【アナリスト水田雅展の銘柄分析】JPホールディングスの17年3月期は保育士待遇改善で減益予想だが、待機児童解消政策が追い風

 JPホールディングス<2749>(東1)は保育所運営の最大手で、グループ力を活かした総合子育て支援カンパニーである。17年3月期は賃金大幅引き上げなど保育士待遇改善費用で減益予想だが、国の待機児童解消政策が追い風となる事業環境に変化はなく、中期的に収益拡大が期待される。株価は急伸した4月の年初来高値から一旦反落したが、調整が一巡して上値を試す展開だろう。

■保育所運営の最大手、保育所向け給食請負事業なども展開

 04年持株会社に移行した。保育所・学童クラブ・児童館などを運営する子育て支援事業(日本保育サービス、四国保育サービス)を主力に、保育所向け給食請負事業(ジェイキッチン)、英語・体操・リトミック教室請負事業(ジェイキャスト)、保育関連用品の物品販売事業(ジェイ・プランニング販売)、研究・研修・コンサルティング事業(日本保育総合研究所)も展開している。

 16年3月期末の子育て支援施設数は首都圏を中心として、保育所159園(認可園・公設民営10園、認可園・民設民営118園、東京都認証保育所26園、自治体認定保育所1園、その他認可外保育所4園)、学童クラブ55施設、児童館10施設の合計224園・施設(15年3月期比24園・施設増加)を展開している。保育所運営の売上規模で競合他社を大きく引き離す業界最大手である。

■グループ力を活かした総合子育て支援カンパニー

 当社の保育所は保育理念を「生きる力を育む」として、オートロックや緊急通報機器などを整備して職員への安全研修も充実した安全・セキュリティ管理、食物アレルギー・感染症・食中毒などに対応するための各種マニュアル整備、保育用品一括購入でコストを抑制するコスト管理、ジェイキャストによる独自の保育プログラム(英語・体操・リトミック)、ジェイキッチンによる安全な給食とクッキング保育、日本保育総合研究所による発育支援などに強みを持つ。グループ総合力を活かした総合子育て支援カンパニーである。

 15年10月には、運営するすべての保育所(159園)および学童クラブ・児童館(65施設)にAED(自動体外式除細動器)の配置を行うと発表した。当社の保育園および学童クラブ・児童館でAEDを必要とする事故などが発生した事例はないが、当社の運営理念である「安全・安心を第一に」のもと万全を期すことにした。

■保育士確保に向けて採用手法に工夫、賃金大幅引き上げも実施

 人材活用面では、配偶者の転勤への対応や時短勤務などそれぞれのライフイベントに添った勤務体系、福利厚生・研修制度の充実、男女を問わない産休・育休取得の推進などに取り組んでいる。女性の産休・育休取得率は90%以上で、15年3月期は124名(女性122名、男性2名)が産休・育休を取得した。

 15年11月には、グループ全体で社内クラブ活動の拡充・多様化を推進すると発表した。社員間の親睦・交流を促進し、ES(従業員満足)やCS(顧客満足)の向上に繋げる。

 保育士の新規採用については例年、概ね新卒200名程度、中途100名程度を採用している。そして16年春の新卒採用については、保育士資格を有する学生を即戦力に近い人材として採用するとともに、別の新規採用枠として保育士資格を持たない新卒を採用するなど、保育士確保に向けて採用手法を工夫している。保育士資格を持たない新卒の新規採用については、入社内定後の秋口に社内で業界初の「保育士養成講座」を開設し、4月の保育士試験にチャレンジさせる。保育士を目指す意欲のある一般学生に対して保育士資格取得のサポートを行う業界初の試みである。教材などの費用は会社が負担する。

 また16年3月には日本保育サービスが、学校法人敬心学園日本児童教育専門学校(2名)に4月から奨学金の支給を開始すると発表した。保育士志望学生向け給付型奨学金制度(日本保育サービスへの就職を希望する学生対象)で、保育士を安定的に確保するために、全国規模で保育士を目指す学生に奨学金支給を広げる方針としている。

 さらに5月10日には、日本保育サービスに勤務する保育士全員の賃金水準を引き上げると発表した。引き上げ幅は年収ベースにして平均4%相当の見込みで、保育士改善費用として17年3月期に3億円を予定している。16年3月期のベースアップ8%に続く2年連続の大幅賃上げとなる。また18年3月期にも賃金水準の引き上げを実施する予定で、社会的に評価される賃金制度の構築を目指すとしている。

■第3四半期(10月~12月)の利益構成比が高い収益構造

 15年3月期の四半期別業績推移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)42億29百万円、第2四半期(7月~9月)44億09百万円、第3四半期(10月~12月)45億93百万円、第4四半期(1月~3月)46億37百万円、営業利益は第1四半期2億19百万円、第2四半期3億29百万円、第3四半期5億69百万円、第4四半期3億14百万円、また経常利益は第1四半期2億55百万円、第2四半期3億56百万円、第3四半期5億86百万円、第4四半期4億39百万円だった。

 4月に新規施設の開園が集中することに加えて、15年3月期までは第4四半期に決算賞与を支給していたため、営業利益は第1四半期および第4四半期がやや低水準となり、稼働率が上昇する第3四半期が高水準となりやすい収益構造だった。また補助金も影響する。なお15年3月期の新規開設は、保育所17園、学童クラブ4施設の合計21園・施設だった。また閉鎖は保育所3園(認可保育園へ移転新設)、学童クラブ3施設(契約期間満了による撤退)だった。

 また15年3月期の売上総利益は14年3月期比5.5%増加し、売上総利益率は16.9%で同1.3ポイント低下した。販管費は同0.9%増加にとどまり、販管費比率は8.9%で同1.1ポイント低下した。ROEは18.5%で同0.3ポイント上昇した。自己資本比率は30.2%で同7.2ポイント低下した。配当性向は33.3%だった。利益配分については、将来の事業展開と経営体質の強化のために必要な内部留保を確保しつつ、配当性向30%前後の業績連動型配当の継続実施を基本方針としている。

■16年3月期は2桁増収増益

 5月10日発表した前期(16年3月期)連結業績は、売上高が前々期(15年3月期)比15.0%増の205億52百万円、営業利益が同28.2%増の18億34百万円、経常利益が同15.2%増の18億84百万円、純利益が同19.1%増の11億95百万円だった。

 16年3月期末の子育て支援施設数は首都圏を中心として、保育所159園(認可園・公設民営10園、認可園・民設民営118園、東京都認証保育所26園、自治体認定保育所1園、その他認可外保育所4園)、学童クラブ55施設、児童館10施設の合計224園・施設(15年3月期比24園・施設増加)となった。新規開設は保育所17園、学童クラブ12施設、児童館2施設、撤退は保育所3園、児童館1施設で、純増は保育所14園、学童クラブ12施設、児童館1施設だった。新たに名古屋市に参入した。

 新規施設開設や補助金増額などで人件費の増加などを吸収して2桁増収増益だった。売上総利益は同20.9%増加し、売上総利益率は17.8%で同0.9ポイント上昇した。販管費は同14.3%増加したが、販管費比率は8.9%で同横ばいだった。営業外収益では補助金収入が増加(前々期42百万円計上、前期57百万円計上)したが、前々期計上した投資有価証券売却益1億13百万円が一巡した。営業外費用では支払手数料22百万円、新株発行費16百万円を計上した。特別損失では園減損損失37百万円、東京支社減損損失45百万円を計上した。

 配当は同1円増配の年間5円(期末一括)で、配当性向は34.9%となる。ROEは19.4%で同0.9ポイント上昇、自己資本比率は30.5%で同0.3ポイント上昇した。

 四半期別の推業績移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)48億81百万円、第2四半期(7月~9月)50億60百万円、第3四半期(10月~12月)51億08百万円、第4四半期(1月~3月)55億03百万円、営業利益は第1四半期2億48百万円、第2四半期3億40百万円、第3四半期4億76百万円、第4四半期7億70百万円、経常利益は第1四半期2億80百万円、第2四半期3億57百万円、第3四半期4億99百万円、第4四半期7億48百万円だった。

■17年3月期は賃金大幅引き上げなど保育士待遇改善費用で減益予想

 今期(17年3月期)の連結業績予想(5月10日公表)については、売上高が前期(16年3月期)比8.7%増の223億40百万円、営業利益が同14.8%減の15億64百万円、経常利益が同12.4%減の16億51百万円、純利益が同11.9%減の10億57百万円としている。配当予想は同1円減配の年間4円(期末一括)で予想配当性向は31.6%となる。

 新規施設開設で増収だが、国の政策に先駆けて賃金大幅引き上げなど保育士の待遇改善を実施するための費用として3億円、保育園での業務負担を軽減するためのシステム導入関連費用として1億円を予定しているため減益予想である。保育士の確保と職場環境の改善による離職率の低減を目指す取り組みを推進する。

 新規施設開設は認可保育所13園、学童クラブ・児童館10施設の予定で、このうち16年4月末時点で認可保育所9園、学童クラブ6施設、児童館3施設を開設済みである。山形市、郡山市、藤沢市、大津市、豊中市、福岡市、那覇市に初進出する。

■中期経営計画を見直し

 5月10日に、15年5月策定した新中期経営計画の目標値見直し(保育士不足のため目標値を下方修正)を発表した。子育て支援サービスには保育士資格を有する人材の確保が不可欠であり、グループ全体の組織体制の整備・事業基盤強化のための新たな取り組みが必要と判断した。

 見直し後の重点目標は、安全対策の強化および保育の質のさらなる向上、新規開設および既存施設の保育士増員による受入児童数の拡大、人材への投資の拡大(採用活動の強化、人材育成の強化、人事評価制度の見直し)、経営管理体制の再整備(事業リスク管理体制強化、グループ会社連携強化)、収益基盤拡大に向けた新規事業への着手(民間児童クラブ、既存サービスの拡販)とした。

 重点目標の実現に向けた諸施策は、安全管理体制のさらなる強化(専門部署を創設して組織横断的な体制強化を推進)、従業員給与の引き上げ(15年度保育士の給与引き上げ8%実績、16年度引き上げ4%予定)、各分野におけるシステム導入(業務負担の軽減、経営管理の効率化)、保育士確保に向けた施策のさらなる充実(求人費予算の増額)とした。

 新たな予想数値は、17年3月期売上高223億円、経常利益16億円、保育所開設13園、学童クラブ・児童館開設10施設、18年3月期売上高240億円、経常利益19億円、保育所開設11園、学童クラブ・児童館開設7施設とした。なお上記とは別に、東京都認証保育所から認可保育所への移行(移転新設含む)が17年3月期2園、18年3月期2園、民間学童クラブの開設が17年3月期2施設の予定としている。

■国の待機児童解消策が追い風で中期的に収益拡大基調

 全国の保育所利用児童数は増加基調で、待機児童数は緩やかに減少傾向となっているが依然として解消せず、潜在需要も顕在化して首都圏や地方主要都市など、都市部を中心に保育サービスの需要は高水準である。

 アベノミクス成長戦略では「女性活用推進」を重点分野に位置付け、待機児童解消に向けた取組として、17年度末までに潜在的ニーズを含めて約40万人分の受け皿を確保することで待機児童解消を目指している。13~14年度を「緊急集中取組期間」として約20万人分、そして15~17年度を「取組加速期間」として約20万人分の保育の受け皿を確保するため、15年4月には新「子ども・子育て新支援制度」がスタートした。さらにアベノミクス「新3本の矢」では受け皿の目標を50万人に引き上げている。

 保育士の安定的確保が課題だが、待機児童解消政策論議が活発化し、給与引き上げなど保育士の待遇改善、保育所運営補助金の拡大、さらに規制緩和などの施策が進展する見込みだ。

 中期成長に向けた取り組みとして、認可園以外の新規分野への事業展開ではグループ総合力を活かし、英会話・体操・音楽などを導入して料金設定の面で自由度が高い「公的ではない学童クラブ」などによる幼児教育、さらに英会話プログラムなどの外販、他社既存保育園の給食請負受託などを推進する方針だ。またM&Aも検討するようだ。国の待機児童解消政策が追い風となる事業環境に変化はなく、中期的に収益拡大が期待される。

■毎年9月末に株主優待制度

 株主優待制度については毎年9月末日現在の500株以上所有株主を対象として実施している。優待内容は「あきたこまち5kg(新米)」を贈呈する。

■株式給付信託(従業員持株会型)を導入

 16年2月にはコミット型シンジケートローン契約を締結した。金額(最大限度額)30億円、契約締結日16年2月24日、契約形態コミット型タームローン、コミット期間16年2月29日~16年9月30日(予定)、アレンジャー兼エージェント三井住友銀行である。保育所の新規開設に係る設備投資資金等に充当する。

 また16年3月には、従業員の福利厚生の増進および当社の企業価値向上に係るインセンティブの付与を目的として、株式給付信託(従業員持株会処分型)の導入を発表した。本制度導入に伴い、資産管理サービス信託銀行(信託E口)への割り当てによって新株式439万2400株を発行(発行価額1株につき275円)する。株式数は信託期間中に当社従業員持株会に交付すると見込まれる株式数に相当(当初3年間拠出相当分)で、調達資金(差引手取概算額11億91百万円)については短期および長期借入金の返済資金に充当する。

■株価は4月の年初来高値から反落したが、調整一巡して上値試す

 なお女性活躍推進企業として、東京証券取引所と経済産業省の共同企画15年度「なでしこ銘柄」に、14年度に続いて選定された。

 株価の動きを見ると、急伸した4月12日の年初来高値438円から利益確定売りで一旦反落し、さらに17年3月期減益予想を嫌気して水準を切り下げた。ただし急伸前の2月安値圏200円台まで下押すことなく、350円近辺で調整一巡感を強めている。

 5月27日の終値337円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS12円68銭で算出)は26~27倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間配当4円で算出)は1.2%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS78円68銭で算出)は4.3倍近辺である。時価総額は約296億円である。

 週足チャートで見ると26週移動平均線近辺で下げ渋る動きだ。サポートラインを確認した形であり、調整が一巡して上値を試す展開だろう。

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■グローバルモデルに匹敵する日本語対応の高性能生成AIを4月から順次提供  ELYZAとKDDI<…
  2. ■優勝への軌跡と名将の言葉  学研ホールディングス<9470>(東証プライム)は3月14日、阪神タ…
  3. ■新たな映画プロジェクトを発表  任天堂は3月10日、イルミネーション(本社:米国カリフォルニア州…
2024年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

ピックアップ記事

  1. ■海運株と防衛関連株、原油価格の動向に注目集まる  地政学リスクによる市場の不安定さが増す中、安全…
  2. ■中東緊張と市場動向:投資家の選択は?  「遠い戦争は買い」とするのが、投資セオリーとされてきた。…
  3. ■節約志向が市場を動かす?  日本の消費者は、節約志向と低価格志向を持続しており、これが市場に影響…
  4. ■投資家の心理を揺さぶる相場の波  日米の高速エレベーター相場は、日替わりで上り下りと忙しい。とく…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る