川崎近海汽船は年初来安値更新だがほぼ底値圏

 川崎近海汽船<9179>(東2)は近海輸送と内航輸送が主力である。17年3月期は近海部門の市況低迷継続や内航部門の新規航路開設費用などで営業減益・減配予想だ。定期用船契約期限前解約に伴う特別損失計上も発表した。株価は年初来安値を更新する展開だが、指標面の割安感も強くほぼ底値面だろう。失望売り一巡や悪材料出尽くしで反発が期待される。

■近海輸送と内航輸送を展開

 石炭・木材・鋼材輸送などの近海部門、石炭・石灰石・紙製品・農産品輸送やフェリー輸送などの内航部門を展開している。16年3月期の売上構成比は近海部門が36.3%、内航部門が63.7%だった。

 中期成長に向けた新規分野として13年10月、オフショア・オペレーションと均等出資で合弁会社オフショア・ジャパンを設立した。日本近海における海洋資源開発・探査・掘削設備・洋上再生可能エネルギー設備に関わるオフショア支援船業務に進出する。

■新規航路開設も積極化

 15年12月には、静岡県清水港と大分県大分港をRORO船で結ぶ新規航路を16年10月に開設すると発表した。清水~大分間を20時間で結ぶ週3便運航を予定している。トレーラーでの海陸一貫輸送によって九州と首都圏、東海甲信地域を結ぶ物流のモーダルシフトが加速し、ドライバー不足問題の解決策の一つとして期待されている。

 15年12月には、当社、ネスレ日本、一般財団法人日本気象協会の3社が、気象予報を活用した海運により、日本のモーダルシフトを推進することで合意した。

 16年3月には、岩手県宮古港と北海道室蘭港を結ぶ新たなフェリー航路(宮古~室蘭326km)開設を発表した。航路開設時期は18年3月予定で1日1往復、毎日運航する。

■15年3月期第1四半期をボトムに営業損益改善基調

 15年3月期の四半期別推移を見ると売上高は第1四半期(4~6月)111億91百万円、第2四半期(7~9月)122億87百万円、第3四半期(10~12月)119億83百万円、第4四半期(1~3月)104億85百万円、営業利益は第1四半期56百万円の赤字、第2四半期8億59百万円、第3四半期9億60百万円、第4四半期5億98百万円だった。

 所有船のドック入りが集中して修繕費が増加した第1四半期をボトムとして、営業損益は改善基調である。また15年3月期の売上総利益率は12.9%で14年3月期比0.7ポイント上昇、販管費比率は7.8%で同横ばい、ROEは2.2%で同0.2ポイント低下、自己資本比率は56.3%で同3.6ポイント上昇した。配当性向は57.8%だった。

■16年3月期は計画超の大幅営業増益

 前期(16年3月期)連結業績は売上高が前々期(15年3月期)比7.5%減の424億98百万円、営業利益が同39.5%増の32億95百万円、経常利益が同30.3%増の31億78百万円、純利益が同52.0%増の7億71百万円だった。

 安定した輸送量を確保したが、燃料油価格下落に伴う燃料調整金等の減少幅が大きく減収となった。ただし円安やコスト削減効果も寄与して営業利益と経常利益は計画超の大幅増益だった。純利益は近海船の一部船舶に関して減損損失22億03百万円計上したため計画を下回ったが大幅増益だった。

 売上総利益は19.0%増加し、売上総利益率は16.6%で同3.7ポイント上昇した。販管費は5.4%増加し、販管費比率は8.9%で同1.1ポイント上昇した。営業外では為替差損益が悪化(前々期は差益1億21百万円計上、前期は差損73百万円計上)したが、金融収支が改善(前々期81百万円の赤字、前期44百万円の赤字)した。特別利益では固定資産売却益が減少(前々期2億99百万円計上、前期2億40百万円計上)した。特別損失では減損損失が増加(前々期17億71百万円計上、前期22億03百万円計上)した。ROEは3.4%で同1.2ポイント上昇、自己資本比率は61.9%で同5.6ポイント上昇した。配当は同3円増配の年間13円(第2四半期末6円、期末7円=普通配当5円+創立50周年記念配当2円)で配当性向は49.5%だった。

 セグメント別に見ると、近海部門は売上高が同7.3%減の154億44百万円だが、営業利益が10億67百万円の赤字(前々期は13億72百万円の赤字)で赤字が縮小した。バルク輸送で石炭・スラグ等の年度契約、木材輸送でバイオマス発電関連、鋼材・雑貨輸送で合い積み貨物取り込みなど安定した輸送量を確保したが、市況低迷継続で減収だった。利益面では高コスト船が収支を圧迫したが、コスト削減効果などで営業赤字が縮小した。

 内航部門は売上高が同7.6%減の270億51百万円だったが、営業利益が同16.8%増の43億63百万円だった。不定期船輸送では鉄鋼・セメントメーカー向け石灰石専用船、電力向け石炭専用船が順調だった。定期船輸送は大型船投入によるスペース拡大や、苫小牧航路における休日臨時運航などで輸送量が増加した。フェリー輸送は宅配貨物や食料工業品を中心に輸送量が増加した。旅客および乗用車も増加した。利益面では燃料油価格下落も寄与した。

 四半期別推移を見ると、売上高は第1四半期(4~6月)107億16百万円、第2四半期(7~9月)114億84百万円、第3四半期(10~12月)108億54百万円、第4四半期(1~3月)94億44百万円、営業利益は第1四半期3億円、第2四半期11億87百万円、第3四半期9億93百万円、第4四半期8億15百万円だった。

■17年3月期は営業減益・減益予想

 今期(17年3月期)連結業績予想(4月28日公表)については、売上高が前期(15年3月期)比11.8%減の378億円、営業利益が同63.6%減の12億円、経常利益が同63.8%減の11億50百万円、純利益が同3.7%増の8億円としている。配当予想は同5円減配の年間8円(第2四半期末4円、期末4円)で予想配当性向は29.4%となる。

 近海部門における市況低迷継続、内航部門における新規航路開設(16年10月清水~大分)費用および新造船竣工に伴う償却費増加などで減収、営業減益・経常減益予想だ。純利益は減損損失が一巡して増益予想である、前提条件は為替レートが1米ドル=110円(前期実績1米ドル=120円80銭)、燃料油価格(国内価格)が4万円(前期実績4万4738円)としている。

 今期の取り組みとして近海部門では、バルク輸送で高コスト船が収支を押し下げる要因となっているため、高コスト船の早期返船を進めて船隊規模の適正化を図る。木材輸送や鋼材・雑貨輸送では運航効率の向上を図る。内航部門では、不定期船輸送で石灰石専用船のリプレースを行い、定期船輸送では16年10月に清水~大分の新規航路を開設する。

 なお6月3日に定期用船契約期限前解約および特別損失計上を発表した。船隊規模適正化の一環として、高コスト用船の期限前解約での返船で船主と合意した。解約金額の約432万米ドル(約4億75百万円)を17年3月期第1四半期の特別損失に計上する。17年3月期業績予想については、今後の市況動向も考慮のうえ精査を行い、必要が生じた場合、速やかに開示するとしている。

■中期経営計画で19年3月期ROE7.2%目指す

 16年4月策定した16年度中期経営計画では、経営目標値に19年3月期売上高433億円(近海部門122億円、内航部門311億円)、営業利益28億円(近海部門11億円の赤字、内航部門39億円の利益)、経常利益27億50百万円、純利益18億50百万円、ROE7.2%、自己資本比率58.1%、DER0.50倍を掲げた。前提の為替レートは1米ドル=110円、燃料油価格は4万3400円である。

 新造船建造等に対する3年間の合計投資額は130億円とした。期間中の新造船は近海部門の一般貨物船2隻(社船と傭船)、内航部門の石灰石専用船1隻(社船)、RORO船1隻(社船)、旅客フェリー1隻(社船)の予定である。

 近海部門は極めて厳しい事業環境の中、喫緊の課題である収益改善に向けて船隊規模の適正化と積極的な貨物獲得を目指す。内航部門は、不定期船輸送における各専用船の安定輸送確保と新規顧客獲得、定期船輸送とフェリー輸送における新規航路開設による事業拡大を目指す。

 新規事業では、16年3月竣工した国内最高性能を誇る新造AHTSV(アンカー・ハンドリング・タグ・サプライ船)の「あかつき」の運航(オフショア・ジャパン)によって、日本近海における海洋資源開発・探査・掘削設備・洋上再生可能エネルギー設備に関わるオフショア支援船業務を開始する。

 陸上輸送におけるドライバー不足で海上輸送へのモーダルシフトが注目され、中期的にはオフショア支援船業務や新航路開設も寄与して収益拡大が期待される。

■株価は年初来安値更新だがほぼ底値圏、指標面に割安感

 株価の動きを見ると、地合い悪化も影響して年初来安値を更新する展開だ。6月16日と17日には268円まで調整した。13年9月以来の安値水準である。

 6月20日の終値273円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS27円25銭で算出)は10倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間8円で算出)は2.9%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS783円16銭で算出)は0.3倍近辺である。時価総額は約81億円である。

 週足チャートで見ると13週移動平均線に対するマイナス乖離率が拡大した。指標面の割安感も強くほぼ底値圏だろう。失望売り一巡や悪材料出尽くしで反発が期待される。(アナリスト水田雅展)

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