【どう見るこの相場】「パウエル・プット」の効き過ぎの万一に備え円高メリット株に早手回しのアプローチも一法

どう見るこの相場

「パウエル・プット」と「黒田バズーカ」のどちらが、マーケットに対するインパクトが大きいか比べると、米中の同じ中央銀行の金融政策ながら残念なことに「パウエル・プット」に軍配を上げざるを得ない。「黒田バズーカ」は、黒田東彦日本銀行総裁が、「戦力の逐次投入はしない」と大見得を切って異次元金融緩和策として発射したが、以来もう7年も経とうというのに、当初の大見得に反して何回も緩和策が追加されたものの、政策目標はドンドン遠去かるばかりである。最近では、マーケット関係者からは、せいぜいETF(上場投資信託)の買い入れ方式が、日経225型となるかTOPIX(東証株価指数)型となるか関心を集める程度にとどまっている。

対して「パウエル・プット」のインパクトは絶大であった。1月30日まで開催したFOMC(公開市場委員会)で金融政策の現状維持を決め、直後の記者会見でパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が、今後の利上げは様子見、資産圧縮の完了は想定より早まる可能性があると発言すると、たちまちダウ工業株30種平均(NYダウ)は、500ドル超も急伸し、昨年12月のFOMC後の自らの金融政策正常化発言で急落した分を完全にカバーして昨年12月初め以来の高値をつけ、1月のNYダウの月間上昇幅は過去最大を記録した。

実はこの「パウエル・プット」は、東京市場にとっても「救いの神」であった。というのも、1月30日は、市場参加者全員が、「サンバイオ・ショック」に怯えていたからだ。前日29日の大引け後にサンバイオ<4592>(東マ)が、再生細胞医薬品の米国での臨床試験で「主要評価項目を達成できない」と発表していた。同社株は、東証マザーズ指数が、昨年12月25日の昨年来安値から年明けの1月21日まで3割高するリード役になっており、この手掛かり材料となっていた新薬開発が頓挫したことは、同社株価の急落ばかりか、同社株に買い付いた個人投資家が、東証第1部の主力株にいっせいに換金売りを出し相場急落の引き金になると懸念されていたのである。もちろんサンバイオは以来、大量の売り物を浴びて3日連続のストップ安となったが、「パウエル・プット」のおかげで全般相場には波及せず個別銘柄の急落と見過ごすことができた。

東京市場の関係者は、パウエル議長に足を向けては寝られないことになるが、ただ一つ困ることがある。「パウエル・プット」の効き過ぎである。今後、3月、4月、6月と続くFOMCで仮に政策金利の引き上げの打ち止め、資産縮小の終了などが、明らかになってくれば、市場で懸念されていた10年目に入った米国景気拡大に赤信号が点灯することも現実味を帯びることになる。この裏返しのシナリオ通りとなれば、「リスク・オフ」で安全資産の国債が買われて長期金利が低下、為替は、円高・ドル安進行のケースが想定されるからだ。また今年3月にもスタートする日米物品貿易協定(TAG)協議に米国側が主張している為替条項が押し込まれるようなら、円高・ドル安圧力は一気に高まる。

とういことで、今週の当コラムでは、万一に備えて早手回しに円高で恩恵を受ける円高メリット株を取り上げることとした。経済のグローバル化が進展するなか、円高・ドル安は、業績への円高メリットが発生する銘柄だけでなく、企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)にも大きく影響することもあるだけに、幅広く関連株が浮上することになる。

――――SPA株、開発輸入株に5月の10連休特需も加わり海外旅行関連株も――――

円高メリット株の一番手は、SPA(製造小売り)株や開発輸入株である。円高により海外製造コストが軽減されるためで、SPA株ではド本命のファーストリテイリング<9983>(東1)ほか、月次売り上げが天候不順による低迷から持ち直してきたアダストリア<2685>(東1)、ユナイテッドアローズ<7606>(東1)、開発輸入株では、靴のチェーン店のエービシー・マート<2670>(東1)、家具のニトリホールディングス<9843>(東1)が、中核銘柄となる。

円高による海外旅行ブームは、今年5月のゴールデンウイークの10連休にも後押しされる展開も想定され、今年1月31日に今2019年3月期業績を上方修正したばかりのJAL<9201>(東1)と、ANAホールディングス<9202>(東1)の空運株、10連休関連のツアー商品が、発売とともに売り切れ、キャンセル待ちとなっていると伝えられたエイチ・アイ・エス<9603>(東1)やKNT-CTホールディングス<9726>(東1)の旅行代理店株、さらに前週末1日に決算発表に先立って2018年12月期業績を上方修正した日本エマージェンシーアシスタンス<6063>(JQS)も、海外旅行中の医療機関の手配需要の拡大期待を高め買い評価されよう。

小型株では、海外建材・ブランド品・食品の輸入商社のアドヴァン<7463>(東1)、ドウシシャ<7483>(東1)、正栄食品工業<8079>(東1)は、今年2月1日のEU(欧州連合)とのEPA(経済連携協定)発効が追い風となる可能性もある。運営するECサイトで開発輸入品も扱うビューティガレージ<3180>(東1)、ジェネレーションパス<3195>(東マ)ともども要注目である。さらに、今年1月31日にM&A仲介会社のGCA<2174>(東1)が、目下集計中の2018年12月期業績の上方修正をしたが、今後の円高・ドル安進行を背景としたコーポレート・ガバナンスで「内-外」案件のM&A拡大も想定されるところで、同業他社のM&Aキャピタルパートナーズ<6080>(東1)、ストライク<6196>(東1)ともども関連人気を高めそうだ。

――――2018年にIPOの5銘柄にも隠れた関連株の人気化素地――――

隠れた関連株としては、昨年2018年に新規株式公開(IPO)された銘柄のなかの5銘柄は外せない。海外旅行の現地体験型のオプショナルツアーのオンライン予約サイトを運営のベルトラ<7048>(東マ)、美容機器・健康機器の企画・開発・製造のMTG<7806>(東マ)、国内外で紙パルプの卸売を行う国際紙パルプ商事<9274>(東1)、ジェネリック医薬品の原薬を仕入れ・販売するコーア商事ホールディングス<9273>(東2)、クルーズ旅行に特化するオンライン予約サイトを運営のベストワンドットコム<6577>(東マ)である。

このうちベストワンドットコムとコーア商事ホールディングスは、いずれも株式分割の権利を落とした安値水準にあり、MTGも公開価格5800円を下回り上場来安値4400円まで売られている。また、国際紙パルプ商事も、年明け後に豪州の同業他社のM&Aで急伸し、公開価格の344円に接近したが、足元では200円台央でもみ合いPERは8倍、PBRは0.3倍と売られ過ぎを示唆している。ひとり元気なのが直近IPO株人気が続いているベルトラで、今年1月に上場来高値989円まで買い進まれた。ベルトラを牽引役に円高メリット株人気の拡大が見込まれる。(本紙編集長・浅妻昭治)

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