【小倉正男の経済コラム】文在寅大統領:ムッソリーニ、レオン・ブルムの政策に相似

小倉正男の経済コラム

■「米中貿易戦争」で窮地に立つ韓国経済

 「米中貿易戦争」だが、中国がアメリカから農産物を最大500億ドル購入するということで暫定合意となった。
 暫定合意には、中国による技術移転強要など知的財産権侵害に対する是正なども一部含まれている。これにより新たな追加関税は延期された。

 中国は、現状の高関税を是正しなければ農産物を買わないと牽制している。しかし、アメリカは中国政府・地方政府の巨額補助金供与などによる自国先端技術企業の育成をルール違反としている。

 アメリカは、中国のお国がかりでの半導体など先端情報技術の強化育成政策をアンフェアと問題視している。中国は、それ(=中国製造2025)はアメリカが介在するアジェンダではないと譲歩姿勢はみせていない。

 農産物購入について、トランプ大統領は「素晴らしいディール」としているが、「本丸」である中国の国家主導経済の放棄・是正では、「米中貿易戦争」は継続するということになる。アメリカとしては、覇権を中国に渡さないというのだから、中国も屈するわけにもいかない。覇権をめぐっての争いは簡単には片付かない。

 トランプ大統領としては、中国への農産物500億ドルの輸出は20年の大統領選挙にはプラス要因である。中国に覇権を渡さないという「米中貿易戦争」の継続も、アメリカの景気が持続するなら、大統領選挙のプラス要因に加えられると読んでいる模様。

■中国の景気低迷で韓国の輸出は減少が続く

 米中の暫定合意が成立したのは幸いだが、覇権をめぐる米中の軋轢は終わらない。

 文在寅大統領の韓国経済は、この「米中貿易戦争」の長期化であおりを大きく受けている。
 「米中貿易戦争」は、中国の経済成長に陰りをもたらしている。この陰りが韓国経済を直撃して、韓国経済低迷の下地となっているのは間違いない。

 韓国経済は、日本をサプライヤー(サプライチェーン)として部品、用材、製造機械、工作機械などを輸入して半導体、スマホ、テレビ、クルマなどをつくって中国に輸出する構造。

 韓国の内需は小さいので加工貿易で稼ぐスタイルだが、肝心の輸出仕向け地・中国マーケットが不景気で低迷に転じている。韓国の輸出は伸びていないどころか、減少がずっと続いている。

■最低賃金の大幅上昇、労働時間の大幅短縮が裏目

 これだけでも窮地だが、文在寅大統領の韓国経済は自らの政策で首を絞めているところが大きい。
 ひとつは最低賃金の大幅な引き上げである。文在寅大統領は、最低賃金を18年16.4%、19年10.9%と大幅引き上げを行った。

 前大統領の朴槿恵・保守派政権が無為無策だったこともあるが、敵失による千載一遇で政権を執った文在寅大統領はいわば社会主義政権、下手をしたらもっと左派かもしれない。
 「労働尊重社会」を掲げ、「所得主導成長」経済ということで賃金を大幅に上げた。これは大企業、中小企業ともに大幅なコストアップ要因となっている。

 それだけではない。もうひとつは文在寅大統領流の「働き方改革」なのか、労働時間を週68時間から週52時間に短縮した。
 「夕方のある暮らし」を実現するという触れ込みなのだが、給料(賃金)はそのままだから、週52時間労働制は実に居ながらにして実質的に30%超の賃上げを実現したに等しいことになる。これも大幅コストアップである。

 これがふたつとも独善的で、韓国経済からみれば明らかに実力を顧みないという政策になっている面がある。拙速というか左派ポピュリズムというか、結果としては極端に裏目に出ている。しかも、その裏目は悲惨さを伴っている。

■ムッソリーニ、レオン・ブルムの経済政策に相似

 第二次世界大戦前の大恐慌時、イタリア、フランスでムッソリーニ、レオン・ブルムは、週70時間を超えていた労働時間を週40時間に短縮した。

 ムッソリーニ、レオン・ブルムも社会主義政権であり、「レーニン憲法」をモデルに労働者に「時短」をもたらした。「時短」は実質的に大幅賃上げになる。労働時間は減らすが、賃金はそのままだから実質的に賃上げに等しい。ワークシェアリング効果で新規雇用も増加させるという目論見である。

 しかし、問題は資本が逃げるという面である。資本が国外に逃げれば、経済は低迷して雇用は減少する。

 法務部長官を辞任したチョ・グク氏は「レーニン憲法」を研究した過去があったようだが、文在寅大統領も社会主義政権だからどうしても同じような時短政策になる。
 労働時間短縮は、労働者層に恩恵を与え、ワークシェア効果を呼び込んで、新たな雇用を生むと読んでいた。しかも、法人税は22%から25%に引き上げられた。

 これは資本にとっては、「反サプライサイダー政策」にほかならない。資本は、「祖国を去る」「祖国から逃げる」しか手はなくなる。外資系資本などは、「他の適地を選ぶ」ことになる。一般の国なら資本側から批判や文句が出る状況だ。

 韓国は言論の自由があってないようなものだから、資本は政権に批判めいたことはいえない。批判めいたことを発言すれば、税務、法務などで懲罰されるリスクが大きい。資本は沈黙するが、デシジョンとしては黙ったままおカネを海外に移転させることになる。

■経済低迷が続けば国が傾く

 文在寅大統領は、「経済善戦」などと不都合な事実を隠しまくっている。発言の瞬発力は見事なものだが、経済が厳しいことになっているのは隠せない。

 韓国の最強トップ企業であるサムスン電子ですら、売り上げが前年同期比で減少して、営業利益、純利益が半分ないし半分以下に低迷している。財閥など大企業は、資本を海外に移転させており、雇用は増えるべくもない。
 自営業、中小企業では、文在寅大統領の経済政策の直撃で、廃業・倒産が相次いでいる。雇用が増えるどころか、実体的には雇用機会が減って失業が増えるのみだ。

 経済がまがりなりにもうまくいっていれば国は治まるが、経済がおかしなことになれば国が傾く。政権の支持や信頼が低下すれば、与党内部からすらも不満や離反が表面化することになる。

 「経済低迷」の真因は己にあるのだが、文在寅大統領はそれを認めるわけにはいかない。
 方策は、例えば「反日」とか夢想している「北朝鮮と平和統一」とか、的を外したものになるから混迷が続くことになる。最悪な事態を招きかねない。
 これでは「検察改革」などをどうやったとしても、政策を含めて文在寅大統領の先行きは明るいものにはみえない。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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