川崎近海汽船は底打ちして基調転換の動き、船隊規模適正化や新規航路開設で収益改善期待

 川崎近海汽船<9179>(東2)は近海輸送と内航輸送が主力である。中期的には、近海部門における船隊規模適正化、内航部門における新規航路開設、日本近海におけるオフショア支援船業務、さらにコスト削減効果などで収益改善が期待される。株価は底打ちして基調転換の動きを強めている。0.4倍近辺の低PBRなど指標面の割安感も見直して戻り歩調が期待される。

■近海輸送と内航輸送を展開

 石炭・木材・鋼材輸送などの近海部門、石炭・石灰石・紙製品・農産品輸送やフェリー輸送などの内航部門を展開している。16年3月期の売上高構成比は近海部門が36%、内航部門が64%だった。

 中期成長に向けた新規分野として13年10月、オフショア・オペレーションと均等出資で合弁会社オフショア・ジャパンを設立した。日本近海における海洋資源開発・探査・掘削設備・洋上再生可能エネルギー設備に関わるオフショア支援船業務に進出する。

■内航部門の新規航路開設を推進

 15年12月には、静岡県清水港と大分県大分港をRORO船で結ぶ新規航路を16年10月に開設すると発表した。清水~大分間を20時間で結ぶ週3便運航を予定している。トレーラーでの海陸一貫輸送によって九州と首都圏、東海甲信地域を結ぶ物流のモーダルシフトが加速し、ドライバー不足問題の解決策の一つとして期待されている。

 15年12月には当社、ネスレ日本、一般財団法人日本気象協会の3社が、気象予報を活用した海運により、日本のモーダルシフトを推進することで合意した。

 16年3月には、岩手県宮古港と北海道室蘭港を結ぶ新たなフェリー航路(宮古~室蘭326km)開設を発表した。航路開設時期は18年3月予定で1日1往復、毎日運航する。

 16年7月には、16年10月開設する清水~大分航路にRORO船「北王丸」を投入し、現在「北王丸」を配船している常陸那珂~苫小牧航路に現在建造中の「冨王丸」を投入すると発表した。

 また9月1日には、需要増大が期待されているバイオマス燃料用貨物(PKS、木質パレット等)輸送への取り組みを強化するべく、専任機関としてバイオマス関連輸送ワーキンググループを設置(10月3日付)すると発表した。

■輸送量、運賃市況、燃料油価格などが影響する収益構造

 四半期別業績推移を見ると、15年3月期は売上高が第1四半期111億91百万円、第2四半期122億87百万円、第3四半期119億83百万円、第4四半期104億85百万円、営業利益が56百万円の赤字、8億59百万円、9億60百万円、5億98百万円、16年3月期は売上高が107億16百万円、114億84百万円、108億54百万円、94億44百万円、営業利益が3億円、11億87百万円、9億93百万円、8億15百万円だった。

 輸送量、運賃市況、燃料油価格などが影響する収益構造である。16年3月期は安定した輸送量を確保したが、燃料油価格下落に伴う燃料調整金等の減少幅が大きく減収、営業利益と経常利益は円安やコスト削減効果が寄与して増益、純利益は近海部門の一部船舶に関する減損損失を計上したが増益だった。

 なお16年3月期の売上総利益は15年3月期比19.0%増加し、売上総利益率は16.6%で同3.7ポイント上昇した。販管費は同5.4%増加し、販管費比率は8.9%で同1.1ポイント上昇した。営業外では為替差損益が悪化したが金融収支が改善した。特別損失では減損損失が増加した。ROEは3.4%で同1.2ポイント上昇、自己資本比率は61.9%で同5.6ポイント上昇した。また配当性向は49.5%だった。

 セグメント別に見ると、近海部門は売上高が同7.3%減の154億44百万円だが、営業利益が10億67百万円の赤字(前々期は13億72百万円の赤字)だった。市況低迷で減収だが、コスト削減効果などで営業赤字が縮小した。内航部門は売上高が同7.6%減の270億51百万円だが、営業利益が同16.8%増の43億63百万円だった。不定期船輸送では鉄鋼・セメントメーカー向け石灰石専用船、電力向け石炭専用船が順調だった。定期船輸送は大型船投入によるスペース拡大などで輸送量が増加した。利益面では燃料油価格下落も寄与した。

■17年3月期第1四半期は大幅減収で赤字

 今期(17年3月期)第1四半期(4~6月)の連結業績は、売上高が前年同期比18.5%減の87億35百万円、営業利益が1億72百万円の赤字(前年同期は3億円の黒字)、経常利益が2億64百万円の赤字(同3億09百万円の黒字)、純利益が5億42百万円の赤字(同2億01百万円の黒字)だった。

 近海部門における輸出鋼材輸送量の減少、バルク輸送の市況低迷、内航部門のフェリー輸送におけるトラック輸送量の減少などで大幅減収となり、各利益は赤字だった。売上総利益は同33.0%減少し、売上総利益率は9.4%で同2.0ポイント低下した。販管費は同7.6%増加し、販管費比率は11.4%で同2.8ポイント上昇した。営業外では為替差損益が悪化(前期は差益11百万円、今期は差損87百万円)した。また船隊規模適正化の一環として高コスト用船の期限前解約での返船を行い、用船契約解約金4億64百万円を特別損失に計上した。

 セグメント別に見ると、近海部門は売上高が同32.9%減の28億86百万円で営業利益が4億04百万円の赤字(前年同期は1億21百万円の赤字)だった。内航部門は売上高が同8.8%減の58億48百万円で営業利益が同45.2%減の2億31百万円だった。

■17年3月期第2四半期累計を修正、通期は据え置き

 第1四半期業績および第2四半期に予想される外部環境を考慮して、7月29日に今期(17年3月期)第2四半期累計(4~9月)の連結業績予想を修正した。前回予想(4月28日公表)に対して売上高を1億円増額、営業利益を据え置き、経常利益を50百万円減額、純利益を3億50百万円減額した。修正後の売上高は前年同期比17.6%減の183億円、営業利益は同59.7%減の6億円、経常利益は同65.8%減の5億円、純利益は同89.6%減の1億円とした。前提は、為替レートが1ドル=105円(前回前提は1ドル=110円)で、燃料油価格がC重油3万9000円/KL(同4万円/KL)である。

 今期(17年3月期)通期の連結業績予想は前回予想(4月28日公表)を据え置いて、売上高が前期(15年3月期)比11.8%減の378億円、営業利益が同63.6%減の12億円、経常利益が同63.8%減の11億50百万円、純利益が同3.7%増の8億円としている。配当予想は同5円減配の年間8円(第2四半期末4円、期末4円)で予想配当性向は29.4%となる。

 近海部門における市況低迷継続、内航部門における新規航路開設(16年10月清水~大分)費用および新造船竣工に伴う償却費増加などで減収、営業減益・経常減益予想だ。純利益は減損損失が一巡して増益予想である、なお通期予想については、今後の市況動向を考慮のうえ精査を行い、必要が生じた場合には速やかに開示するとしている。

 今期の取り組みとして近海部門では、バルク輸送の高コスト船の早期返船を進めて船隊規模の適正化を図る。木材輸送や鋼材・雑貨輸送では運航効率の向上を図る。内航部門では不定期船輸送で石灰石専用船のリプレースを行い、定期船輸送では16年10月に清水~大分の新規航路を開設する。

■中期経営計画で19年3月期ROE7.2%目指す

 16年4月策定した16年度中期経営計画では、経営目標値に19年3月期売上高433億円(近海部門122億円、内航部門311億円)、営業利益28億円(近海部門11億円の赤字、内航部門39億円の利益)、経常利益27億50百万円、純利益18億50百万円、ROE7.2%、自己資本比率58.1%、DER0.50倍を掲げた。前提の為替レートは1米ドル=110円、燃料油価格は4万3400円である。

 新造船建造等に対する3年間の合計投資額は130億円とした。期間中の新造船は近海部門の一般貨物船2隻(社船と傭船)、内航部門の石灰石専用船1隻(社船)、RORO船1隻(社船)、旅客フェリー1隻(社船)の予定である。

 近海部門は極めて厳しい事業環境の中、喫緊の課題である収益改善に向けて船隊規模の適正化と積極的な貨物獲得を目指す。内航部門は不定期船輸送における各専用船の安定輸送確保と新規顧客獲得、定期船輸送とフェリー輸送における新規航路開設による事業拡大を目指す。

 新規事業では、16年3月竣工した国内最高性能を誇る新造AHTSV(アンカー・ハンドリング・タグ・サプライ船)の「あかつき」の運航(オフショア・ジャパン)によって、日本近海における海洋資源開発・探査・掘削設備・洋上再生可能エネルギー設備に関わるオフショア支援船業務を開始する。

 陸上輸送におけるドライバー不足で海上輸送へのモーダルシフトが注目され、中期的には、近海部門における船隊規模適正化、内航部門における新規航路開設、日本近海におけるオフショア支援船業務、さらにコスト削減効果などで収益改善が期待される。

■株価は底打ちして基調転換の動き

 株価の動きを見ると、6月の年初来安値262円から下値を切り上げている。そして9月26日には291円まで上伸した。

 9月26日の終値291円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS27円25銭で算出)は10~11倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間8円で算出)は2.8%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS783円16銭で算出)は0.4倍近辺である。時価総額は約86億円である。

 週足チャートで見ると13週移動平均線に続いて、戻りを押さえていた26週移動平均線を突破した。6月安値での底打ちを確認して基調転換する動きだ。0.4倍近辺の低PBRなど指標面の割安感も見直して戻り歩調が期待される。(日本インタビュ新聞アナリスト水田雅展)

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