【小倉正男の経済コラム】飛騨市古川町~ふるさと納税規制で競争がフェアになるか~

■国の規制で競争がフェアになるという見方

 飛騨市古川町は、飛騨の観光拠点である高山市の隣に位置している。岐阜県の北端にあり、むしろ富山県境に近い。爆発的なヒットとなった長編アニメ「君の名は。」で彗星が落ちる糸守町のモデルになったのが古川町といわれている。

 高山本線・飛騨古川駅の線路の風景、駅前のタクシー乗り場、市の図書館、鯉の泳ぐ瀬戸川と白壁土蔵(酒蔵)の町並み、バスの停車場、パワースポットの大鳥居、大鳥居からの平野部の町並み――。
 なんとほとんどそのままの風景である。長編アニメの原風景のすべてがそこにある。

 11月下旬に大規模水害による土砂崩れで運休していた高山本線の飛騨古川―富山市が145日ぶりに復旧した。その「ワイドビューひだ」の車中で都竹淳也・飛騨市長の話を聞く機会があった。

 地方自治、飛騨観光、高山本線の復旧の経済効果、そしてふるさと納税などについてもお話を聞くことができた。都竹淳也・飛騨市長は、こう語っている。

 「ふるさと納税についての国の規制は、我々にとっては有り難かった。規制によって自治体間の競争がフェアなものになる」

■ふるさと納税は自治体にとって貴重な税源

 飛騨市は、いわゆる過剰な返礼品などは用意せず、いわば真面目にというかルール遵守でふるさと納税に取り組んできている。

 それだけにほかの自治体などにみられる、いわゆる“過剰な返礼品”との競争はフェアではないというのである。返礼品の競争にタガがはめられれば、飛騨市には有利になるというわけである。

 飛騨市の昨2017年のふるさと納税は3億5000万円超だったとみられる。なんといっても飛騨牛が筆頭だが、地酒、鮎の甘露煮。飛騨家具、和ろうそく、チーズなど乳製品、お米などが返礼品の中心である。確かに地元産品を揃えている。

 都竹淳也・飛騨市長は「ふるさと納税は貴重な税源」と語っている。3億5000万円を超える収入は、自治体にとっては貴重というしかない。これをしたい。あれをしたい、という限界的な部分に資金(予算)を投下できる。

 しかも、地元に1億円規模の消費需要をもたらしている。ふるさと納税の30%を返礼品売り上げとみると1億円強になる。

 地元に1億円のおカネが落ちるのだから、経済効果は大きい。地元に1億円規模の消費購買を巻き起こすのは簡単なことではない。
 ふるさと納税は、飛騨市にとって全国の納税者に選んでもらって、増やしていかなければならない税源にほかならない。

■ふるさと納税は12月に過度に集中するというトレンド

 飛騨市役所など地方自治体によると、ふるさと納税は年末の12月に過度に集中するトレンドがあるということだ。

 極論すると、ふるさと納税の70~80%が12月に集中する。地方自治体としては、読みづらい税収という面があるようだ。

 それだけ集中すると、返礼品の供給も簡単ではない局面も出てくることもないではない。
地方自治体のなかには、地元産品だけでは過剰に集中した場合、対応できないということを漏らすケースもある。地元産品とは何か、という問題は残っている。

 ふるさと納税をするサイドは、オンラインショッピング感覚でよさそうな返礼品を探して選ぶ。選ばれる自治体サイドは、ほかの自治体に負けない返礼品を用意することになる。
 マーケット経済型だから、返礼品はどうしても豪華に走ることになりかねない。

 国の規制ではたして自治体間競争は丸く収まるのか。あるいは競争は激しくなるのか。12月のふるさと納税の動向でそれがみえてくるはずだ。

 「君の名は。」の大ヒットで聖地といわれるようになった飛騨市のふるさと納税ははたしてどうだろうか。飛騨市古川町とは取材でご縁もできたので頑張ってほしいと思っている次第である。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年~2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)

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