政策コラボの「2勝1敗」が交錯する8月相場は円高メリット&デフレ関連株のマークも一考余地=浅妻昭治

<マーケットセンサー>

 8月相場の予告編、予兆・先取りするような前週末29日の相場乱高下であった。毎度お馴染みの「日銀プレー」といってしまえばそれまでだが、日銀の金融政策決定会合の結果発表を挟んで一時、日経平均株価が302円安まで売られ504円幅、日経225先物も550円幅、為替相場も、円安と円高で2.8円も大きく上下に振れるのを目の当たりにしたのである。こうなると一般投資家のマインドとしては、8月相場は「リスクオン」か「リスクオフ」か惑わされたことは間違いないところだろう。会合後の記者会見で黒田東彦総裁は、今回決定した追加緩和策について「企業や家計のコンフィデンスの悪化につながることを防止するため」と再三再四繰り返したが、自己責任を余儀なくされる個人投資家としては、なかなかスンナリとコンフィデンス(信頼)改善とはまいならない。

 株価、為替の乱高下は、今回の追加緩和策が、小ぶりで一部で失望を買ったうえに、次回の9月20日~21日に開催される金融政策決定会合で、2013年4月以来、進められてきた異次元金融緩和策について総括的な検証を行うと明らかにしたことで、「2年程度で2%上昇を実現する」とした物価目標の達成時期を変更するとの観測が強まったことが要因である。達成時期の先送りどころか、政策目標の根幹であるデフレ脱却自体が手詰まりになっていることさえ疑わせたからだ。

 だいたい今回の追加緩和策は、現行の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」策のうち、もっとも副作用の低い質的緩和策に絞ったと推測されるのである。マイナス金利の深掘り(引き下げ)は、銀行の収益悪化に拍車を掛け、国債の買入れ額増額は、国債の品薄感に加え財政ファイナンス批判を招く怖れがある。これに対してETF(上場投資信託)の買入れ額の3.3兆円から6兆円への増額や、成長支援資金供給・米ドル特則総枠の120億ドルから240億ドルへの倍増は、誰かにしわ寄せを及ぼす懸念はないのである。むしろ現行ETF買入れ額の増額では、株高や株価の下値硬直性を強め、成長支援資金供給は、円高・ドル安を抑える可能性もあるのである。しかも、政策コラボ(強調)、政策総動員できょう2日には安倍内閣が、事業規模28兆円の経済対策を決定する。盆と正月がいっぺんにやってきて、コンフィデンスの急回復につながるか注目される。とりあえず銀行株への追随追いと経済対策関連のゼネコン株などへの新規参戦を試してみる価値がある。

 唯一、問題があるとすれば為替相場の動向だろう。前週末の米国市場で、米国の2016年4~6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、市場予想を下回ったことから、FRB(連邦準備制度理事会)の年内の金利再引き下げが後退したとして、円買い・ドル売りが強まり一時、1ドル=101円台に進む円高となり、29日の東京市場の円高水準を上回ったからだ。29日に最初のピークを迎えた3月期決算会社の4~6月期業績の発表では、円高による減益業績や業績の下方修正は株価に織り込み済みとするのが市場コンセンサスとなってはいるものの、今年11月に大統領選挙を控えている米国の政治状況から、為替相場介入が円安誘導との反発を招いて政治問題化し、いっそう不透明化する可能性もある。

 以上のように、政策コラボの株価押し上げ効果は、追加金融緩和策と経済対策で「2勝」し、円高進行で「1敗」するとすれば、この「2勝1敗」が交錯する8月相場では、もう一つ注目してトライしてみたいのが、円高関連でなおかつデフレ関連でもある銘柄群である。円高が、調達コストの低減につながるとともに、なお節約・低価格志向が続く消費者のデフレマインドから業況も順調に推移する可能性があるからだ。また、関東甲信地方でもようやく梅雨明けした天候要因も、株価にフォローの材料となるとすれば思う壺で、7月相場でやや一服商状だった関連株に再出番を期待したいところである。

■アパレル・シューズ・家具のSPA株に外食産業株、100円ショップ株などに再出番を期待

 円高・デフレ関連株でまず浮上するのが、広い意味での製造小売(SPA)株である。アパレルのアダストリア<2685>(東1)、パル<2726>(東1)、ハニーズ<2792>(東1)、良品計画<7453>(東1)、ユナイテッドアローズ<7606>、しまむら<8227>(東1)、ファーストリテイリング<9983>(東1)のほか、シューズのエービーシー・マート<2670>(東1)、家具のニトリホールディングス<9843>(東1)、自転車のあさひ<3333>(東1)が該当する。

 輸入食材の価格低下の恩恵を受けるデフレ関連の外食株も要注目で、セルフうどん店のトリドール<3397>(東1)、焼肉のゼンショーホールディングス<7550>(東1)、格安イタリアンのサイゼリヤ<7581>(東1)、牛丼の吉野家ホールディングス<9861>(東1)などとなる。同じように輸入商社株のあらた<2733>(東1)、中山福<7442>(東1)、ドウシシャ<7483>(東1)、正栄食品工業<8079>(東2)にも円高メリットが期待される。

 デフレ関連の代表株は100円ショップ株で、キャンドウ<2698>(東1)、ワッツ<2735>(東1)、セリア<2782>(JQS)、音通<7647>(東2)と続く。以上に列記した消費関連株は多くが2月期・8月期決算会社であり、8月末の期末配当・中間配当の権利取り妙味を内包する銘柄も含まれる。また多くが、消費関連の勝ち組として投資採算上から割高水準まで買われるケースがあり、強弱感の対立から信用取組が株不足となり逆日歩のつく銘柄も散見されるだけに、好需給の株価押し上げ効果も想定される。

 穴株は、ソフトバンクグループ<9984>(東1)に代表されるように、円高を背景にした内-外の海外M&A(合併・買収)の積極化や、今回の日銀の米ドル特則拡大が追い風となるM&A関連株で、仲介会社の日本M&Aセンター<2127>(東1)、GCAサヴィアン<2174>(東1)、M&Aキャピタルパートナーズ<6080>(東1)は外せない。(本紙編集長・浅妻昭治)

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