日銀のETF買い関連株の一本足相場はなお健在も変わり目の秋相場ではニッチトップの小型株の並立も期待=浅妻昭治

<マーケットセンサー>

 「立秋」を過ぎると、時候の挨拶は「暑中見舞い」から「残暑見舞い」に変わる。株式市場も、お盆休みが明けると、秋相場への期待が高まる。高校野球の甲子園大会が終了し、手に汗を握ってテレビ観戦したリデオジャネイロ・オリンピックも閉会し、夏休めを決め込んでいた市場参加者が、市場に戻ってくるからだ。しかし、この秋相場への期待は、足元ではやや危なっかしい。円高・ドル安懸念が拭えないのである。為替相場が、1ドル=99円台への円高・ドル安へと反転し、100円台攻防を続けていることが、マイナスに働いているのである。

 9月20日から開催される日米の中央銀行の金融政策決定会合を前に、FOMC(米公開市場委員会)が、2回目の政策金利引き上げに踏み切るのか見送るのか、日銀の金融政策決定会合では、前回会合後の記者会見で黒田東彦総裁が強調した「総括的な検証」で何が飛び出すのか、サプライズ好きの黒田総裁だけに予断を許さないのが背景となっている。

 トヨタ自動車<7203>(東1)は、今年8月4日の今3月期第1四半期(2016年4月~6月期、1Q)決算開示時に、想定為替レートを期初予想の1ドル=105円から102円へ、1ユーロ=120円から113円へそれぞれ円高方向へ見直して今期通期業績を下方修正し、減益転換率を悪化させた。にもかかわらず株価は、悪材料織り込み済みとして400円高した。今後、為替相場が、想定レートを上回る円高・ドル安となったケースでは、1Q決算発表時と同様に株価に織り込み済みとなるかは覚束ない。

 もちろん保険はある。日銀のETF(上場投資信託)買いだ。前回7月末の金融政策決定会合で、ETF買入れ額の年間6兆円への倍増が決定された。相場格言には「知ったらお仕舞い」というアノマリーがあり、株価材料としては当たり前過ぎるほど当たり前だが、とにかく何があっても主力株の下値には日銀の実弾買いが入るのである。上値を買い上がることは想定し難いいものの、株価の下支え効果は絶大となる。

 秋相場の舞台も、引き続きこの日銀のETF買い関連株が主役として出ずっぱりのなることはほぼ間違いない。指数ウエートの高い銘柄で、日経平均型ETFではファナック<6954>(東1)、ファーストリテイリング<9983>(東1)、ソフトバンクグループ<9984>(東1)、KDDI<9433>(東1)、東証株価指数(TOPIX)型ETFでは、時価総額上位のトヨタやメガバンク株、TOPIXコア30の構成銘柄などとなる。ただこれだけで緩和強化策の目的とする資産価格に働きかけて企業や家計のコンフィデンスの回復、デフレ・マインドの払拭につながるかといえば不十分である。

 ETF買入れの一本足相場だけでなく、もっと幅広く銘柄が動意付き、銘柄物色にバラエティーが増せば、あの2012年12月のアベノミクス相場の初動段階のように、個人投資家の投資チャンスが拡大、資産効果で消費マインドもポジティブになってくるはずだ。こうした秋相場の候補株として注目したいのが、ニッチトップ株、オンリーワン企業の中小型株である。この代表株として上げたいのは、ヨネックス<7906>(東2)だ。同社株は、リオ五輪が開幕する前の今年8月1日に上場来高値6870円まで買い進まれ、前週末19日には同高値から200円幅も調整し、一部ネットでは「五輪相場はや閉幕」などと書き込まれているが、同社のチャートを長いスパンでリサーチするともう少し違うヘッドラインが出てきそうなのだ。

 同社株がはっきり長期上昇トレンド入りを鮮明化したのは、2014年9月からである。このとき何が起こったかといえば、テニスの錦織圭選手の全米プロ選手権での準優勝である。同選手は、同社のテニスラケットの契約プロではないが、この準優勝以来の各トーナメントでの活躍でテニス人気が再燃し、株価は、900円ソコソコから月足の大陽線を次々と立てつつ最高値まで実に7倍超の大化けを演じた。今回のリオ五輪でも、バドミントン・ラケットというニッチ分野で世界トップにいる同社には、日本選手が、初めてバドミントンの女子ダブルスで金メダル、女子シングルスでも銅メダルを獲得する追い風が吹いた。そればかりではない。卓球王国といわれ、今回のリオ五輪で男子団体・個人、女子団体・個人で金メダルを独占、絶対王者の地位を揺ぎないものにした中国の国内では、余りの強さゆえに逆に卓球人気にカゲリがみえ、かえってバドミントン人気が高まっているとの情報さえあるのである。秋相場での巻き返しは、十分に想定範囲内となる。

 こうした例は、ヨネックスだけにとどまるものではない。現に理美容器具だけに限れば専業トップのヤーマン<6630>(東1)は、今年8月15日に今4月期業績を上方修正、純利益が、5期ぶりに過去最高を更新することを手掛かりにストップ高したばかりだ。また大市場の稲作向け農薬に敢えて背を向け果樹用農薬のニッチ分野に特化している農薬メーカーのアグロ カネショウ<4955>(東1)は、円高の影響で今12月期第2四半期(2017年1月~6月期)が、減益転換して着地したものの、減益転換率は期初予想よりは縮小しており、株価も年初来高値近傍で堅調に推移している。

 秋相場が、日銀のETF買入れ関連の一本足相場から、二本立て相場、あるいはさらに物色範囲を広げ多様性相場を展開するとしたら、当然、こうしたニッチトップ株、オンリーワン企業の出番も巡って並立相場の可能性もあり、事前のマークは怠れない。そしてこの際の銘柄スクリーニングの参考としたいのが、ちょっと古い資料だが、昨年3月に経済産業省が、選定して公表した「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」である。具体的なGNT製品・サービスを列挙して、高い世界シェアと利益が両立し独創性と自立性があり、世界シェアの継続性もあるなどの評価ポイントで100社を選び、今後、多くの企業がグローバル市場に挑戦するための参考とした。このなかに上場企業の26社が含まれており、26社の業績、株価水準など精査すれば、自ずと出番接近銘柄の発掘も可能となってくるはずだ。

■扶桑化学、日立ハイテクの先駆2社を追って出遅れ10銘柄が高値挑戦も

 「GNT企業100選」のうちの上場企業で、この8月相場ですでに動意付いた先駆株がある。扶桑化学工業<4368>(東1)と日立ハイテクノロジーズ<8036>(東1)である。扶桑化学は、今年8月1日の今3月期第1四半期決算の開示とともに、今期第2四半期(2016年4月~9月期、2Q)累計業績を上方修正し、株価は年初来高値に顔合わせし、日立ハイテクも、同様に7月27日の今3月期1Q決算発表とともに、今期2Q累計業績を上方修正し、株価は年初来高値を更新している。

 先駆2社に共通しているのは、業績上方修正とともに、株価自体がPER評価から市場平均より出遅れていることである。そこで、リストの上場会社26社から先駆2社を除き出遅れ会社を精査すると10社が導き出された。コード番号順に上げるとセーレン<3569>(東1)、テイカ<4027>(東1)、大阪ソーダ<4046>(東1)、四国化成工業<4099>(東1)、メック<4971>(東1)、アイダエンジニアリング<6118>(東1)、日特エンジニアリング<6145>(JQS)、新東工業<6339>(東1)、ジェイテクト<6473>(東1)、エスペック<6859>(東1)となる。PER評価は、最割安なのがテイカの7倍台、最も高くてもジェイテクトの12倍台にとどまっている。

 いずれも3月期決算会社で、今期1Q業績は、円高の影響で減益転換して着地した銘柄が大半だが、3月通期業績は期初予想を据え置き、なかにはテイカ、アイダエンジ、エスペックのように期初予想通りに今期配当の増配を予定している銘柄も含まれている。先駆2社を追って高値挑戦の目も出てきそうである。(本紙編集長・浅妻昭治)

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