【小倉正男の経済コラム】ふるさと納税規制にみる中央集権再強化

小倉正男の経済コラム

■規制が再強化、カルテル経済を再構築

 地方自治・地方分権といわれてすでにずいぶん月日が過ぎている。しかし、地方自治・地方分権が進んだか、といえばまったくそうではない。
 むしろ、規制が強まり、中央集権が再強化されている感がないではない。

 例えば、大学(=企業)をつくるのに文科省が需要予測までして許認可権を振りかざしている。これではまるで社会主義経済である。
 ビールには安売り規制が行われている。ビール類は競争するな、ということか。これも市場経済に規制の手を入れている。

 日本では、「原則=規制・特例=自由」の経済を当たり前に受け止められているが、かなり異形なシステムである。
 企業には誕生する権利があり、死ぬ=倒産する自由がある。それをお役所=国が管理・統制するのは「社会主義市場経済」の変型ということにならないか。

 お役所=国が企業の新規参入権を規制すれば、これはれっきとしたカルテルであり既存業者の既得権を保護する政策になる。

 中世以来の「座」のシステムであり、ここにお役人が天下りする構造が形成される――。合法的な”賄賂”みたいなものであり、行政はもともとから歪んでいることになりかねない。

■ふるさと納税にまで国が細かい規制

 身近なことでは、ふるさと納税にまで「あーしろ」「こーしろ」と細かい規制が入っている。

 ふるさと納税の返礼は寄付額の3割を上限にしろ、そして返礼品の中身についてもこれは禁止とか、まるで子供扱いで地方自治体に指示を出している。
 これでは本末転倒というか、地方自治・地方分権どころか、中央集権そのものということになる。

 政界・官界、すなわち国は「地方自治・地方分権」と意味もなくお題目を唱えているが、本音は中央集権という姿が浮かび上がってくる。

 ふるさと納税にいたるまで地方自治体に競争するな、とカルテルを要請している。地方が国のこうした細かい規制を緩めるにはあの手この手の陳情などが必要になる。
 政界・官界=国は、ふるさと納税にも規制を入れて、(無意識のうちにも)利権の拡大行為をしていることにならないか。無意識の面があり、これはさらに始末が悪いことになる。

■下(=人々)からみた地方自治・地方分権

 地方自治・地方分権は、上からみれば統治形態だが、下からみれば少し違ってくる。

 どの地方が住みやすいのか、食べ物が旨いのか、生活環境がよいのか、そして税金が安いのか、というのが下からみた地方自治・地方分権である。

 極論すれば、人々がどの地方に住みたいか、人々がどの地方に税金を払いたいのか、というのが地方自治・地方分権になる。ふるさと納税は、その擬似的な形態ということができそうだ。

 地方自治・地方分権とは、地方が人々に選んでもらえるようにほかの地方と競争することにほかならない。
 ふるさと納税は、まがりなりにもその競争が始まったということなのだが、早くも国のストップ(=規制)が行われている。

 人々目線の地方自治・地方分権が論じられるのはいつか。もしかすると、この地には永遠にその時は来ないかもしれないという気がしないではない・・・。

(小倉正男=『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任して現職)

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