上した固定資産除売却損および東証1部への市場変更費用が一巡した。

 またROEは16.4%で同4.9ポイント低下、自己資本比率は28.6%で同0.1ポイント上昇した。配当は年間8円(第2四半期末4円、期末4円)で前々期比2円減配の形だが、前々期の年間10円には第2四半期末の市場変更記念配当2円を含んでいるため、普通配当ベースでは前々期と同額である。配当性向は8.2%となる。

 なお四半期別業績推移を見ると、売上高は第1四半期(3月~5月)17億01百万円、第2四半期(6月~8月)45億10百万円、第3四半期(9月~11月)35億76百万円、第4四半期(12月~2月)30億40百万円、営業利益は第1四半期2億32百万円、第2四半期3億52百万円、第3四半期3億83百万円、第4四半期1億48百万円だった。

■17年2月期は増収減益予想

 今期(17年2月期)通期の連結業績予想(4月12日公表)は、売上高が前期(16年2月期)比1.3%増の130億円、営業利益が同20.2%減の8億90百万円、経常利益が同21.4%減の7億50百万円、純利益が同16.7%減の5億円としている。分譲マンション建設費の上昇、プロジェクト先行費用の増加、人件費や販売費の増加などを考慮して営業微減益予想としている。

 なお不動産分譲事業における通期引き渡し予定戸数は、分譲マンションが404戸(前期比13戸増加)、および分譲戸建が45戸(同7戸増加)で、総引き渡し戸数は449戸(同20戸増加)としている。なお分譲マンション通期引き渡し予定戸数404戸に対して、契約締結229戸、契約進捗率56.7%と高水準である。不動産管理事業におけるマンション管理戸数は2966戸(同339戸増加)の計画としている。4月25日には「オーヴィジョン夢咲西」(佐賀市)が完売したと発表している。

 配当予想は16年2月期と同額の年間8円(第2四半期末4円、期末4円)としている。予想配当性向は10.3%となる。利益配分に関しては、将来の事業展開と経営体質の強化のために必要な内部留保を確保しつつ、経営成績や財務状況の推移および今後の事業計画等を十分に勘案しながら、剰余金の配当を行うことを基本方針としている。

■九州・山口エリアでのNO.1デベロッパーを目指す

 中期経営戦略としては、九州・山口エリアでのNO.1デベロッパーを目指し、福岡県および九州主要都市への進出加速、九州・山口エリアでのマンション年間供給500戸体制構築、山口県での戸建住宅年間供給100戸体制の構築、ストック型ビジネスとなる不動産管理事業でのマンション管理戸数拡大、不動産賃貸事業での収益物件長期保有による収益基盤強化などを推進している。

 事業展開の重点エリアとしている福岡市では、国家戦略特区に指定されたことも背景として、一段と人口増加傾向を強めることが予想される。アベノミクス「地方創生」戦略や日銀のマイナス金利政策に伴う住宅ローン金利低下も追い風だ。成長市場への事業展開を加速して中期的に収益拡大基調が期待される。

■株主優待制度を開始して積極還元

 株主優待制度については16年2月期から開始した。毎年2月末日現在の1単元(100株)以上保有株主に対してクオカード2000円分を贈呈する。

■株価は調整一巡して出直り、指標面に割安感

 株価の動きを見ると、直近安値圏500円台でモミ合う展開だが、4月12日発表の17年2月期営業減益予想に対するネガティブ反応が限定的で、徐々に下値を切り上げている。調整が一巡したようだ。

 4月27日の終値544円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS81円08銭で算出)は6~7倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間8円で算出)は1.5%近辺、そして前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS638円44銭で算出)は0.9倍近辺である。時価総額は約34億円である。

 週足チャートで見ると26週移動平均線を割り込んだが、500円近辺が下値支持線の形だ。また日足チャートで見ると、戻りを押さえていた25日移動平均線突破の動きを強めている。指標面に割安感があり、調整一巡して出直り展開だろう。

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