【アナリスト水田雅展の銘柄分析】久世は17年3月期営業増益予想で収益改善基調期待

 久世<2708>(JQS)は外食・中食産業向け業務用食材卸売事業を首都圏中心に展開している。仕入価格上昇や物流コスト上昇などで営業損益が悪化していたが、16年3月期は売上高・利益とも計画超となり営業黒字化した。そして17年3月期も営業増益予想で収益改善基調が期待される。株価は戻り高値圏から反落してモミ合う展開だが、調整一巡して出直り展開だろう。

■業務用食材卸売事業を首都圏中心に展開

 首都圏を中心に、ファーストフード・ファミリーレストラン・カフェ、居酒屋・パブ、ディナーレストラン・ホテル・専門店、デリカ・惣菜・ケータリング・娯楽施設・その他など、外食・中食産業向けに業務用食材の卸売事業を展開し、大手飲食チェーンも主要顧客としている。子会社のキスコフーズは国内(静岡市)とニュージーランドで業務用高級ソース・高級スープの製造、久世フレッシュ・ワンは東京都内を中心に生鮮野菜など農産品の卸売を展開している。

 16年3月期のセグメント別売上構成比は食材卸売事業93.1%、食材製造事業6.7%、不動産賃貸事業0.2%だった。販売チャネル別売上構成比(単体ベース)は、ファーストフード・ファミリーレストラン・カフェ35.8%、居酒屋・パブ26.5%、ディナーレストラン・ホテル・専門店22.6%、デリカ・惣菜・ケータリング・娯楽施設・その他15.1%だった。

■販路拡大戦略を推進

 中期成長に向けた重点戦略として、首都圏・関西圏・中部圏での販路拡大、全国物流ネットワークの強化、中食市場や高齢者施設給食市場の開拓強化、PB商品の拡販や製造利益の拡大、海外事業の基盤確立などを推進している。

 販路拡大に向けたM&A・アライアンス戦略では、12年6月に中部圏で酒類販売大手サカツコーポレーションと業務提携し、14年4月には高級飲食店向けに強みを持つ水産物中卸会社の旭水産を子会社化した。

 15年3月には、海外子会社の久世(香港)が所有する中国・上海峰二食品有限公司の株式(保有割合10%)を国分に譲渡した。09年から上海峰二食品有限公司と業務用食材分野で協力関係にあり12年に出資したが、上海峰二食品有限公司が国分の資本参加を受けた機会に譲渡した。なお中国事業は久華世(成都)商貿有限公司を軸に継続する。

 子会社の久世フレッシュ・ワンは、15年9月に横浜中央市場の青果仲卸会社である丸ユ商店(横浜市)と業務提携した。良質な商品の安定的仕入に加えて、協働して産地開拓と商品開発も行う。15年10月に横浜事業所を開設し、神奈川エリアへの営業展開を強化している。また築地市場に加えて、大田市場と横浜市場で買参権を取得した。

■15年3月期は仕入価格上昇や物流コスト上昇で赤字

 15年3月期は、新規顧客の開拓や既存顧客の底上げなど営業強化の効果で14年3月期比9.3%増収だったが、仕入価格の上昇、物流コストの上昇、人件費の増加などが影響して各利益とも赤字だった。

 売上総利益は同9.1%増加したが、売上総利益率は16.6%で同0.1ポイント低下した。販管費は13.1%増加し、販管費比率は17.2%で同0.6ポイント上昇した。ROEはマイナス8.8%で同10.9ポイント低下、自己資本比率は23.5%で同1.7ポイント低下した。配当は14年3月期と同額の年間12円だった。

 なお15年3月期の四半期別業績推移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)163億73百万円、第2四半期(7月~9月)172億19百万円、第3四半期(10月~12月)183億76百万円、第4四半期(1月~3月)160億76百万円で、営業利益は第1四半期1億79百万円の赤字、第2四半期91百万円の赤字、第3四半期23百万円の黒字、第4四半期1億18百万円だった。

■16年3月期は売上高・利益とも計画超で営業黒字化

 前期(16年3月期)連結業績は、売上高が前々期(15年3月期)比1.5%減の671億93百万円、営業利益が4億39百万円の黒字(前々期は2億88百万円の赤字)、経常利益が5億93百万円の黒字(同1億99百万円の赤字)、純利益が4億85百万円の黒字(同4億12百万円の赤字)だった。

 大口取引先であるモンテローザとの取引を、両社合意の上で16年1月末に終了(15年3月期売上高約97億円、16年3月期売上高約80億円)したことで前々期比減収だったが、売上高・利益とも計画超の着地となって営業黒字化した。期初計画に対して売上高は34億93百万円、営業利益は3億19百万円、経常利益は3億58百万円、純利益は2億65百万円、それぞれ上回った。売上面では新規取引先の開拓(売上高36億円・2600店舗増加)、既存顧客との取引深耕、利益面では売上総利益率の改善、物流改善による物流費削減などが寄与した。

 売上総利益は同3.7%増加し、売上総利益率は17.6%で同0.9ポイント上昇した。販管費は同2.6%減少し、販管費比率は16.9%で同0.2ポイント低下した。販管費では運賃が2億14百万円(3.6%)減少した。営業外収益では保険解約益60百万円、特別利益では投資有価証券売却益85百万円を計上した。特別損失では前々期計上ののれん償却額1億84百万円が一巡した。

 ROEは10.2%で同19.0ポイント上昇、自己資本比率は26.0%で同2.5ポイント上昇した。配当は前々期と同額の年間12円(期末一括)とした。配当性向は9.6%となる。利益配分については、中長期視点で健全な株主資本を構成していくことと、業績動向および財務体質の強化を考慮しつつ、安定配当の維持を基本におきながら、弾力的に株主還元を図っていくことの二点を最重点に利益配分の提案を行っていくとしている。

 セグメント別(連結調整前)に見ると、食材卸売事業は売上高が同1.0%減の627億16百万円、営業利益が同6.0倍の7億40百万円だった。モンテローザとの取引解消で減収だったが、新規得意先開拓による営業基盤拡大、既存得意先との取引深耕、効率性を意識した営業の推進、品質面や価格面で競争力のある商品の提案営業の推進、物流業務の効率化などに取り組み、営業損益が大幅に改善した。食材製造事業は売上高が同8.0%減の44億86百万円、営業利益が同12.1%増の4億45百万円だった。原材料費上昇に対して生産性向上に取り組み、収益性の低い一部PB商品の減少も寄与した。不動産賃貸事業は売上高が同0.2%減の1億45百万円、営業利益が同3.8%増の1億11百万円だった。

 なお四半期別の業績推移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)165億02百万円、第2四半期(7月~9月)172億73百万円、第3四半期(10月~12月)183億48百万円、第4四半期(1月~3月)150億70百万円、営業利益は第1四半期1億30百万円の赤字、第2四半期99百万円の黒字、第3四半期2億86百万円の黒字、第4四半期1億84百万円の黒字だった。第4四半期の売上高はモンテローザとの取引解消で落ち込んだが、営業損益は改善基調だ。

■17年3月期営業増益予想で収益改善基調期待

 今期(17年3月期)の連結業績予想(5月10日公表)については、売上高が前期(16年3月期)比6.2%減の630億円、営業利益が同10.4%増の4億85百万円、経常利益が同10.7%減の5億30百万円、純利益が同21.8%減の3億80百万円としている。配当予想は前期と同額の年間12円(期末一括)で予想配当性向は12.2%となる。

 モンテローザとの取引解消が通期ベースで影響して減収だが、同社向け店舗配送・商品保管・庫内作業等の物流業務は全て外部委託しており、これらの諸経費も取引終了に伴ってなくなる。そして新規取引先の開拓、既存取引先のインストアシェアアップ、高付加価値商品拡販などによる売上総利益率改善、一段の物流業務効率化による物流費削減などで2桁営業増益予想としている。経常利益と純利益については、前期計上した営業外収益での保険解約益60百万円、特別利益での投資有価証券売却益85百万円が一巡して減益予想としているが、収益改善基調が期待される。

■中期経営計画でチェーン戦略強化

 第3次C&G中期経営計画では、経営目標数値に18年3月期の売上高670億円、営業利益6億70百万円、営業利益率1.0%、自己資本比率28.7%、ROE10.4%を掲げた。

 グループ事業の基本戦略(5つの柱)としては、チェーン戦略(KZN=久世全国ネットワーク)=効率的な全国物流ネットワークの構築と機能の強化、エリア戦略=3大都市圏のエリア特性にあった戦略、フルライン戦略=ワンストップショッピングを可能とするフルライン機能の強化、商品開発・加工・製造戦略=マーチャンダイズ機能の強化、海外事業戦略=新しいマーケットの開拓を推進する。

■株主優待制度は毎年3月末に実施

 株主優待制度については15年3月期から実施している。毎年3月31日現在の1単元(100株)以上保有株主を対象として、保有株数に応じて当社ブランド特選無洗米(山形県天童産はえぬき・新米)を贈呈する。100株以上~1000株未満保有株主には2.5kg、1000株以上~3000株未満保有株主には5kg、そして3000株以上保有株主には10kg贈呈する。

■株価は調整一巡して出直り

 株価の動きを見ると、3月の戻り高値圏800円台から反落し、750円近辺でモミ合う展開だが、調整一巡感を強めている。

 6月7日の終値742円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS98円14銭で算出)は7~8倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間12円で算出)は1.6%近辺、そして前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1290円81銭で算出)は0.6倍近辺である。時価総額は約29億円である。

 週足チャートで見ると13週移動平均線を割り込んだが、26週移動平均線近辺で下げ渋る動きだ。サポートラインを確認した形であり、調整が一巡して出直り展開だろう。

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■グローバルモデルに匹敵する日本語対応の高性能生成AIを4月から順次提供  ELYZAとKDDI<…
  2. ■優勝への軌跡と名将の言葉  学研ホールディングス<9470>(東証プライム)は3月14日、阪神タ…
  3. ■新たな映画プロジェクトを発表  任天堂は3月10日、イルミネーション(本社:米国カリフォルニア州…
2024年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

ピックアップ記事

  1. ■金先物と原油価格、史上最高値に迫る―地政学リスクが市場に与える影響  今週のコラムは、異例中の異…
  2. ■「虎」と「狼」の挟撃を振り切り地政学リスク関連株で「ピンチはチャンス」に再度トライ  東京市場は…
  3. ■海運株と防衛関連株、原油価格の動向に注目集まる  地政学リスクによる市場の不安定さが増す中、安全…
  4. ■中東緊張と市場動向:投資家の選択は?  「遠い戦争は買い」とするのが、投資セオリーとされてきた。…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る