【小倉正男の経済羅針盤】「ギリシャ・デフォルト」の不確実性

■ギリシャと債権団――捗らない交渉

小倉正男の経済羅針盤ギリシャと国際債権団の交渉はなんとも捗っていない。ギリシャは債権団が納得する改革案の提出を果たせていない。

債権団としては、年金削減、レイオフなど労働改革を求めている。だが、ギリシャはそれを頑として拒否している。債権団は、それではギリシャへの金融支援を行えない。

ギリシャが、デフォルト(債務不履行)の一歩手前にあるのは周知のことだ。デフォルトを最後の「人質」にしての交渉だが、交渉がまとまらなければ最悪の事態となる。

ギリシャにとって、「優遇された年金」、「過剰なうえにしかも高給な公務員」といった国家体質は、受益層には既得権益そのものといって間違いない。これはギリシャとしては「国体護持」みたいなことかもしれない。

「国体護持」か、デフォルトか――。デフォルトになれば、「国体護持」もクソもないのだが・・・。ともあれ、ギリシャの危険な岐路が刻々と迫っている。

■デフォルトになってもユーロ圏離脱はない・・・

「ユーロ圏はチェックアウトのないホテル」、仮にデフォルトになっても、ギリシャがユーロ圏から離脱することはない。あるいは、離脱させない。いかなることになってもギリシャが通貨をドラクマに戻すことはありえない――。

以前にいわれていたギリシャの「ユーロ圏離脱」は、後退というか、いまや消滅している。しかし、ギリシャがユーロ圏から離脱しないことが特効薬、あるいは解決策になるのだろうか。

1個の腐った卵を取り除くのではない。1個の腐った卵はあっても、卵というものは腐ったり破れたりするものだから――、取り除かないでほかの卵全体で平準化して守る。

究極の「護送船団方式」のようなものか――。ユーロ圏はどうやらそうした動きをたどっている。だが、不確実性はどうしても残る。大きなネックは解決策としてこれだという確信が持てないことだ。

■ユーロ圏は「大いなる実験」ではすまない経済規模

仮にギリシャがユーロ圏を離脱してドラクマに通貨を戻せば、「通貨・ドラクマ」は売られて紙くずのようになる。ギリシャは、それでなくても厳しいのにさらにユーロ建て債務を返済できなくなる事態になる。悲惨な結果――、デフォルトを招くのは自明だ。

ギリシャがユーロ圏から離脱しないでデフォルトになればどうだろうか。未体験ゾーンの事態であり、ここはあえて最悪の想定をしておく必要がある。
当然ながらユーロが売り込まれる。ドイツやフランスはユーロを全力で支えるに違いない。ユーロは紙くずのようにはならないだろう。それでも未体験の事であり、あくまで衝撃は小さくないと想定しなければならない。

ギリシャ国債を抱えているギリシャやユーロ圏諸国の銀行など金融機関が、不良債権を掴むことになる。この衝撃はどうなると明確にいえないにしても、影響を楽観視するのは間違いではないか。

心配性かもしれないが、ここまでいたればこうしろどうしろといってもせんない話である。ユーロ圏=EU(欧州連合)はもともと「大いなる実験」といえる面がある。ただそうであるにしても、ユーロ圏経済を単体としてみなせば世界トップの規模を持っている。ユーロ圏は、世界GDPのおおよそ30%を占めているのである。

ユーロ圏経済はすでに「大いなる実験」ではすまないところにある。むざむざ世界経済を根底から揺るがすような事態を招かないことを望むのみである。

(経済ジャーナリスト。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所)など著書多数)

 

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■東京・愛知・兵庫で屋外広告も掲出、号外や無料バッティング企画も実施  Major League …
  2. ■新生児対象の臨床試験で抗炎症作用と菌叢改善を実証  森永乳業<2264>(東証プライム)は7月2…
  3. ■「日本栄養・食糧学会大会」で研究成果発表、科学的根拠を提示  味の素<2802>(東証プライム)…
2025年9月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

ピックアップ記事

  1. ■01銘柄:往年の主力株が再評価、低PER・PBRで買い候補に  今週の当コラムでは、買い遅れカバ…
  2. ■日米同時最高値への買い遅れは「TOPIXコア30」と「01銘柄」の出遅れ株でカバー  日米同時最…
  3. ■東京株、NYダウ反落と首相辞任で先行き不透明  東京株式市場は米国雇用統計の弱含みでNYダウが反…
  4. ■株式分割銘柄:62社に拡大、投資単位引き下げで流動性向上  選り取り見取りで目移りがしそうだ。今…
  5. ■金先物相場を背景に産金株が収益拡大の余地を示す  東京市場では金価格の上昇を背景に産金株が年初来…
  6. ■大統領の交渉術が金融市場を左右し投資家心理に波及  米国のトランプ大統領は、ギリシャ神話に登場す…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る