セルシードは調整一巡して反発の動き、食道再生上皮シートの19年承認取得・販売開始目指す

 セルシード<7776>(JQ)は細胞シート再生医療製品の開発・事業化、および世界普及を目指すバイオベンチャーである。19年に食道がん再生治療の食道再生上皮シートの承認取得および販売開始を目指している。株価は調整一巡して反発の動きを強めている。出直りを期待したい。

■細胞シート再生医療製品の事業化、世界普及を目指すバイオベンチャー

 温度応答性ポリマーを用いた細胞シート工学という日本発の革新的再生医療技術を基盤技術として、この技術に基づいて作製される細胞シート再生医療製品の開発・事業化を目指すバイオベンチャーである。

■細胞シート再生医療とは

 細胞シートは患者自身の組織から採取した細胞をシート状に培養したものである。細胞シート工学は、生体組織・臓器の基本単位となる細胞シートを生体外で人工的に作製する再生医療基盤技術で、東京女子医科大学先端生命医科学研究所の岡野光夫氏が世界で初めて創唱した。

 温度応答性ポリマーで表面加工した細胞培養皿を用いて、患者自身の組織から採取した細胞をシート状に培養する。温度応答性ポリマーは37℃付近以上で疎水性に、それ以下の温度で親水性となる特性があるため、37℃で培養し、培養後に温度を室温程度(20℃~25℃)に変えるだけで、細胞外マトリックスを保持したまま有機的に結合した細胞シートを培養皿から回収できる。

 細胞シート作製に必要な培養期間は、細胞の種類などによって異なるが概ね1~2週間程度で、細胞シートのサイズも自由に設定できる。複数の細胞シートを積層させて細胞シート同士を接着させることもできる。

 培養した細胞シートを患部に貼る(移植する)だけで、細胞が生着(移植した細胞が患部に定着)し、細胞シートから分泌されたサイトカイン(細胞から放出されて細胞増殖や分化に影響する特定のたんぱく質の総称)が、患部の弱った細胞を活性化させると考えられている。

 また細胞シート再生医療には、患者自身の細胞を用いるため免疫拒絶反応が起こらない、身体のどの部位の細胞からも作製できる、施術としては比較的簡単な治療法である、細胞が生体組織に速やかに生着する、残存機能を損なわずに根治を目指すことも可能であるなどのメリットがあり、新たな再生医療技術として注目されている。

■細胞シート再生医療事業および再生医療支援事業を展開

 事業区分は細胞シート再生医療事業および再生医療支援事業としている。細胞シート再生医療事業は、細胞シート再生医療製品および応用製品の研究開発・製造・販売を通じて細胞シート再生医療の普及を推進する。再生医療支援事業は、細胞シート再生医療の基盤ツールである温度応答性細胞培養器材および応用製品の研究開発・製造・販売を通じて再生医療の研究開発を支援する。

 子会社のCellSeed Sweden AB(スウェーデン)は、欧州で細胞シート再生医療製品の研究開発を行っている。

■食道再生上皮シートと軟骨再生シートの承認取得・事業化目指す

 細胞シート再生医療事業では、優先的に自社開発を推進するパイプラインとして、食道再生上皮シートおよび軟骨再生シートを設定し、当社における細胞シート再生医療第1号製品としての早期承認取得・事業化を目指している。

 事業化・収益化に向けた基本方針は、国内での細胞シート再生医療パイプラインの開発を自社主体で推進し、製造販売承認取得を目指す。そして細胞シート再生医療の世界普及を推進するため、製造・販売のサプライチェーン体制を構築して事業化を前進させつつ、海外展開は他社との提携も視野に入れて細胞シート再生医療事業の拡大を目指す方針だ。

■食道再生上皮シートは19年承認取得・販売開始目指す

 食道再生上皮シートは、食道がん再生治療法(食道創傷治癒・狭窄予防)として、東京女子医科大学先端生命医科学研究所が開発した治療法である。患者の口腔粘膜から採取した細胞を、温度応答性細胞培養皿を用いて細胞シートを作製し、食道がん切除内視鏡手術後の食道潰瘍面に移植する。

 東京女子医科大学と食道再生上皮細胞シート開発基本合意書を締結し、16年8月国立がん研究センター中央病院、国立がん研究センター東病院、東京女子医科大学病院において治験を開始した。17年2月には「口腔粘膜由来食道細胞シート」が厚生労働省から再生医療等製品の先駆け審査指定制度の対象品目指定を受け、18年12月期第2四半期には症例登録が終了した。

 今後の計画としては、日本で19年上期に「口腔粘膜由来食道細胞シート」の製造販売承認申請、19年中に製造販売承認取得および薬価収載後の販売開始、20年に販売本格化を目指している。なお10月11日には再生医療等製品製造業許可の取得を発表した。細胞シート受託加工の事業化に向けた動きが着実に進展している。

 欧州では子会社CellSeed Sweden AB(スウェーデン)が、16年に欧州医薬品庁(EMA)と事前相談して治験準備中だが、今後は次期開発品目の候補品目の一つとして開発優先順位を検討する。

 食道再生上皮シート移植用デバイスも同時開発している。細胞シートと組み合わせて治験を実施し、欧州での治験でも使用できるように医療機器としての承認を取得する方針だ。

■軟骨再生シートは20年に企業治験開始目指す

 軟骨再生シート(自己軟骨再生シート、同種軟骨再生シート)については、17年2月に東海大学と、軟骨再生シート臨床研究の実用化開発、治験、製造販売承認申請に向けて協力体制を推進することを目的とした基本合意書を締結し、軟骨欠損および変形性膝関節症を適応症として共同研究を進めている。

 変形性膝関節症は、緩徐に進行する難治性の関節軟骨変性で、国内における患者数(40歳以上)は2530万人、そのうち有症病者は800万人と推定(東京大学医学部附属病院22世紀医療センター調査)され、高齢化により患者数の増加が予想されている。細胞シートを積層化した3次元複合体の積層化軟骨細胞シートを患部に移植し、軟骨の修復・再生に寄与する。

 自己細胞については、東海大学が18年上期に厚生労働省医政局専門官との相談を踏まえて先進医療申請準備を進めた。今後の計画として18年下期に、申請後に実施される厚生労働省先進医療会議での審査に向けた準備を進める予定としている。先進医療で使用される細胞シートの受託加工を当社が有償で実施予定である。

 同種細胞については17年2月に東海大学整形学科の佐藤正人教授が、世界初の同種軟骨細胞シートの移植手術(多指症患者軟骨組織を採取し、同種細胞シートとして移植)を実施した。臨床研究は10名の患者に移植予定で、18年第2四半期までに3例を実施した。これに対応して、レギュラトリーサイエンス戦略相談・レギュラトリーサイエンス総合相談および治験準備を進めている。そして20年に企業治験開始を目指している。

 なお18年3月には、東海大学と共同出願している移植用軟骨再生シートに関する基本特許が成立する見込みとなったと発表している。登録国はドイツ、フランス、イギリスなど欧州10ヶ国である。

 18年9月には、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が公募した補助事業である平成30年度「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(再生医療シーズ開発加速支援)」に、当社が提案した研究開発課題「同種軟骨細胞シート(CLS2901C)の製品化に向けた製造方法の確立」が採択された。

■海外は台湾で事業提携

 海外展開は17年4月台湾MetaTech社と、台湾における細胞シート再生医療事業(食道再生上皮シートおよび軟骨再生シート)の事業提携契約を締結して、独占的開発・製造・販売権を付与した。開発進捗に応じてマイルストーン収入、開発製造関連データ料、開発サポート料を最大12億50百万円受領予定である。また上市(販売)時には売上高に応じたロイヤルティ収入を得る。

 台湾MetaTech社は18年中の食道再生上皮シート治験届提出に向けて準備中である。当社からの一部開発データ提供は当初想定を上回るペースで完了した。なお台湾では18年9月に細胞治療関連法が改正され、台湾版「先進医療」対象に軟骨再生シートが含まれる可能性もあるとしている。

 さらに今後の世界展開に向けて、既契約先である台湾MetaTech社の支援を推進しつつ、アジア諸国・欧米をターゲットに海外事業提携先を探索している。

■再生医療支援事業ではテルモに特別仕様製品を供給

 再生医療支援事業は、主要顧客である大学・研究機関向けなどに、細胞シート回収用温度応答性細胞培養器材UpCellを中心とした器材を開発・販売している。

 14年4月大日本印刷<7912>と細胞培養器材製造委託基本契約を締結し、市販製品(研究開発用途に限定)について大日本印刷に製造を委託している。16年3月テルモ<4543>と細胞培養器材に関する取引基本契約を締結し、テルモが再生医療等製品に係る保険適用決定を受けた「ハートシート」に含まれる当社製品(温度応答性細胞培養器材)について、市販製品とは異なる特別仕様製品を供給している。

 今後の戦略としては、研究用器材の新製品開発や臨床応用用途の製品開発など顧客ニーズに対応した製品ラインナップ拡充、新規販売代理店開拓などによる国内外の販売網強化、さらに製造コストの引き下げなどを推進する方針だ。

■18年12月期黒字化予想、20年以降の食道再生上皮シート収益化期待

 中期経営計画(18年~20年)では事業展開として、食道再生上皮シートの日本での19年承認取得・販売開始、同種軟骨再生シートの開発加速、次期品目の開発着手、細胞シート再生医療および支援製品のサプライチェーン体制構築、再生医療支援製品の新製品開発推進・収益機会獲得、日本発細胞シート工学の世界展開のための事業提携の積極推進、収益の拡大・黒字化を掲げている。

 目標数値は、18年12月期売上高11億70百万円、営業利益20百万円、経常利益40百万円、純利益40百万円、19年12月期売上高12億50百万円、営業利益20百万円、経常利益50百万円、純利益40百万円、そして20年12月期売上高14億50百万円、営業利益1億10百万円、経常利益1億10百万円、純利益1億円としている。

 18年12月期第2四半期累計は売上高が3億47百万円、営業利益が40百万円の赤字だった。売上面では台湾MetaTech社向け開発データ提供を計上し、利益面では赤字が縮小した。

 細胞シート再生医療第1号製品となる見込みの食道再生上皮シートは19年製造販売承認取得・販売開始を目指している。20年12月期以降の収益化を期待したい。

■株価は調整一巡して反発の動き

 株価は9月の戻り高値1173円から反落したが、調整一巡して反発の動きを強めている。地合い悪化も影響した10月11日の直近安値820円から切り返し、10月18日には955円まで上伸した。10月18日の終値は949円、時価総額は約108億円である。週足チャートで見ると52週移動平均線が下値を支える形だ。出直りを期待したい。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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