【アナリスト水田雅展の銘柄分析】TACはモミ合い上放れて年初来高値に接近、17年3月期も大幅増益・増配予想

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 TAC<4319>(東1)は「資格の学校」運営を主力に、M&Aも活用して教員、医療、介護、語学など新領域への事業展開も強化している。16年3月期は受講者数の増加、出版事業の好調、コスト削減などで営業損益が大幅に改善した。そして17年3月期も大幅増益・増配予想である。株価はモミ合いから上放れて年初来高値に接近してきた。好業績を評価して続伸展開だろう。

■財務・会計分野を中心に「資格の学校」を運営

 財務・会計分野(簿記検定・公認会計士など)、経営・税務分野(税理士・中小企業診断士など)、金融・不動産分野(宅建・不動産鑑定士・FPなど)、法律分野(司法試験・司法書士など)、公務員・労務分野(社会保険労務士・国家総合職など)、その他分野(情報・国際、医療・福祉など)といった幅広い分野で「資格の学校」を運営している。また法人研修事業、出版事業、人材事業も展開している。

■M&Aも積極活用して新規事業領域への展開を強化

 財務・会計、経営・税務、法律など既存領域の市場が縮小傾向のため、中期成長に向けて、オンライン教育サービス(Webなどの通信系講座)や、M&Aも積極活用して教員、医療、介護、語学など新領域への事業展開も強化している。

 13年12月に増進会出版社(子会社のZ会が通信教育事業などを展開)と資本業務提携し、当社の教室運営ノウハウや資格系コンテンツ開発力と、増進会出版社の通信教育ノウハウや教養系コンテンツ開発力を融合させたソリューションの提供を目指している。なお14年8月には増進会出版社が第2位株主となって資本関係を強化した。

 14年6月には、レセプト点検・整理業務を中心に医療機関事務分野の人材サービスを展開するクボ医療(兵庫県加古郡)と、医療事務に関する労働者派遣事業・レセプト作成請負業務を展開する医療事務スタッフ関西(兵庫県神戸市)を子会社化した。

 14年11月には関西の4校舎で「医療事務講座」を開講し、14年12月には子会社TAC医療事務スタッフを設立した。クボ医療および医療事務スタッフ関西を子会社化し、自ら育成した医療機関系人材を幅広い医療機関に提供することが可能になったため、関東エリアでも医療事務スタッフ派遣事業や診療報酬請求事務請負事業を展開している。

 また14年11月にはトーハン・コンサルティングとの業務提携と介護系資格取得支援事業の開始を発表し、15年1月にトーハン・コンサルティングが展開する介護系資格取得教室を、当社の主要校舎において「介護教室ケアマイスター TAC教室」の名称で開講した。

 15年1月には「相続アドバイザー講座」の開講を発表した。銀行業務検定のうち相続アドバイザー3級は14年3月から実施された新しい試験である。15年から相続税および贈与税の税制改正が行われたため、初回試験の受験者が約1万人に達する注目度が高い試験だ。

 15年3月には一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)公認で、日本初の大規模公開オンライン講座提供サイト「gacco(ガッコ)」に対して、無料の実務・資格講座を提供すると発表した。

 15年4月には日本商工会議所と連携して「高等学校日商簿記学習支援プログラム」を開始した。日商簿記検定試験の高等学校向け教育支援の一環として、個人向け・法人向けに販売している当社の日商簿記教育コンテンツの基本講義部分を高等学校向けに無償で提供する。これによって日商簿記検定試験の一層の普及促進を図るとしている。

 15年7月にはTMMCの株式12.5%を取得して資本業務提携した。当社グループの医療医務人材サービスと、TMMCの病院経営・業務改善コンサルテーションサービスおよびレセプトチェックサービスを融合し、病院・診療所・クリニック等への販路拡大を推進する。

 15年9月にはパイプドビッツと協業して「ストレスチェック義務化トータルソリューション」サービスを提供すると発表した。従業員50人以上の全事業所にストレスチェック実施を義務付ける改正労働安全衛生法(ストレスチェック義務化、15年12月1日施行)に対応したサービスである。

 4月19日には旅行ガイド本シリーズ「おとな旅プレミアム」発刊を発表した。全30タイトルの予定で、出版事業において資格試験とは別の分野に進出し、事業領域を拡大する。

■四半期業績は季節変動の特徴

 四半期業績は資格講座の本試験実施・合格発表の時期との関係などで季節変動の特徴がある。第2四半期(7月~9月)と第3四半期(10月~12月)の公認会計士・税理士講座は、翌年受験のための受講申込が集中する時期となるため、現金ベース売上高が突出して多くなるとともに、翌四半期に向かって前受け金として繰り越されることから、発生ベース売上高の増加が少なくなる傾向がある。

 また第4四半期(1月~3月)から第1四半期(4月~6月)にかけては、夏・秋の本試験時期に向けて全コースが出揃う時期にあたり、稼働率の上昇から前受金戻入額が増加することを通じて発生ベース売上高が増加する傾向にある。こうした売上の傾向に対して、売上原価や営業費用は毎月一定額計上されるため、四半期ごとの営業利益が変動しやすい。

 15年3月期の四半期別推移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)54億04百万円、第2四半期(7月~9月)49億56百万円、第3四半期(10月~12月)43億91百万円、第4四半期(1月~3月)47億84百万円、売上総利益率は第1四半期44.4%、第2四半期39.4%、第3四半期31.1%、第4四半期35.1%、営業利益は第1四半期5億75百万円、第2四半期2億12百万円、第3四半期4億28百万円の赤字、第4四半期2億19百万円の赤字だった。

 15年3月期の受講者数は、個人受講者が同7.0%減の13万147人、法人受講者が同3.0%増の6万4507人、合計が同3.9%減の19万4654人だった。15年3月期のROEは4.9%で14年3月期比17.0ポイント低下、自己資本比率は20.6%で同1.7ポイント低下した。配当性向は8.9%だった。

■16年3月期は大幅営業・経常増益

 5月13日発表した前期(16年3月期)連結業績は、売上高が前々期(15年3月期)比2.4%増の200億07百万円、営業利益が同4.3倍の6億05百万円、経常利益が同57.2%増の6億35百万円、純利益が同2.6%増の2億13百万円だった。

 特別損失に減損損失を計上したため純利益の伸びは小幅だったが、消費増税前駆け込み申込の反動影響が一巡して増収、売上原価における賃借料や人件費の減少、販管費における賃借料の減少などのコスト削減効果も寄与して大幅営業増益・経常増益だった。

 差引売上総利益は同6.7%増加し、差引売上総利益率は39.4%で同1.6ポイント上昇した。販管費は同0.4%増にとどまり、販管費比率は36.4%で同0.7ポイント低下した。

 営業外収益では、投資有価証券運用益が減少(前々期3億45百万円計上、前期47百万円計上)したが、受取手数料40百万円を計上した。営業外費用では支払手数料が減少(前々期51百万円計上、前期11百万円計上)した。特別損失では減損損失が増加(前々期13百万円計上、前期1億06百万円計上)した。連結子会社である医療事務スタッフ関西の業績を踏まえてのれんの再評価を行った。また投資有価証券評価損16百万円を計上した。

 配当は同1円増配の年間2円(第2四半期末1円、期末1円)とした。配当性向は17.3%となる。またROEは4.8%で同0.1ポイント低下、自己資本比率は21.0%で同0.4ポイント上昇した。

 セグメント別(前受金・全社費用等調整前)の動向を見ると、個人教育事業は売上高が同4.1%増の123億33百万円で営業利益が99百万円の赤字(前々期は10億44百万円の赤字)、法人研修事業は売上高が同6.2%増の44億40百万円で営業利益が同14.2%増の12億08百万円、出版事業は売上高が同19.1%増の27億64百万円で営業利益が同13.0%増の6億12百万円、人材事業は売上高が同14.7%増の6億23百万円で営業利益が同3.3倍の21百万円だった。

 受講者数を見ると、個人受講者が同12.9%増の14万6888人、法人受講者が同7.7%増の6万9471人、合計が同11.2%増の21万6359人だった。分野別に見ると、財務・会計分野が同0.4%増、経営・税務分野が同0.6%減、金融・不動産分野が同6.0%増、法律分野が同2.7%減、公務員・労務分野が同32.9%増、情報・国際・医療・福祉・その他分野が同13.3%増だった。公務員およびマスコミ・就職分野が大幅に増加した。

 また個人教育事業における教室系・通信系の売上構成比は、教室系が57.0%で同0.8ポイント低下、通信系が43.0%で同0.8ポイント上昇、通信系のうちWeb・DLが26.0%で同1.8ポイント上昇した。通信スタイルを選択する受講生が増加傾向である。

 出版事業では、見やすさ・理解しやすさという新たな商品価値を付加した初のフルカラー書籍の刊行(簿記・宅建士・FP・社労士など)が好調に推移した。また独学道場(独学者向けオリジナル講座)の商品ラインナップ拡大、資格以外分野の書籍出版、書店の売上サポートや連携強化、当社直販サイトのリニューアルなどの成果で大幅増収増益だった。出版業界の慣習にとらわれないさまざまな施策の結果が売上に結びついている。人材事業では医療事務が苦戦したが、会計業界の人材不足を背景に会計士・税理士向け就職説明会が盛況で、求人広告売上が増加した。

 四半期別の業績推移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)55億92百万円、第2四半期(7月~9月)50億04百万円、第3四半期(10月~12月)45億77百万円、第4四半期(1月~3月)48億34百万円で、営業利益は第1四半期8億08百万円、第2四半期2億44百万円、第3四半期3億18百万円の赤字、第4四半期1億29百万円の赤字だった。

■17年3月期も大幅増益・増配予想

 今期(17年3月期)の連結業績予想(5月13日公表)については、売上高が前期(16年3月期)比2.5%増の205億円、営業利益が同37.0%増の8億30百万円、経常利益が同21.2%増の7億70百万円、純利益が同2.6倍の5億50百万円としている。配当予想は同2円増配の年間4円(第2四半期末2円、期末2円)で予想配当性向は13.5%となる。

 建築士講座や教員採用試験対策講座など新規開講講座の早期収益化、語学事業への注力、オンラインスクールによる売上創出、医療系人材事業の推進、M&A案件への積極的取り組み、オンラインスクールを利用した業務内製化によるコスト削減、スクール規模の適正化、その他コストの継続的な見直しなどに取り組み、大幅増益予想としている。差引売上総利益率は同0.4ポイント上昇の39.8%、販管費比率は同0.7ポイント低下の35.7%の計画としている。

 なお15年11月に和解による訴訟の解決、および特別利益の発生を発表している。ハンド社(大阪市)との税務申告ソフト「魔法陣」に関する総代理店取引契約に基づく地位の確認を求める訴えを大阪地方裁判所に提起していたが、裁判上の和解が成立した。売上補償の1億20百万円は今期(17年3月期)の特別利益に計上する予定だ。

■株価はモミ合い上放れて年初来高値に接近

 株価の動きを見ると、190円~200円近辺でのモミ合いから上放れの展開となった。5月18日には217円まで上伸し、3月の戻り高値224円、そして1月の年初来高値228円に接近してきた。17年3月期大幅増益・増配予想を好感する動きだろう。

 5月24日の終値211円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS29円72銭で算出)は7倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間4円で算出)は1.9%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS245円17銭で算出)は0.9倍近辺である。時価総額は約39億円である。

 週足チャートで見ると26週移動平均線を突破した。そして13週移動平均線が上向きに転じた。強基調への転換を確認した形だ。指標面に割安感があり、好業績を評価して続伸展開だろう。

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