【どう見るこの相場】金融相場のエスカレートを伏線の伏線に猶予期間入り銘柄に「第2の日本鋳鉄管」を期待

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どう見るこの相場

 7月相場の第1週の東証第1部市場で、サプライズ銘柄となったのは、もちろん週間値上がり率ランキングでトップに躍り出た日本鋳鉄管<5612>(東1)である。週末の5日はさすがに反落して値下がり率ランキングの第2位と売られたが、6月25日から7月5日までの8営業日のうち取引時間中も含めて7日間もストップ高を演じ、株価は、6月25日の625円から週末5日の取引時間中につけた年初来高値1950円までわずか1週間で3.1倍と大化けした。
 このサプライズ高の発端は、今年6月26日の水道管布設工事の新商品「オセール」の発表であった。同商品は、工事現場の作業負荷を革新的に軽減する非開削工法用の「推力伝達バンド」で、神奈川県川崎市の案件での採用が決定した。この発表に反応し株価は即ストップ高したが、実はこの急騰には伏線があった。同社株は、今年4月25日に3月期決算を開示し、前2019年3月期業績は、今年1月の下方修正値を下ぶれて連続赤字幅を悪化させて着地し、今2020年3月期業績も、原材料価格の動向などが不確かで合理的に見積ることは困難として予想業績を非開示として年初来安値601円まで売られた。

 この結果、何が起こったかといえば、株価下落により今年5月末で時価総額が20億円を下回り、東証第2部への指定替えの猶予期間入りとなってしまったのである。この直後に発表されたのが、「オセール」であり、この新商品効果で株価が連続ストップ高し、時価総額も大きく増加し、7月1日には猶予期間が解除された。業績面でも、「オセール」に加えて今年2月に提携したFRACTA社(米国カリフォルニア州)と代理店契約したAI(人工知能)と機械学習を用いた水道管路劣化診断技術などを拡販して黒字転換を目指し、今期第1四半期決算発表時に非開示としていた今期予想業績を発表するとして、株価はさらに上値を追い、株高で万事解決となった。

 まさに「災いを転じて福となす」だが、この伏線にはさらに大きな伏線が働いていそうだ。世界的な金融緩和である。FRB(米連邦準備制度理事会)は、前週末発表の6月の雇用統計で非農業部門の雇用者数が市場予想を上回ったものの、なお7月30日から開催されるFOMC(公開市場委員会)で予防的な金利引き下げを実施することが有力視され、加えてトランプ大統領は、FRBに金融緩和論者のハト派の理事を送り込むことを画策している。欧州連合(EU)も、欧州中央銀行(ECB)の次期総裁にハト派の国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事を指名した。日本銀行の黒田東彦総裁も、金利差縮小に伴う円高進行を回避するためにも7月29日、30日に開催される金融政策決定会合で何等かの追加緩和策発動に踏み切らざるを得ないとみられている。

 世界的な金余りを背景にして、「買うから上がる、上がるから買う」と需給主導相場がエスカレートし、「上がる株が成長株」とばかりに開き直った相場感が幅をきかすはずだ。現に米国市場では、ジャンク債が買い進まれ、日本国内でも、REIT(上場不動産投信)が軒並み高となり、金融機関の融資先枯渇からサブリース物件に過剰融資する賃貸バブルが発生し、TATERU<1435>(東1)やスルガ銀行<8358>(東1)の不祥事が起こったことは記憶に新しい。株式市場でも、日本鋳鉄管を限界企業とするのは適当かどうかはともなく、低位株、ボロ株への選好が強まることは想定範囲内となる。日本鋳鉄管が、もしこの大伏線の先駆株ということになるならば、「第2の日本鋳鉄管探し」も有効な投資スタンスになるはずで、まず日本鋳鉄管と同様の東証2部指定替えや上場廃止の猶予期間入りとなった銘柄のマークは怠れない。

■17銘柄の事業計画改善の記載書面からサプライズ高の潜在材料が浮上

 前週末5日現在で猶予期間入りとなっているのは、17銘柄に達する。東証2部への指定替えに係る猶予期間入りしているのが株主数が基準の2000人に未達のOBARA GROUP<6877>(東1)、デファクトスタンダード<3545>(東1)、時価総額が同20億円に未達の中国工業<5974>(東1)の合計3銘柄である。一方、上場廃止に係る猶予期間入り銘柄は、時価総額が10億円未達のさいか屋<8254>(東2)、小島鉄工所<6112>(東2)、花月園観光<9674>(東2)、債務超過が廃止基準に該当する千代田化工建設<6366>(東1)、中村超硬<6166>(東マ)、フルッタフルッタ<2586>(東マ)、小僧寿し<9973>(JQS)、倉元製作所<5216>(JQS)、文教堂グループホールディングス<9978>(9978>(JQS)、営業利益や営業キャッシュフローのマイナスの業績が、廃止基準に該当するのがメディシノバ・インク<4875>(JQS)、デ・ウエスタン・セラピテクス研究所<4576>(JQG)、合併等による実質的存続性の喪失による猶予期間入りが、CARTA HOLDINGS<3688>(東1)、USEN-NEXT HOLDINGS<9418>(東1)となっている。このうち千代田化建は、8月1日に東証2部に指定替えされる予定となっている。

 猶予期間入りした銘柄は、東証に事業計画の改善等について記載した書面を提出することになっているが、このなかに日本鋳鉄管の新商品や新技術のように基準をクリアする可能性のある材料の記載が垣間見られることがあり、精査が必要になる。このうち中国工業は、上場維持を目指し日本初のオールプラスチック製のLPガス用容器などの発売などによる株価上昇を期待、株価も、時価総額クリアの株価585円目前まで迫ってきた。千代田化工も、7月1日払い込みの三菱商事<8058>(東1)向けの第三者割当増資で700億円を調達して債務超過を解消、LNGプロジェクトへの積極的な参画とコスト削減により東証1部への復帰を図る。

 また中村超硬は、債務超過の元凶となったダイヤモンドワイヤ設備の生産設備の売却について中国企業と基本合意、この売却代金約20億円で13億2900万円の債務超過を解消する方針だ。小島鉄工も、今年4月5日に今2019年11月期第2四半期業績を上方修正し、11月期通期業績も大型受注物件の消化で黒字幅拡大を予想しており、時価総額のアップを図る。こうした銘柄から「第2の日本鋳鉄管」が飛び出す可能性もあり要注目である。

■時価総額下位グループの予備軍も内需系、値ごろ妙味で独自性を発揮

 「第2の日本鋳鉄管」候補の予備軍にも目配りは欠かせない。東証第1部の時価総額ランキングで下位に低迷している銘柄である。ランキングのドン尻は、時価総額が19億円で東証2部指定替え猶予期間入りしている中国工業だが、時価総額が、20億円から30億円台にとどまっている銘柄は、前週末5日現在で33銘柄も数える。株価に急変があれば、いつ何時、猶予期間入りとなるか予断を許さないからだ。

 この33銘柄のうち、下位26位にランクされたヤマシタヘルスケアホールディングス<9265>(東1)は、7月4日に目下集計中の2019年5月期業績の上方修正と期末配当の増配を発表して、週末5日には一時ストップ高して5カ月ぶりに年初来高値を更新した。この株価急騰で、時価総額は、37億円超と4日から約6億円増加しており、こうしたケースも想定される。

 「第2の日本鋳鉄管」、「第2のヤマシタヘルス」の候補株は、33銘柄のうちPER、PBR、配当利回りなどで割り負けている銘柄ほど資格要件を充足しているはずだ。この候補株は、時価総額の少ない順に上げると、ダイトウボウ<3202>(東1)、アトラ<6029>(東1)、アグレ都市デザイン<3467>(東1)、井筒屋<8260>(東1)、ミサワ<3169>(東1)、NCホールディングス<6236>(東1)、東京機械製作所<6335>(東1)、盟和産業<7284>(東1)、一蔵<6186>(東1)、ティーライフ<3172>(東1)、サンリツ<9366>(東1)、日東製網<3524>(東1)、島根銀行<7150>(東1)などとなる。

 すべてが内需系で、米中貿易摩擦の先行きがまだ予断を許さず、中東の地政学リスクの高まりが懸念されるなかで、株価水準も2ケタのダイワボウ、1511円の日東網を除いて3ケタ台と値ごろ妙味もあるだけに、サプライズ高までには至らなくても独自性は発揮してくれそうだ。(本紙編集長・浅妻昭治)

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