【小倉正男の経済コラム】トランプ氏の「社会主義市場経済」

■トランプの企業経営への介入は社会主義経済

 アメリカの次期大統領であるトランプ氏のツイッターによる企業経営に対する介入が止まらない。

 フォード,GMにメキシコに工場を移転するなとツイート、メキシコに工場を建設するなら大型の輸入税を課すと脅かしを発信した。
 さらにはトヨタにまでメキシコに工場を建てるのは、「ありえない」と――。トヨタだけではなく、ほかの日本の自動車企業にも余波が直撃しかねない状況になっている。

 減税、例えばトランプ氏が唱える法人税の35%から15%への大型減税などは市場経済を基本にした経済政策になる。
 法人税が低率なのだから、企業はアメリカで安心してビジネス活動を行ってくれ、海外企業もアメリカでビジネスを広く展開してくれ、というメッセージになる。

 しかし、アメリカの工場をメキシコに移転するな、メキシコなどに工場を建設するな――、と民間企業に「命令」、あるいは「恫喝」するのは市場経済とは程遠いことになる。
これははっきり言えば社会主義、一歩譲っても社会主義市場経済にほかならない。

■徳川吉宗の米相場への介入=悲惨な結末

 社会主義経済、あるいは社会主義市場経済がうまくいった例はない。結果は惨めな失敗になりかねない。
市場経済を人為の力で支配・統制するというのは、ほとんど無茶な話であり、「専制君主」のつもりか、という事態になる。

 江戸時代に八代将軍・徳川吉宗が米相場に介入したという事例がある。徳川吉宗に付けられたアダ名は「米将軍」、米相場を上げようとした。しかし、その結末だが米相場は暴落に見舞われた。
市場経済を人為の力で支配・統制しようとしたが、もたらされたのは市場経済からの逆襲であった。

 徳川吉宗としては、家臣たちが家禄をお米でもらっているのだから、米相場を上げればそれは家臣たちの給料がアップすることになる。家臣たちの生活の向上を考えて、「ポピュリズム」政策を採ったわけである。

しかし、新田開発、農業技術の発展などがあるのだから、おのずとお米の生産量は上がり、そしてお米の価格は下がる。「米将軍」であれ、市場経済を支配・統制しようというのはどだい無理であった。

■トランプ氏自体も5~6度の倒産で市場経済に痛い目に

 トランプ氏自体も倒産は1度や2度ではない。それどころか倒産は5度、6度というのだから、市場や市場経済の逆襲にとことん痛い目にあっている。
 その恩典で、トランプ氏は税金をほとんど払っていないというのである。

 トランプ氏は、市場経済に逆らっても勝てないことは痛いほど知っているはずである。

 不動産という浮き沈みが激しいマーケットで、企業経営者をやってきているのだから、市場経済を体でわかっているに違いない。
 ところが、「アメリカ・ファースト」になると、まったくの別人格になり社会主義、あるいは社会主義市場経済の信奉者になる。

 日本の企業経営者のなかにも市場経済に逆らう人がいるものである。能力は乏しいがやる気は満々といった企業経営者が、市場経済の警鐘や逆襲に遭遇しても、それをしっかり理解しようとしないケースがある。大概うまくいかない。

 それはともあれ、トランプ氏の矛盾に満ちた政策は大変興味深いのだが、市場経済への支配・統制は悲惨な結末になることはほとんど間違いない。微力ながら、それを少しひっそりと指摘しておかなければならない。

(小倉正男=『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任して現職)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■全従業員にAI活用徹底、業務改革を本格化  LINEヤフー<4689>(東証プライム)は7月14…
  2. ■50年以上親しまれたかぜ薬が国内市場から姿を消す?  大正製薬は7月14日、塗るかぜ薬「ヴイック…
  3. ■鈴鹿8耐で新型CBコンセプト登場  ホンダ<7267>(東証プライム)は7月11日、大型ロードス…
2025年9月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

ピックアップ記事

  1. ■01銘柄:往年の主力株が再評価、低PER・PBRで買い候補に  今週の当コラムでは、買い遅れカバ…
  2. ■日米同時最高値への買い遅れは「TOPIXコア30」と「01銘柄」の出遅れ株でカバー  日米同時最…
  3. ■東京株、NYダウ反落と首相辞任で先行き不透明  東京株式市場は米国雇用統計の弱含みでNYダウが反…
  4. ■株式分割銘柄:62社に拡大、投資単位引き下げで流動性向上  選り取り見取りで目移りがしそうだ。今…
  5. ■金先物相場を背景に産金株が収益拡大の余地を示す  東京市場では金価格の上昇を背景に産金株が年初来…
  6. ■大統領の交渉術が金融市場を左右し投資家心理に波及  米国のトランプ大統領は、ギリシャ神話に登場す…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る