【アナリスト水田雅展の銘柄分析】TACは調整の最終局面、16年3月期の収益改善期待で反発のタイミング

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 「資格の学校」を運営するTAC<4319>(東1)の株価は、第3四半期累計(4月~12月)の大幅減益を嫌気して230円近辺でのモミ合いから下放れ、2月20日には昨年来安値208円まで調整しました。ただし13年10月安値207円に接近して調整の最終局面と考えられます。来期(16年3月期)の収益改善期待で反発のタイミングが接近しているようです。

 財務・会計分野(簿記検定・公認会計士など)、経営・税務分野(税理士・中小企業診断士など)、金融・不動産分野(宅建・不動産鑑定士・FPなど)、法律分野(司法試験・司法書士など)、公務員・労務分野(社会保険労務士・国家総合職など)といった幅広い分野で「資格の学校」を運営し、法人研修事業、出版事業、人材事業も展開しています。

 財務・会計、経営・税務、法律など既存領域の市場が縮小傾向のため、中期成長に向けてオンライン教育(Webなどの通信系講座)の活用や、教員、医療、介護、語学など新領域への事業展開を強化しています。

 13年12月に増進会出版社(子会社のZ会が通信教育事業などを展開)と資本業務提携し、当社の教室運営ノウハウや資格系コンテンツ開発力と、増進会出版社の通信教育ノウハウや教養系コンテンツ開発力を融合させたソリューションの提供を目指しています。14年8月には増進会出版社が第2位株主となって資本関係を強化しました。

 14年6月には、レセプト点検・整理業務を中心に医療機関事務分野の人材サービスを展開するクボ医療(兵庫県加古郡)と、医療事務に関する労働者派遣事業・レセプト作成請負業務を展開する医療事務スタッフ関西(兵庫県神戸市)を子会社化しました。医療事務講座への進出、医療事務関連の人材サービス事業の全国展開を推進する方針です。11月には関西の4校舎で「医療事務講座」を開講しました。

 11月にはトーハン・コンサルティングとの業務提携、および介護系資格取得支援事業の開始を発表しました。そしてトーハン・コンサルティングが展開する介護系資格取得教室を、当社の主要校舎において「介護教室ケアマイスター TAC教室」の名称で15年1月から開講しています。

 12月には子会社TAC医療事務スタッフを設立しました。クボ医療および医療事務スタッフ関西を子会社化し、自ら育成した医療機関系人材を幅広い医療機関に提供することが可能になったため、新たに子会社を設立して関東エリアでも医療事務スタッフ派遣事業や診療報酬請求事務請負事業を展開する方針です。

 15年1月には「相続アドバイザー講座」の開講を発表しました。銀行業務検定のうち相続アドバイザー3級は14年3月から実施された新しい試験で、15年から相続税および贈与税の税制改正が行われたため、初回試験の受験者が約1万人に達する注目度が高い試験となっています。

 なお当社の四半期業績は資格講座の本試験実施・合格発表の時期との関係で季節変動の特徴があります。公認会計士・税理士講座は第2四半期(7月~9月)と第3四半期(10月~12月)が翌年受験のための申込時期となるため、第2四半期と第3四半期は現金売上および売掛金計上が増加します。しかし受講期間に応じて前受金に振り替えられる一方で、経費は毎四半期一定額が計上されるため売上総利益率が低下します。そして第4四半期(1月~3月)と第1四半期(4月~6月)は、前受金が各月の売上高に振り替えられるため売上総利益率が上昇する傾向が強い収益構造です。

 2月3日発表の今期(15年3月期)第3四半期累計(4月~12月)の連結業績は、売上高が前年同期比5.2%減の147億53百万円、営業利益が同71.2%減の3億59百万円、経常利益が同59.8%減の6億円、純利益が同61.0%減の3億64百万円となりました。

 受講者数の減少や販管費の増加などで減収減益となりました。ただし損益計算書に計上される発生ベース売上高は同5.2%減収となりましたが、当社が経営管理上重視している現金ベース売上高は同0.5%減収にとどまり、第2四半期累計(4月~9月)の同9.6%減収に比べて、第3四半期(10月~12月)は大幅に改善したようです。

 受講者数は個人受講者数が同6.1%減の10万7194人、法人受講者数が同0.8%増の5万2841人で、合計は同3.9%減の16万35人となりました。法人受講者は通信受講形態が同10.9%増と好調のようです。また分野別には、会計系3講座の受講者数減少傾向が続き、法律系講座も低調のようですが、金融・不動産分野や公務員講座が好調を維持しているようです。

 なお四半期別推移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)54億04百万円、第2四半期(7月~9月)49億56百万円、第3四半期(10月~12月)43億91百万円、売上総利益率は第1四半期44.4%、第2四半期39.4%、第3四半期31.1%で、営業利益は第1四半期5億75百万円、第2四半期2億12百万円、第3四半期は季節要因も影響して4億28百万円の赤字です。

 通期の連結業績見通しは前回予想(5月15日公表)を据え置いて、売上高が前期比1.1%減の203億円、営業利益が同1.5%増の10億50百万円、経常利益が同16.9%減の10億80百万円、純利益が同24.7%減の6億15百万円、配当予想は前期と同額の年間1円(期末一括)としています。

 消費増税前駆け込み申込の反動影響で減収見通し、投資有価証券運用益一巡なども影響して経常利益と純利益は減益見通しとしています。通期見通しに対する第3四半期累計の進捗率は売上高72.7%、営業利益34.2%、経常利益55.6%、純利益59.2%と利益進捗率が低水準のため通期下振れに注意が必要ですが、景気回復に伴って財務・会計系の求人ニーズが高まっていることや、第4四半期(1月~3月)の売上総利益率が上昇しやすい収益構造を考慮すれば挽回の可能性もあるでしょう。

 今後の重点取り組みとして、新講座(教員試験対策講座、建築士講座など)の開発と収益化、医療・介護系分野の講座や人材ビジネスへの進出と拡大、増進会出版社との共同事業の推進、連結子会社オンラインスクールによる新たな資格学習者層の開拓・囲い込み、事業構造改善やコスト削減の継続的実施を推進する方針です。

 来期(16年3月期)は、増進会出版社との業務提携効果に加えて、医療事務講座の開講や医療事務に係る派遣事業開始の本格寄与が期待されます。本社ビル取得によって年間1億70百万円程度の営業損益改善効果が見込まれることもプラス要因であり、収益改善基調が期待されます。

 株価の動きを見ると、第3四半期累計の大幅減益を嫌気する形で230円近辺でのモミ合いから下放れ、2月4日と5日に209円、20日には昨年来安値となる208円まで調整しました。ただし13年10月安値207円に接近して調整の最終局面と考えられます。

 2月23日の終値213円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS33円24銭で算出)は6~7倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間1円で算出)は0.5%近辺、前期実績PBR(前期実績の連結BPS224円46銭で算出)は0.9倍近辺です。

 週足チャートで見ると26週移動平均線が抵抗線の形ですが、調整のほぼ最終局面と考えられ、来期の収益改善期待で反発のタイミングが接近しているようです。

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