【どう見るこの相場】日銀総裁もプッシュ?!値上げ効果で業績上方修正が相次ぐ「重厚長大」株に株高航続力を期待

どう見るこの相場

 「トンからグラムへ」、「軽薄短小」などというキャッチコピーをご存知の投資家の方は、かなりのベテランだろう。あのバブル経済が兆しつつあった前夜、1980年代前半に広く膾炙した流行語であったからだ。産業構造の変革に向けコンピューターと通信、放送の融合が大命題となり、産業のソフト化に向け「トン」単位のロットで商売をしていた既存の「重厚長大」のハード産業が、「グラム」にターゲットを定める「軽薄短小」のソフト産業に高度化、高付加価値化しなければ「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の先行きは拓けないとして、大きくクローズアップされたものだ。兜町でも、通信機株などを中心に関連株探しに大忙しとなった。

 ところが周知のように、マネーが溢れ返るバブル経済の爛熟化とともに経済社会の方向性は、「一億総不動産屋化」へ走り、「財テク」に血道を上げ、「軽薄短小」よりも「重厚長大」の方が商売が簡単だと逆走し、ついにあの1989年のバブル経済・バブル相場の大天井を迎えてしまった。それ以来、「重厚長大」株は、業界再編を繰り返しながらも兜町では、三番手、四番手の位置付けを甘んじ、長く不遇の身をかこった。足元でもトップ・テーマのAI(人工知能)、IoT、クラウドなどの先陣争いを繰り広げている最先端のIT(情報技術)セクターから大きく水を開けられている。

 その「重厚長大」株に大復活の兆しが強まっているとしたらどうだろうか?にわかには信じてもらえないかもしれないが、あの黒田東彦日本銀行総裁も、プッシュしているフシがあるのだ。黒田総裁は、過日7月31日まで開催された金融政策決定会合後の記者会見で、物価目標2%の達成は、企業の価格設定スタンスが積極化すれば可能となるメカニズムを示した。折からの四半期決算の発表では、このメカニズム通りに値上げ効果で業績を上方修正する「重厚長大」株が続出したのである。しかも、この「重厚長大」株は、バブル経済下とは異なって、投資バリュー的にも上値余地を示している。この上方修正株の株高航続力に期待して追随買いするのも、サマー・ラリーを成功裡に乗り切る有望方法の一つとして浮上しそうだ。

■外食産業の「勝ち組」が値上げで一転して急降下した鳥貴族とは一線

 記者会見で黒田総裁は、同時発表の「展望レポート」に触れながら、物価目標2%の達成に時間を要している背景についてコメントした。企業の賃金設定スタンスがなお慎重で、家計の値上げに対する許容度が明確に高まらず、企業が、仕入価格が上昇し賃金コストが緩やかながら増加しているなかで価格設定スタンスになお慎重であることを上げた。経済は、「景気」の「気」にも表れているように「気(マインド)」が好・不況を左右する最大のファクターとなる。消費者マインドは、節約志向のままで現金を溜め込み、企業家マインドは、価格競争が激化するなか、デジタル化などの技術進歩を取り入れてカバーして価格転嫁を見送っている。さらに投資家マインドに至っても、今回の金融政策決定会合の決定が、記者会見の言葉通りに異次元緩和策の強化継続か、それとも「出口戦略」の踏み石なのかシグナルが読み切れずに戸惑い、「インフレ・マインド」の醸成は覚束なく、「デフレ経済」が「インフレ経済」に脱却するシナリオはどんどん遠去かる結果となった。

 そうしたなかで、足元で値上げによって業績を上方修正する「重厚長大」株が続いたのである。多分、黒田総裁は、表彰状を贈呈したくなる心境になったのではないかと忖度したくなる。というのも、企業の賃金設定スタンスの慎重化に対して、安倍晋三首相が、これまで再三にわたり経済界に対して賃上げを迫る「官製春闘」を繰り返しており、黒田総裁も、企業の販売価格の値上げについても経済界に「官製談合」を臭わせ、「みんなで渡れば怖くない」式の勧奨をしたのではないかとも勝手解釈さえされるからだ。

 もちろん、値上げをしたからといって即、業績の上方修正につながるとは限らないことは注意を要する。これで引き合いに出されるのが、値上げを巡る明暗である。この代表は、外食産業の2社で、同じ時期の2017年10月に商品価格を値上げした鳥貴族<3193>(東1)とペッパーフードサービス<3053>(東1)である。両社とも値上げ発表直後は、株高の反応となったものの、鳥貴族は、全商品の均一価格を280円から298円に引き上げた結果、以来、既存店の月次客数が大幅減となり売上高もマイナスのままで、今年7月6日には目下集計中の前2018年7月期業績を下方修正し大幅減益となった。一方、ペッパーフードは、ペッパーランチ事業の店舗の月次売上高は5年を超えて前年同月を上回り、株価も、昨年8月末を基準日に実施した株式分割(1株を2株に分割)の権利落ちを埋め、権利付き高値をも約500円オーバーし、値上げがポジティブに評価された。外食産業の「勝ち組」とされた鳥貴族は、勝ち組ゆえに値上げが逆ギャップを呼び、急降下につながったとも読み取れる。「重厚長大」株は、もともと「勝ち組」ではなくむしろ「負け組」に分類される。その「負け組」が業績を上方修正したのである。そのサプライズは、株価にとって一過性ではなく継続性を発揮すると見込まれ、さらに黒田総裁がプッシュしているとすれば、一段のフォローとなることを期待したい。

■PERでもPBRでも買え増配、復配を同時発表の銘柄は配当利回りでも好採算

 さて値上げで業績を上方修正した具体的な「重厚長大」株である。今年7月の月初以来、前週末8月3日までの発表日順の時間系列で上げると昭和シェル石油<5002>(東1)、日本冶金工業<5480>(東1)、黒崎播磨<5352>(東1)、神鋼商事<8075>(東1)、共英製鋼<5440>(東1)、ユナイテッド海運<9110>(東1)、ヤマトホールディングス<9064>(東1)、AGC<5201>(東1)、UEX<9888>(JQS)、大平洋金属<5541>(東1)となる。「重厚長大」株のなかでも、鉄鋼関連株のウエートが高く、また株価も好感高のあと若干下押している銘柄も散見される。これは米国の中国への制裁関税のため、中国製鋼材の安値輸出に拍車がかかり鋼材市況が世界的に悪化すると懸念されていることも関係がある。しかしその一方で、中国は、米国への対抗上、国内のインフラ投資を再び積極化するとも伝えられており、今後、強弱両材料のどちらが鋼材市況に強く働くか注目される。

 それにしてもこの関連株は、いずれも低PERで銘柄によってはPBRが1倍を下回り、業績の上方修正とともに増配も発表した黒崎播磨や神鋼商事、さらに復配に踏み切った大平洋金属のように配当利回りでも好採算となる銘柄も含まれ、AGCのように自己株式取得を同時発表した銘柄もある。あのバブル相場当時は、「重厚長大」株の高株価は、とてもPER・PBRの投資尺度から説明がつかず、ついには保有土地・資産を時価評価して含み益を計算して買い上がりバブル相場を助長したものであり、いまこそ株高は、一過性でもバブルでもなく継続性があるとして正当に株価評価をしたいものである。(本紙編集長・浅妻昭治)

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