【宮田修 アナウンサー神主のため息】モンゴルに日本を見る

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 毎年4月になると3週間ほど、モンゴルに行くことにしています。モンゴル通いが始まってすでに10年を超えています。毎年の楽しみになっていると言って良いでしょう。モンゴルの子どもたちに日本語を教えるのです。一応標準的な日本語を話す元アナウンサーですのでお役にたてるのではないかと考えボランティアで続けています。きれいな日本語を話してほしいと思い、日本語の発音に力を入れています。「ハイ!大きな口を開けてア、イ、ウ、エ、オ」と何度も繰り返しているうちに子どもたちから「アイウエオ先生」というニックネームをもらいました。

 モンゴルに行くのにはもう一つの楽しみがあります。それは現在の日本にとっては少し困ったことでもあるのですが、外国であるモンゴルに日本を感じに行くのです。モンゴルに日本を?不思議だと思います。実は私が日本語を教えている学校は、日本式の教育をしています。学校ができたのは今から17年前です。創立者である理事長は、日本の大学に留学していました。モンゴルで大学の先生をしていた彼はスキルアップのため来日しました。わが子が高校生になり、授業参観で日本の高校を訪ねました。そこで彼は、日本の教育の素晴らしさに打たれたのです。もともとは物理の先生でした。しかしその時、これと同じような高校をモンゴルに作りたいと考え、日本人たちの応援も得て開校したのです。それが首都ウランバートルにある新モンゴル学園です。現在は、小学校、中学校、そして大学、高専もある総合学園になりました。ウランバートルで子どもを持つ親ならわが子を是非入学させたいと言わせる素晴らしい学校に成長しました。

 朝、子どもたちが登校します。先生数人が玄関で子どもたちを迎えます。「お早うございます」「お早うございます」日本語で挨拶です。この風景は日本でもよく見かけますが、違うのは登校した子どものうちの何人かが今度は出迎える方に回ります。実に気持ちの良い朝です。チャイムが鳴って授業が始まります。日本語の授業では、当番の生徒が「起立!」「先生よろしくお願いします」号令をかけると他の生徒がこれに倣います。授業が終わればもちろん「先生有難うございました」です。実にきちんとしています。廊下では立ち止まって「先生こんにちは」と挨拶してくれます。かつて私たちが子どもの頃は日本の学校で普通に見られた光景ですが、おそらく今の日本にはないでしょう。

 日本では、学校でのいじめが大きな問題になっています。モンゴルの子どもたちに話してみました。私が何について話しているのかすぐには理解できなかったようです。いじめというものがどういうものなのかまったく理解できないようでした。なんでそんなことをするのですかと言う顔つきです。私の子どもの頃、日本にもいじめはありませんでした。友だちと喧嘩をしたことはあります。しかし相手が泣いたらそれで終わりです。それがルールでした。いじめを苦に自殺するなどと言うことは聞いたことがありません。

 お昼の食堂です。子どもたちはクラスごとに集まり「いただきます」「ごちそうさまでした」と日本語で食前、食後の感謝をします。私はそばでそれを聞いていて自分の子どもの頃を思い出してしまうのです。モンゴルに日本があるのです。

 モンゴルは日本に比べると貧しいかも知れません。でも彼らの顔を見ていると実に幸せそうです。私の子どもの頃、日本は貧しかったです。でも幸せでした。モンゴルの子どもたちと同じでした。ちょっと待ってください。日本は豊かになりました。それは幸せになるためではなかったのでしょうか。またいつもと同じように混乱してきました。豊かになれば幸せになれると信じて頑張り豊かになりました。でも幸せになれないなんておかしいですね。モンゴルでかつての日本を見ているとそんなことを考えてしまうのです。(宮田修=元NHKアナウンサー、現在は千葉県長南町の宮司)

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