【小倉正男の経済コラム】「韓国売り」、株安・通貨ウォン安のリスク

小倉正男の経済コラム

■強すぎる大統領府の権力

 文在寅大統領の韓国政府だが、息つく暇もなくスキャンダルに揺れている。

 ひとつは、ユ・ジエス釜山市前副市長に関するものだ。前副市長は、盧武鉉政権時代に文在寅民情主席秘書官(当時)の部下だった人物である。

 検察は収賄の疑いで前副市長をすでに逮捕している。問題は、前副市長が不正の疑いで大統領府の観察を受けていたのだが、大統領府が監察を打ち切らせたというもの。
 前法相のチョ・グク氏が民情主席秘書官だった時のことでチョ・グク氏の指示があったのかどうか。検察は大統領府の捜索を進めている。

 もうひとつは、蔚山市の市長選挙への大統領府の介入疑惑だ。大統領府から汚職の情報提供があり、警察が現職市長の家宅捜索を行った。普通では考えられない話である。

 そうしたことで蔚山市長選挙では、文在寅大統領の友人である新人候補が現職市長を逆転して勝利した。ところが選挙後に前市長は「嫌疑なし」と無罪とされた。これでは選挙妨害になりかねない。
 これもチョ・グク氏が民情主席秘書官だった時のことだ。検察から民情主席秘書室に出向していた行政官(当時)が汚職情報の提供に係わったとされている。大統領府はふたつとも関与を否定している。だが、この元行政官の男性は遺書を残して死亡しているのが発見されている。

 民情主席秘書官もそうだが、大統領府の権力が強すぎる。何にでも介入できるのだからたまったものではない。「法治」を超えている。「検察改革」というより「大統領府改革」が必要ではないか。

■「韓国売り」=株安・通貨安

 そんな韓国がいま見舞われているのが株安、通貨安である。「韓国売り」、外資を中心におカネが韓国に見切りをつけて逃げているといわれている。

 下地というか背景に韓国経済の低迷がある。韓国経済は、GDPの37%を輸出に依存している。内需マーケットが大きいとはいえず、外需(輸出)依存で稼ぐという経済である。輸出の25%を占めているのが中国向けであり、サムスン電子などの半導体がその中心品目だ。

 ところが中国は、米中貿易戦争の長期化で経済が低迷している。「中国製造2025」により半導体の自国製造にも着手している。中国は、経済の低迷で半導体など電子部品需要が低下している。しかも一方では、自国で半導体をつくり始めている。
 この1年、韓国の輸出が毎月連続して大幅に低下しているのは、そうした事情による。サムスン電子などに代表されるように売り上げは大きく減り続けている。

 しかも文大統領の労働規制は、企業にとって大幅コスト増要因となっている。最低賃金の大幅アップ、労働時間の大幅短縮などは文大統領の念願の政策だった。これが韓国企業の収益を悪化させ、雇用を減らして失業を増やす社会構造の要因となっている。

■韓国の安全保障に火が付く

 それにドタン場で延長されたが、日韓のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)問題のゴタゴタから「米韓同盟」に亀裂が走った。韓国の安全保障に火が付いたことになる。アメリカは文大統領の韓国政府に疑念を深めている。
 ここまで文大統領の政策が混迷すれば、外資などが「韓国売り」、すなわち株式を売り、通貨ウォンを売ると判断するのも仕方ないところか。

 GSOMIA延長で、一時的にウォンは買い戻されたが、いまやまた売られている。
 文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官などは、米韓同盟は不要という立場のようなのだが「中国が核の傘を提供したらどうか」などと発言したりしている。アメリカが在韓米軍を引き上げるのなら、中国のほうの安保に入るという発言にしか聞こえない。
 トランプ大統領も金正恩委員長を「ロケットマン」と再び呼び始めている。これでは「韓国売り」に拍車がかかりかねない。

 戦前の日本でいうと、通貨・円が大幅な価値低下=通貨危機に直面したのは二・二六事件時である。
 陸軍決起部隊によるクーデターが起こって内戦抗争が長期化すれば日本の安全保障は危機に瀕する。通貨安で円が紙くずになれば、石油も鉄鋼も買えない。日露戦争の戦費は外債をロンドンで募集して賄ったが、その借金返済もできなくなる。二・二六事件の速やかな収束の決断の背景には通貨・経済問題があったといわれている。
 株や通貨が売られる。おカネが見切りをつけて逃げていくというのは、そうした怖さがあるものだ。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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