【話題】トランプ米大統領の就任演説

■米国民の利益優先「米国ファースト」を強調した就任演説

 1月20日、ドナルド・トランプ氏が米国の第45代大統領に就任した。就任式における演説では「米国民の利益を最優先に考える」「米国ファーストの政策を実行する」「米国を再び偉大な国にする」と決意表明した。

 法人税減税や財政支出拡大といった具体的政策には言及しなかったものの、経済政策面では「米国製品を買い、米国人労働者を雇用する」という基本ルールを強調した。国内での投資・生産拡大による雇用拡大、社会インフラの再整備、不法移民の排除、過激なイスラム主義テロリズムの撲滅など、選挙期間中から繰り返し表明していた基本政策を実行する決意を改めて示した形だ。

 そして就任式直後には早くも6項目の政策方針を発表した。通商政策ではTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱、およびNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を表明した。NAFTAの再交渉では「米国ファースト」に基づいて、米労働者の利益にならなければ離脱を通知するとしている。さらに医療保険制度改革法(オバマケア)の見直しに向けた大統領令に署名した。

■「米国ファースト」は他国の利益に繋がるか?

 こうしたトランプ米大統領の動きに対して、世界の主要各国の反応は、現時点では具体的な政策が不透明だが、就任演説の内容が想定内だったとして概ね歓迎ムードのようだ。ただし「米国ファースト」が米国以外の国の利益に繋がるとは言えない。

 トランプ米大統領の基本政策は、オバマ前政権の多国間主義からの全面的な政策転換という印象が強い。そして行き過ぎたグローバル資本主義の修正や、格差是正に向けた大転換との見方もある。

 ただし米国という世界一の経済・軍事大国が政策を「米国ファースト」に大転換することで、自国民の利益を最優先する「自国ファースト」を強調したポピュリズムやナショナリズムが世界的な潮流になる可能性もある。トランプ大統領が極端に保護的な通商政策への傾倒を強めるようであれば、世界経済の停滞・縮小に対する警戒感を強めることになる。世界が自由貿易陣営と保護貿易陣営に二分される状況も警戒しなければならない。

 いずれにしても、トランプ米大統領が基本政策として「米国ファースト」を強調したことで、世界主要各国は通商戦略にとどまらず、外交政策や同盟関係の見直しを迫られることになる。

 英国は既に16年6月の国民投票でEUからの離脱(ブレグジット)を選択し、さらにメイ首相が1月17日、移民規制や司法権独立を優先してEU域内の単一市場から完全に離脱する方針(ハード・ブレグジット)を表明した。

 日本も例外ではない。トランプ米大統領のTPP離脱表明で、安倍政権の重要政策と位置付けられてきたTPPは事実上白紙となった。さらに今後、通貨政策による為替変動、日本からの輸出に対する関税問題や数量規制問題、防衛費負担問題などが浮上することに対する警戒感も払拭できない。

■金融市場は落ち着いた動きで重要イベントを波乱なく通過

 20日の米国市場では、トランプ米大統領の就任演説直後に、米国株は上げ幅を縮小し、ドル・円相場はドル安・円高方向に傾いた。ただし就任演説の内容に具体性が欠けていたこともあり、特筆するほどの動きではなく、どちらかと言えば落ち着いた動きだった。重要イベントを波乱なく通過した形だ。

 既に過度な期待感は後退し、トランプ・ラリーの高揚感も沈静化している。トランプ新政権の減税政策、財政支出政策、通貨政策、さらに規制緩和政策の具体化を見極める必要があり、暫くの間は「米国ファースト」が世界経済に与える影響を巡って見方が交錯しそうだ。

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