カーリットホールディングスの17年3月期は減益予想だが積極的な事業展開で中期的に収益拡大期待

 カーリットホールディングス<4275>(東1)は化学品事業を主力に、M&Aも活用して規模の拡大や事業の多様化を推進している。当社はロケット用固体推進薬原料を唯一製造しており、宇宙関連銘柄の一つである。17年3月期は中期経営計画で掲げている先行投資の影響により減益予想だが、積極的な事業展開で中期的に収益拡大が期待される。株価は地合い悪化の影響で急落したが売られ過ぎ感を強めている。0.5倍近辺の低PBRも注目され、市場が落ち着けば出直り展開だろう。

■化学品、ボトリング、産業用部材を展開、M&Aで事業多様化

 日本カーリットが株式移転で設立した純粋持株会社である。化学品事業(産業用爆薬、自動車用緊急保安炎筒、信号炎管、危険性評価試験受託、二次電池試験受託、化成品関連、電子材料・機能性材料など)、ボトリング事業、産業用部材事業(半導体用シリコンウェーハ、研削材、耐火・耐熱金物・スプリングワッシャーなど)を展開し、16年3月期売上高構成比は化学品39.6%、ボトリング38.4%、産業用部材19.2%、その他2.8%だった。

 化学品事業の自動車用緊急保安炎筒は新車装着用・車検交換用を展開し、国内市場シェアは約8~9割と想定されている。ボトリング事業は伊藤園<2593>向けが主力だ。産業用部材事業の半導体用シリコンウェーハは小口径4~6インチのニッチ市場を主力としている。海外は中国・上海、シンガポールに展開している。

 前中期経営計画「飛躍500」で「事業領域の拡大、市場の拡大、シェアの拡大という3つの拡大戦略により売上高500億円の化学会社への成長」を基本方針として、グループ収益基盤と総合力強化に向けたM&A戦略で事業の多角化を推進した。12年1月工業用塗料販売・塗装工事の富士商事、12年8月耐火・耐熱金物製造販売の並田機工、13年10月一級建築士事務所の総合設計、14年2月各種スプリング製造・販売の東洋発條工業を子会社化した。

■現中期経営計画「礎100」で事業基盤確立を推進

 15年2月策定の現中期経営計画「礎100」では、18年の創業100周年を迎え、次の100年企業の礎となる事業基盤確立を推進する。目標数値として18年度の売上高650億円、営業利益35億円、15年度~18年度4年間合計の設備投資額200億円を掲げた。中長期目標は24年度までに売上高1000億円企業としている。なお、配当性向は20~30%を目標としている。

 基本戦略としては、成長基盤強化(新商品・新規事業の創出と育成、M&Aや資本・技術提携など)、収益基盤強化(経営資源の有効配分、新商品開発のスピードアップなど)、グループ経営基盤強化(グループシナジーの最大化、子会社・事業の再編・統廃合、R&Dの新体制構築、海外展開の強化、CSR経営の推進など)を掲げている。

 新商品・新規事業の創出と育成に関しては、H-Ⅱロケット用など高エネルギー化学物質の宇宙産業への展開、環境・エネルギー関連における次世代蓄電デバイスへの展開、ライフサイエンスのヘルスケア材料における医薬・農薬関連への展開、無機機能材料の車載向けへの展開など、重点分野を一段と強化する方針だ。

 15年7月にはR&Dセンターとグループ会社のシリコンテクノロジーが、サーモグラフィー用材料分野への参入を目指すと発表した。車載、セキュリティ、エネルギーマネジメントなどで使用されるサーモグラフィー用材料分野の非冷却赤外線カメラ市場は拡大が予想されている。このため低コストで大量供給が可能なシリコンをベースに高性能結晶材料を開発し、タムロン<7740>など国内外の複数の企業とサンプルテストを実施して良好な結果が得られている。16年度上期の上市を目指すとしている。

 15年8月には日本カーリットが同社所有の水力発電所である広桃(こうとう)発電所(群馬県前橋市)の大規模更新工事の実施を決定した。工事完了は17年度、投資額は約23億円の予定である。

 16年4月には完全子会社の日本カーリット、日本研削砥粒、第一薬品興業の3社が合併(存続会社および新商号は日本カーリット)した。経営資源の集約、経営の一層の合理化、事業展開・業務運営の一体化を図る。

■M&A戦略を加速

 15年10月には連結子会社の並田機工が、アジア技研(北九州市)から溶接関連のスタッド事業(スタッドおよび溶接機械製造販売等)を譲り受け、アジア技研(大阪市)を新設して承継した。

 15年12月には並田機工が、ベトナムで耐火・耐熱金物を製造販売する子会社の設立(16年春設立、16年10月操業開始予定)を計画し、ASEAN地域市場に参入することを計画していると発表した。当社グループにとってASEAN地域における初の生産拠点となる。

 16年2月には合成樹脂原材料の販売を手掛ける三協実業(東京都)の全株式を取得して子会社化した。新たに合成樹脂製品分野で事業展開を図る。

■第1四半期はボトリング事業の定期メンテナンスが影響する収益構造

 15年3月期の四半期別業績推移を見ると、売上高は第1四半期106億67百万円、第2四半期115億52百万円、第3四半期110億29百万円、第4四半期128億61百万円、営業利益は第1四半期54百万円の赤字、第2四半期2億67百万円、第3四半期3億82百万円、第4四半期6億04百万円だった。

 第1四半期はボトリング事業における定期修理が影響する収益構造だ。15年3月期の売上総利益率は14.8%で14年3月期比0.7ポイント低下、販管費比率は12.2%で同0.7ポイント上昇した。ROEは5.4%で同1.5ポイント低下、自己資本比率は45.8%で同2.1ポイント上昇した。配当性向は19.3%だった。連結配当性向の目標は20~30%としている。

■16年3月期は増収・営業増益

 前期(16年3月期)連結業績は、前々期(15年3月期)比0.6%増収、同4.2%営業増益、同1.0%経常増益、同29.1%最終減益だった。純利益は固定資産売却益が一巡して減益だったが、M&Aによる新規連結も寄与して増収・営業増益・経常増益だった。

 売上総利益は同4.7%増加し、売上総利益率は15.4%で同0.6ポイント上昇した。販管費は同4.8%増加し、販管費比率は12.7%で同0.5ポイント上昇した。特別利益では前々期計上した固定資産売却益2億75百万円が一巡した。特別損失では前々期計上した環境対策引当金繰入額1億26百万円が一巡した。ROEは3.5%で同1.9ポイント低下、自己資本比率は48.0%で同2.2ポイント上昇した。配当は前々期と同額の年間10円(期末一括)で配当性向は30.2%だった。

 セグメント別(連結調整前)の動向を見ると、化学品は売上高が同11.9%増の183億57百万円で営業利益が同73.7%増の6億47百万円だった。自動車用緊急保安炎筒は新車販売台数の低調に伴う新車装着用減少を車検交換用増加がカバーし、危険性評価試験、電池試験、H-Ⅱロケット固体推進薬の原料である過塩素酸アンモニウムなどが大幅増収だった。

 ボトリングは売上高が同6.9%減の177億88百万円で営業利益が同2.7倍の4億14百万円だった。一部取引先の会計処理変更の影響で減収だが、コスト削減効果などで営業損益が大幅改善した。産業用部材は売上高が同2.7%減の89億07百万円で営業利益が同78.7%減の96百万円だった。シリコンウェーハ、ばね・座金製品などが中国の景気減速などの影響を受けた。

 四半期別業績推移を見ると、売上高は第1四半期107億20百万円、第2四半期119億38百万円、第3四半期114億81百万円、第4四半期122億39百万円、営業利益は第1四半期29百万円の赤字、第2四半期4億66百万円、第3四半期3億62百万円、第4四半期4億51百万円だった。

■17年3月期は減益予想だが、保守的な印象で上振れ余地

 今期(17年3月期)の連結業績予想(5月16日公表)については、売上高が前期(16年3月期)比10.0%増の510億円、営業利益が同4.0%減の12億円、経常利益が同2.3%減の13億円、純利益が同13.8%減の6億50百万円としている。配当予想は前期と同額の年間10円(期末一括)で、予想配当性向は36.4%となる。

 M&A子会社の通期連結も寄与して増収だが、中期経営計画で打ち立てている先行投資や中国など新興国の景気減速や為替の影響など不透明な事業環境を考慮して減益予想としている。ただし保守的な印象も強い。緊急脱出時ガラス破砕機能付自動車用緊急保安炎筒「ハイフレヤープラスピック」の拡販、二次電池充放電受託試験の収益化、コスト削減効果などで上振れ余地があるだろう。そしてM&Aを含む積極的な事業展開で中期的に収益拡大が期待される。

■株価は地合い悪化で急落したが売られ過ぎ感

 株価の動きを見ると、460円~500円近辺でモミ合う展開だったが、地合い悪化の影響で6月24日に年初来安値となる430円まで急落した。

 7月4日の終値463円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS27円47銭で算出)は16~17倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間10円で算出)は2.2%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS948円40銭で算出)は0.5倍近辺である。時価総額は約111億円である。

 週足チャートで見ると13週移動平均線が戻りを押さえる形だが、日足チャートで見ると25日移動平均線に対するマイナス乖離率が拡大して売られ過ぎ感を強めている。0.5倍近辺の低PBRも注目され、市場が落ち着けば出直り展開だろう。(日本インタビュ新聞アナリスト水田雅展)

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