企業のCSR活動を評価対象とするSRI投資・ESG投資が拡大
CSR(企業の社会的責任)とは
CSR(corporate social responsibility=企業の社会的責任)というのは、企業が収益を上げて配当を行い、法令を順守するだけでなく、人権対策や男女平等に配慮した適正な雇用・労働条件の推進、消費者への適切な対応、環境問題への配慮、地域社会への貢献など、企業が市民として果たすべき社会的責任のことである。
従来、企業は経済的な組織として売上高や利益などの経済的成果によって評価されてきたが、企業の規模や社会的影響力が大きくなるにつれて、企業の社会的責任が問われるようになった。そして近年では企業の社会的活動と企業価値創造の関係性が確認されるようになったこともあり、企業のCSR活動に着目した責任投資(サステナブル投資)が機関投資家を中心に拡大している。
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企業のCSR活動を評価対象とするSRI投資・ESG投資が拡大
企業のCSR活動を評価対象として投資する手法はSRI投資(socially responsible investment=社会的責任投資)、または「環境・社会・企業統治」の3要素の頭文字「ESG」を取ったESG(Environment Social Governance=環境・社会・ガバナンス)投資と呼ばれている。
企業が社会的責任を積極的に果たしながら活動しているかということを考慮しながら、業績など財務面での評価と組み合わせて投資先を選別し、社会的な責任を果たしている優良な企業に投資を実行する投資手法である。
SRI投資の起源は1920年代
SRI投資(社会的責任投資)の起源は1920年代の米国で、教会が資産運用にあたってキリスト教的倫理の観点から、アルコール、タバコ、ギャンブル、武器など社会的にみて望ましくない事業に関わる企業を、投資対象から除外したことに始まったとされている。その後、米国で企業に社会的責任を求める運動が高まり、1970年代にはベトナム戦争に関わる企業、1980年代には当時アパルトヘイト政策を採用していた南アフリカへの進出企業を、投資対象から除外するネガティブ・スクリーニングに繋がった。
さらに1990年代に入ると地球環境問題、人権問題、開発途上国問題などへの関心が高まり、2000年代に入ると社会問題への対応に優れた企業を選んで投資するポジティブ・スクリーニングが広がった。当初のSRI投資は投資信託を購入する個人投資家が中心だったが、1990年代後半からは機関投資家が運用にSRI投資を組み込み始めた。2000年には英国で年金基金が倫理などを投資に考慮するよう求める法改正があり、環境・社会・人権などに配慮した企業で構成する株価指数も開発された。
2000年代に入ると企業不祥事が相次いだことも契機として、企業統治の在り方や透明性に対する投資家の意識が高まった。そして2006年には国連責任投資原則(UNPRI)が制定され、投資の意思決定の過程に「環境・社会・企業統治」を意味する「ESG」の課題を取り入れることや、投資対象の企業にESG課題の適切な開示を求めるなどの6原則が掲げられた。それ以来、欧米の年金基金を中心にESG(環境・社会・ガバナンス)投資という概念が広まった。
近年はESG投資が世界的な主流
国連責任投資原則(UNPRI)発足によってESG(環境・社会・ガバナンス)投資が広がり、さらに2015年にESGを考慮しないと受託者責任不履行にあたるとの見解が公表されたこともあり、現在では運用資産残高で世界上位20の年金基金のうち12の年金基金がESG投資を実施している。またUNPRIに署名した世界の機関投資家は16年4月時点で約1500に達し、世界のESG投資の総運用資産規模は約62兆ドルに膨らんだとされている。
UNPRIに署名した年金基金や機関投資家は6原則に従ってESGを投資判断に組み込み、投資先を選別して投資を実行する。企業が本業の競争力を高めて成長を持続させるには、目先の利益を追うだけでなく、環境問題への取り組みや社会との調和が欠かせないとの認識に基づく投資判断である。企業のESG順守と業績の関係を分析したハンブルク大学とドイチェ・アセット・アンド・ウェルス・マネジメントによると、ESGを重視する企業は長期的な投資収益が優れているという。
日本でもESG投資が拡大
日本でもESG投資(環境・社会・ガバナンス投資)が急速な広がりを見せている。日本では1999年に環境面を考慮に入れたエコ・ファンドが登場したが、その後は企業に社会的責任を求める動きが広がらず、責任投資は欧米に比べて出遅れていた。しかし2000年代中頃から、企業に社会的責任を求めるグローバルな潮流を受けて産業界での取り組みが活発になり始めた。
そして2015年9月、世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連責任投資原則(UNPRI)に署名したこともあり、大手生損保などの機関投資家を中心としてUNPRIに署名してESG投資を拡大させる動きが活発化している。
日本でESG投資が普及し始めた背景には、責任ある機関投資家の行動原則をまとめた「日本版スチュワードシップ・コード」制定も後押し要因となったとされている。同コードは機関投資家に社会や環境問題に関連するリスク対応を含めて企業の状況を的確に把握することを求めており、同コード受け入れを表明した機関投資家は16年3月時点で200社を超えている。
東京証券取引所は2012年7月にESG銘柄を選定
なお東京証券取引所は「なでしこ銘柄」「攻めのIT経営銘柄」など、特定のテーマや指標をベースにテーマ銘柄を抽出し、個人投資家向けに公表している。
その第1回として2012年7月に、経営の持続的な成長が見込まれる指標ESGで企業を視る「ESG銘柄」を選定し、公表(詳細は日本取引所グループのホームページ「テーマ銘柄で見る企業」を参照)している。
企業はESG投資に向けた情報発信やIRが求められる
日本においてもESG投資が主流になりつつある状況を鑑みれば、投資家にESG投資の対象として選ばれるために、企業にとっては財務以外の情報開示や投資家との対話などの重要性が一段と高まっている。
環境省は上場企業の環境経営情報を一元的に閲覧できる情報開示システムを整備する方針だ。2016年秋にトヨタ自動車、パナソニック、ソニーなど200社程度が参加し、2020年度には東証1部の主要800社前後が加わる見込みだ。
経営戦略、財務情報、そしてCSR情報までを1冊にまとめて開示する統合報告書を採用する企業も増加しているが、短期的な業績目標の達成や形式的なCSR報告書・統合報告書の作成、受動的な自社ホームページでの閲覧などにとどまらず、社会的責任や企業統治を意識した経営方針と課題の明確化、投資家が求めるグローバルな基準での情報開示、さらに投資家と向き合うための能動的な情報発信や積極的なIR(投資家向け広報)などの対応が求められるだろう。