【アナリスト水田雅展の銘柄分析】ワイヤレスゲートの16年12月期第1四半期は大幅営業増益、通期は上振れ余地

 ワイヤレスゲート<9419>(東1)はワイヤレス・ブロードバンドサービスを主力として、Wi-Fiインフラ構築・運用サポートやM2M/IoTサービスなども積極推進している。16年12月期第1四半期は大幅営業増益だった。通期も2桁営業増益予想で上振れ余地がありそうだ。株価はモミ合い上放れの動きを強めている。インバウンド関連、地方創生関連、M2M/IoT関連などテーマ性も多彩であり、中期成長力を評価して続伸展開だろう。

■ワイヤレス・ブロードバンドサービスを提供

 通信事業者からインフラを借り受けてワイヤレス・ブロードバンドサービス(Wi-Fi、WiMAX、LTE)を提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)である。中期成長に向けた重点戦略として、M&A・提携も活用したサービス提供エリア拡大、サービスラインナップ拡充、新規事業推進などを掲げている。

 15年12月期の事業別売上高は、ワイヤレス・ブロードバンド事業のモバイルインターネットサービスが102億62百万円、公衆無線LANサービスが7億74百万円、ワイヤレス・プラットフォーム事業が1億25百万円、その他が1億49百万円だった。

 販売チャネルはヨドバシカメラ、および携帯電話販売最大手ティーガイアを主力としている。月額有料会員数の積み上げに伴って収益が拡大するストック型収益構造である。16年3月末現在の社員数19名で、社員1人当たり営業利益額の高さも特徴だ。

■市場拡大のSIMカード分野にも積極展開

 SIMカードに関しては、14年9月データ通信専用「ワイヤレスゲート Wi-Fi+LTE SIMカード」販売開始、14年12月訪日外国人向けデータ通信専用プリペイド型SIMカード販売開始、15年4月音声機能付きSIMカード「ワイヤレスゲート Wi-Fi+LTE 音声通話プラン」販売開始した。

 そして16年3月にはWi-FiおよびSIMカードの新サービスを開始した。Wi-FiとNTTドコモの提供するLTE網および3G網が利用できるサービスである。業界で初めて全プランLTE通信を使い放題とし、業界最安値級の価格で販売する。また新サービスは、世界最大のコミュニティWi-Fi「Fon」が提供する世界200ヶ国以上で1900万ヶ所のWi-Fiアクセスポイントへ接続可能となる。

 SIMカードサービス自体での差別化は難しい状況だったが、グローバルWi-Fiネットワークを軸にして、LTE帯域を必要に応じて効率的に使うサービスを提供することで、安価でかつ通信速度もアンリミデッドな他社にはないグローバルなサービスを提供していく方針だ。

■Wi-Fiインフラ構築・運用支援、M2M/IoTソリューションを拡大

 新規事業として14年1月、法人向けWi-Fi環境構築・運用支援事業を開始した。公衆無線LAN環境を活用する動きが自治体の災害時通信インフラ、観光地の外国人旅行客誘致、商店街の集客力向上などに広がり、20年東京夏季五輪も追い風となって無線LANの需要拡大が予想されるため、クラウド型Wi-Fi環境サービスシステムなど法人向けソリューションサービスを拡大する。

 14年8月にはLTE領域ソリューション拡充の一環として、訪問看護サービスのNフィールドと業務提携し、M2M/IoTソリューション「クラウド型みまもりサービス」を開始した。14年11月にはWeb会議システムのブイキューブと業務提携した。

 15年3月には、移動販売者向けプラットフォームを提供するアンデコ社と資本業務提携、およびWi-Fi環境構築・保守のバディネット社と業務提携した。観光地や商業施設などに構築するWi-Fiインフラにおいて、アンデコ社の「Mobility-Store Platform」と組み合わせてロケーションコマース事業を共同展開する。このロケーションコマース事業の共同展開に関して、バディネット社のWi-Fiインフラ構築体制とノウハウを活用し、ロケーションコマース・ソリューションの拡大を目指す。

 15年4月には、経済産業省の大規模HEMS情報基盤整備事業「みやまHEMSプロジェクト」のコンソーシアムメンバーである福岡県みやま市に対して、エプコと共同でLTE回線の提供を開始した。M2M/IoTサービス事業の一環としてSIMカードとフリールータを提供する。HEMSは省エネ機器をネットワーク化して家庭の電力利用を一括制御するシステムである。

 15年5月にはベネフィット・ワンと共同で、訪日旅行者向けに「飲食店割引サービス」と「Wi-Fi+LTE通信サービス」をセットで提供する「Benefit Station Japan」を台湾で販売開始した。訪日旅行客の日本での利便性を高めるサービスで、今後ベネフィット・ワンが展開するアジア各国でも同サービスを展開する方針だ。15年10月にはチャイナエアラインを利用する台湾からの訪日旅行者に対して同サービスの提供を開始した。

 15年7月には、安芸自動車学校と高知県自動車学校の自動車教習生向けに「Wi-Fiインフラ」の提供を開始した。両校の自動車教習生の利便性を高めるサービスを提供する。

 16年4月には電通、OOHメディア・ソリューション、シーエスイーの3社と共同で展開している「G Free(銀座フリーWi-Fi)」を、東急不動産がオープンした東急プラザ銀座の全館へ拡大した。

■フォン・ジャパンへ出資してWi-Fiインフラ構築・運用支援を加速

 14年11月に、世界200カ国以上・1700万ヶ所以上のWi-Fiスポットを保有する世界最大のグローバルWi-FiコミュニテォーであるスペインFon社および日本法人フォン・ジャパンと業務協力し、15年3月には日本のWi-Fiインフラ拡充に向けた取り組みを開始した。20年東京夏季五輪を視野に入れて国内で20万スポットを構築するとともに、観光地や商業施設などのパブリックエリアにFon社のルータを活用したWi-Fiエリアを構築する。

 そして15年11月には、スペインFon社が保有するフォン・ジャパンの株式の一部を取得(出資比率30%)してフォン・ジャパンを当社の持分法適用会社とした。資本・業務提携によって、Fon社の持つグローバルWi-Fiプラットフォームを当社のインフラに加え、総合モバイルネットワーク事業者として新サービ開発・提供を推進する。

 15年11月には、一般社団法人ニセコプロモーションボードおよびフォン・ジャパンと共同で、北海道「ニセコ」観光エリア一帯をWi-Fi化するプロジェクトを発表した。訪日外国人旅行客を中心とした来訪者向けに無料Wi-Fiサービスを提供する。

 15年12月には鎌倉長谷寺にWi-Fiインフラを提供して無料Wi-Fiサービスを開始すると発表した。鎌倉長谷寺のWi-Fiインフラ構築・運用サポートに加えて、長谷寺内のWi-Fi利用者の「人の流れ」を集積して、ビッグデータを活用したソリューションサービスの提供を予定している。

 16年2月には道の駅の総合プラットフォーム事業を展開するXS社(大阪市)と共同で、日本全国の道の駅に対してWi-Fiインフラの設置と運用を支援し、道の駅がインバウンド(訪日外国人旅行客)を中心とした来訪者向けに無料Wi-Fiサービスを開始した。FONを活用したWi-Fiインフラ支援である。16年2月現在で24駅の道の駅が無料Wi-Fiインフラを導入し、今後も全国の道の駅とその周辺観光地への拡大を目指すとしている。

 16年3月には東京都浅草地域においてFONと共同で、浅草の各商業地域とインバウンド(訪日外国人旅行客)を中心とした来訪者向け無料Wi-Fiサービスの提供を開始した。北海道・ニセコ、鎌倉・長谷寺、全国の道の駅などに次ぐ取り組みである。そして16年4月には浅草六区再生プロジェクトに参画し、六区セントラルスクエアにFONを活用したWi-Fiタワーの設置を発表した。国内外の観光客に無料Wi-Fiサービスを提供して浅草六区のWi-Fiエリア化を支援する。

 なおフォン・ジャパンは、16年4月にエーピーカンパニーと業務提携してAPカンパニー運営店舗へのFONスポット導入、16年5月にアパマンショップと業務提携してアパマンショップ店舗へのFONスポット導入を推進している。

■中期成長に向けて新サービスも展開

 15年10月には米nCore社に出資(総額30万ドルのマイノリティ出資)した。米nCore社の「LTE over WiFi」技術を活用したサービス展開を企図し、将来的に日本を含めた全世界で展開することを目指す。

 15年11月には落し物追跡タグ「MAMORIO」を提供する落し物ドットコム(東京都)に出資(総額2990万円のマイノリティ出資)した。落し物ドットコムへ資本面でのサポートを行うことで新サービスの共同展開を加速させる。

■月額有料会員の積み上げによるストック型ビジネスモデル

 なお四半期別業績推移を見ると、14年12月期の売上高は第1四半期(1月~3月)20億45百万円、第2四半期(4月~6月)21億59百万円、第3四半期(7月~9月)23億69百万円、第4四半期(10月~12月)25億32百万円で、営業利益は第1四半期2億07百万円、第2四半期2億00百万円、第3四半期1億76百万円、第4四半期2億11百万円だった。

 また15年12月期の売上高は第1四半期(1月~3月)26億18百万円、第2四半期(4月~6月)28億59百万円、第3四半期(7月~9月)28億76百万円、第4四半期(10月~12月)29億58百万円、営業利益は第1四半期2億08百万円、第2四半期2億98百万円、第3四半期2億71百万円、第4四半期2億88百万円だった。

 個人向けワイヤレス・ブロードバンド事業は有料会員に対する月額課金収入、法人向けWi-Fiインフラ事業はアクセスポイント管理(クラウド管理)に対する月額課金収入が主力であり、有料会員数およびアクセスポイント数の積み上げに伴って収益が拡大するストック型ビジネスモデルである。

 15年12月期の売上総利益率は26.3%で同1.0ポイント低下、販管費比率は16.9%で同1.7ポイント上昇した。SIM事業の営業利益押し下げ要因は約2億20百万円だった。ROEは27.6%で同4.6ポイント上昇、自己資本比率は45.5%で同12.6ポイント低下した。配当性向は38.8%だった。株主還元についてはDOE(株主資本配当率)を重視し、機動的かつ柔軟な自社株買いも実施する方針としている。

■16年12月期第1四半期は大幅営業増益

 今期(16年12月期)第1四半期(1月~3月の)の連結業績は、売上高が前年同期比15.7%増の30億29百万円、営業利益が同46.3%増の3億04百万円、経常利益が同17.7%増の2億44百万円、純利益が同14.1%増の1億49百万円だった。

 売上面では主力の「ワイヤレスゲートWi-Fi+WiMAX」サービスが、WiMAX3+ギガ放題プランを中心に好調に推移した。また「ワイヤレスゲート Wi-Fi+LTE SIMカード」はサービスラインナップのリニューアルによって新規顧客の獲得数が増加した。M2M/IoTサービスやWi-Fiインフラ事業の新規案件獲得が段階的に進捗していることも寄与した。

 事業別売上高は、ワイヤレス・ブロードバンド事業のモバイルインターネットサービスが同17.8%増の28億03百万円、公衆無線LANサービスが同12.7%減の1億78百万円、ワイヤレス・プラットフォーム事業が同41.3%増の39百万円、その他が同46.4%増の8百万円だった。公衆無線LANサービスは店頭での主な獲得活動を「ワイヤレスゲート Wi-Fi+LTE SIMカード」にシフトしているため、想定どおりの減収だった。

 利益面では増収効果に加えて、NTTドコモからの帯域借受単価の変更に伴う遡及返還額が想定よりも大きかったことも押し上げ要因となった。なおSIM事業の利益押し下げ要因は約47百万円で、前年同期の利益押し下げ要因約58百万円に比べて改善した。

 売上総利益は同9.9%増加したが、売上総利益率は25.6%で同1.3ポイント低下した。販管費は同5.4%減少し、販管費比率は15.5%で同3.5ポイント低下した。営業外費用では持分法投資損失38百万円、上場関連費用18百万円を計上した。

■17年12月期通期も2桁増収・営業増益予想で上振れ余地

 今期(16年12月期)通期の連結業績予想は前回予想(2月12日公表)を据え置き、売上高が前期(15年12月期)比13.4%増の128億32百万円、営業利益が同17.4%増の12億50百万円、経常利益が同0.5%増の10億67百万円、純利益が同3.5%減の6億60百万円としている。

 個人向けサービスの会員数については前期並みの純増数を見込んでいる。法人向けサービスについては、ストック収益は前期実績を踏襲するとしているが、新規受注案件は織り込んでいない。会員数増加に伴う原価・販管費の増加、SIM事業のサービス見直しに伴う販管費増加、管理体制強化に向けた人材採用に伴う人件費増加、案件獲得に伴う技術人材や業務委託の増加、収益貢献に見合った従業員向けインセンティブプランの導入などコストアップ要因があるが、増収効果で吸収して2桁営業増益予想だ。SIM事業は今期中の単月黒字化を目指している。

 なお営業外費用で、フォン・ジャパンを持分法適用関連会社化したことに伴うのれん償却費(10年で約16億円を償却予定)を計上、および市場変更関連費用を計上するため経常利益は同横ばい、純利益は同微減益見込みとしている。配当予想は同1円増配の年間27円(期末一括)で、予想配当性向は41.9%となる。

 第1四半期の進捗率を見ると、通期予想に対しては売上高が23.6%、営業利益が24.3%、経常利益が22.9%、純利益が22.6%とやや低水準の形だが、第2四半期累計に対しては売上高が49.0%、営業利益が55.4%、経常利益が54.5%、純利益が54.8%と高水準である。ワイヤレス・ブロードバンド事業が順調に推移しており、ストック型ビジネスモデルであることを考慮すれば通期会社予想に上振れ余地がありそうだ。

■株価はモミ合い上放れの動き

 株価の動き(16年3月1日付で東証1部へ市場変更)を見ると、1800円~2000円近辺でのモミ合いから上放れて、5月10日の年初来高値2453円まで上伸した。その後は利益確定売りで一旦反落したが自律調整の範囲だろう。

 5月27日の終値2047円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS64円49銭で算出)は31~32倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間27円で算出)は1.3%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS261円99銭で算出)は7.8倍近辺である。時価総額は約212億円である。

 週足チャートで見ると13週移動平均線が26週移動平均線を上抜いてサポートラインの形となった。強基調への転換を確認した形だ。モミ合い上放れて続伸展開だろう。

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