【インタビュー】JPホールディングスの代表取締役・荻田和宏氏に聞く

保育士さん不足は続くが積極採用に努め「待機児童」解消に取り組む

事業所内保育施設の運営も資生堂を手はじめに拡大めざす

 JPホールディングス<2749>(東1)は、全国に保育園を172園運営するほか、学童クラブ、児童館など合計250施設(2016年12月末現在)を運営する子育て支援事業の最大手。「待機児童」の解消が急がれる一方で、東京都の保育士の求人倍率は6倍前後のため採用難。先生の絶対数が足りず、受け入れ児童数を増やせないジレンマを抱える中で、現状と展望を代表取締役・荻田和宏氏に聞いた。

東南アジアでは日本式の「しつけ」に評価が高くベトナムでの開設準備も進む

 ―――投資家目線で伺いますと、保育園の運営や幼児教育には様々な規制があって事業として息苦しい印象を受けますが。

 保育・幼児教育の事業には、国と自治体によるサポートというか色々な支援がある。ただ、ザックリ言えば、株式会社よりも社会福祉法人が有利な部分などがあり、かなり改善されてきたが、まだ格差みたいなものが存在することは確かだ。

 また、保育士の先生が圧倒的に足りない中で、お給料を上げましょうということで小池東京都知事も予算を取ってくれた。非常にありがたいことだと思う。が、国と自治体の制度全体を見ると少々使いにくい部分もある。これは、われわれ事業者と当局とのコミュニケーション不足があるのかもしれない。当社も内閣府とやり取りしているし、加藤勝信大臣(少子化対策、男女共同参画)大臣ともお会いしたことはあるが、もう少し意見交換する機会を設けていただければ、現場サイドで抱えている問題などをストレートにお伝えできるのではないかと思う。せっかく予算をつけていただくのだから、効率よく活用する意味でもコミュニケーションは重要になる。

保育士さんの給与水準は業界平均より年収ベースで30万円ほど高い

 ―――保育士さんの報酬、給与の引き上げがニュースになったりしています。御社の水準や来年度の見通しはいかがですか。

 当社の場合、保育士さんの給与は2015年時点において業界平均より年収ベースで30万円ほどは高い水準にある。まあ、その分、会社としての利益は下がっているんですが。そして、来年度も定期昇給を含めて、まだ固まってはいないが2%から3%のアップを考えている。そのぐらいの賃上げはやる予定だ。

 ―――そうすると、賃上げ効果で人手不足は解消できそうですか。

 保育士さんの採用困難が言われはじめてからもう5年ほどになる。求人倍率が毎年上がり、おととし(2015年)の求人倍率は東京都で6倍を超えた。去年(16年)も年間ではおそらく同程度だろう。けれども、当社の採用者数は、おととしよりも去年は15%増しだった。今年は、まだ採用を継続しているので固まっていないが、去年よりも着地で2割増しにはなるだろう。給与だけではないと思うが、給与アップの効果は出てきているとみている。来年も引き上げる。

 ただ、保育士さん不足は来年以降、少しは緩和するとみている。というのは、全国の事業者にいえることだが、業界はもう何年も保育所を作って数を増やし拡大してきた。しかし、これだけ採用が困難になってくると、もう増設はムリという事業者が出ている。当社も開園のペースを落としたほどだ。ハイピッチの増設が鈍化すれば、採用に関する需給は多少緩和に向かうとみている。

 ―――採用難の保育士さんですが、新年度はどのくらい採用をお考えですか。

 今年度の採用目標は新卒で250名を計画しており、最終的におそらく240名は採用できる見込みだ。来年度の計画は、今日も1時間ほど前まで会議にかけていたが、担当の方からは300名という数字が上がってきたばかりだ。これぐらい来てくださると、会社としての利益率は改善します。
 
 というのは、当社の保育園などの稼働率は現在、平均82%前後で推移している。待機している児童は多く、施設も部屋もあるんだが先生が足りない。入れたくてもお子さんをお預かりすることができない、という園がほとんどだ。この意味で、先生方が増えれば、会社としては増収増益に直結するんですよ。ただ、これは「たられば」の話で、採用できなかったら来年度も苦しい状態が続く。

事業所内保育所は資生堂のほかに20社以上から問い合わせが

 ―――昨年11月、資生堂と事業所内保育事業に取り組むと発表しました。

 発表後、資生堂さん以外にも20社以上から問い合わせがきている。現在、担当のスタッフが各社さんに出向いて打ち合わせなどを行っているところだ。まだ詳しいお話はできないが、資生堂さんの掛川工場よりも先行するところが出てくる可能性があるかもしれない。

 ―――海外でも保育事業を展開と聞いています。

 現在、ベトナムでの準備が先行しているほか、シンガポール、マレーシア、インドネシアではパートナー企業が見つかり、準備を進めている。ベトナムでは、まずホーチミンとダナンで開園する計画で、今日もダナンで新会社を設立する書類にサインしたばかりだ。ホーチミンの方は合弁展開だが、ベトナムの新学期は9月なので、遅くともこの頃までには第1号を開園したい。また、シンガポールやインドネシアなどではパートナー企業が各々事業を行なっているので、準備は早く進む可能性もある。

ベトナムなどでは日本式の「しつけ」に対する注目度や評価が高い

 印象的なのは、ベトナムやインドネシアでは、全体に親日的というか、「読み書き」などに加えて日本式の「しつけ」に対する注目度が非常に高いことだ。たとえば、掃除ができる、片付けができる、といったことのほかに、自分の靴をそろえるとか、ゲタ箱にしまうとか、何でこんな小さな子供たちがここまでできるのかと、現地の幼稚園関係者の中には考えられないといって驚く人もいる。現地の幼稚園の中でこうした教育を取り入れた所は評判で、見学に訪れる人が多い。それぐらい、日本式の「しつけ」には注目度が高い。

 このため、当社でも、英語・音楽・体操といったカリキュラムは当然取り入れるが、さらに「しつけ」の面を厚くしたい。ぜんぜん興味がないよ、といった国なら別だが、ベトナムなどでは注目度も評価も高いので、こうした教育を重視するのも大切で有意義ではないかと考えている。

 ―――ベトナムなどで保育対象とする子供はやはり富裕層ですか。

 いや、そんなことはない。ターゲットとしては平均的なサラリーマン家庭のお子さんを考えていて、収入という意味では中所得層から高所得層といったところを計画している。アセアン諸国ではお母さんも働いている家庭が多く、共働きは当たり前。こうした点でも幅広い層にニーズがあるとみている。私がお邪魔した幼稚園では、1施設に100人ほどいる幼稚園でも、もっと入りたいという子供が多く、それこそ「待機」しているような状態のところが少なくなかった。

 ―――業界の大手として、M&Aによる展開などはお考えですか。

 先生の採用がこれだけ難かしくなってくると、異業種から参入してきたところの中には厳しい所もあると思う。キッチリ運営しないと行政からの指導、お叱りもある。大変な仕事ではある。運営が厳しくなっても、閉めることができなければ売却ということになり、こうした意味での再編の動きは割と早く出てくる可能性があるかも知れない。

 現在は潜在的な待機児童数が公表数値の十数倍とみられるなど、ニーズは非常にたくさんあるのだが、長期的にみればこのまま続くわけではない。その先を展望しておくべきだと考えている。この線上にあるものが海外展開であり、新規事業として昨年着手した民間学童クラブ「AEL」(アエル)の展開だ。

 学童クラブは、これまで当社が手がけてきた事業は公的な学童クラブの運営だったが、保育園と同様に数が全く足りない状態だ。保育園の待機児童は年間約2万4000人に達しているが、学童クラブの待機児童数も同じく1万6000人から1万7000人に達していて、施設は相当に足りない。公的な学童クラブは勉強を教えたりできないので、それならば、施設の数も足りなくてニーズもあるのであれば、認可外で独自のプラグラムを導入してお子さんをお預かりしましょうということで、「AEL」(アエル)の積極的な展開を計画している。

 ―――ありがとうございました。

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