セルシードは反発の動き

 セルシード<7776>(JQ)は細胞シート再生医療製品の開発・事業化、および世界普及を目指すバイオベンチャーである。食道再生上皮シートの早期の承認申請を目指している。株価は3月の安値圏から反発の動きを強めている。出直りを期待したい。

■細胞シート再生医療製品の事業化、世界普及を目指すバイオベンチャー

 温度応答性ポリマーを用いた細胞シート工学という日本発の革新的再生医療技術を基盤技術として、細胞シート再生医療製品の開発・事業化、および世界普及を目指すバイオベンチャーである。

 事業区分は、細胞シート再生医療事業(細胞シート再生医療製品および応用製品の研究開発・製造・販売)、再生医療支援事業(細胞シート再生医療の基盤ツールである温度応答性細胞培養器材および応用製品の製造・販売)としている。子会社のCellSeed Sweden AB(スウェーデン)は、欧州で細胞シート再生医療製品の研究開発を行っている。

■細胞シート再生医療とは

 細胞シートは患者自身の組織から採取した細胞をシート状に培養したものである。細胞シート工学は、生体組織・臓器の基本単位となる細胞シートを生体外で人工的に作製する再生医療基盤技術で、東京女子医科大学先端生命医科学研究所の岡野光夫氏が世界で初めて創唱した。

 温度応答性ポリマーで表面加工した細胞培養皿を用いて、患者自身の組織から採取した細胞をシート状に培養する。培養した細胞シートを患部に貼る(移植する)だけで、細胞が生着(移植した細胞が患部に定着)する。

 細胞シート再生医療には患者自身の細胞を用いるため免疫拒絶反応が起こらない、身体のどの部位の細胞からも作製できる、施術としては比較的簡単な治療法である、細胞が生体組織に速やかに生着する、残存機能を損なわずに根治を目指すことも可能であるなどのメリットがあり、新たな再生医療技術として注目されている。

■中期経営計画

 中期経営計画(20年12月期~22年12月期)では事業戦略として、食道再生上皮シートの早期の製造販売承認申請、自己軟骨再生シートの早期の治験開始、同種軟骨再生シートの早期の治験開始、食道再生上皮シートおよび軟骨再生シートに続く第三品目の歯根膜再生シートの開発着手、日本発の細胞シート工学の世界展開のための事業提携推進、台湾MetaTech社および台湾合弁会社との協業による収益機会の獲得、器材の新製品開発、生産能力の確保、受託製造・コンサルティングによる収益機会の獲得を推進し、収益拡大を目指すとしている。

 19年8月には第三品目の開発案件として、東京医科歯科大学と歯根膜細胞シート開発に向けた協議を開始した。

■食道再生上皮シートは早期の承認申請を目指す

 食道再生上皮シートは、食道がん再生治療法(食道創傷治癒・狭窄予防)として、東京女子医科大学先端生命医科学研究所が開発した治療法である。患者の口腔粘膜から採取した細胞から、温度応答性細胞培養皿を用いて細胞シートを作製し、食道がん切除内視鏡手術後の食道潰瘍面に移植する。

 東京女子医科大学と食道再生上皮細胞シート開発基本合意書を締結し、16年8月国立がん研究センター中央病院、国立がん研究センター東病院、東京女子医科大学病院で治験開始した。17年2月には「口腔粘膜由来食道細胞シート」が厚生労働省から再生医療等製品の先駆け審査指定制度の対象品目指定を受け、18年4月までに症例登録を終了した。

 なお19年2月に食道再生上皮シート臨床試験に係る治験結果を発表したが、主要評価項目の「ESD後8週目の狭窄予防効果」において統計的な優位性が証明されなかった。このため追加臨床試験を実施すべく、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と協議を続け、早期の製造販売承認申請を目指すとしている。

■軟骨再生シートは早期の治験開始を目指す

 軟骨再生シート(自己細胞由来軟骨再生シート、同種細胞由来軟骨再生シート)は17年2月に東海大学と、軟骨再生シート臨床研究の実用化開発、治験、製造販売承認申請に向けて協力体制を推進することを目的とした基本合意書を締結し、軟骨欠損および変形性膝関節症を適応症として共同研究を進めている。細胞シートを積層化した3次元複合体の積層化軟骨細胞シートを患部に移植し、軟骨の修復・再生に寄与する。

 自己細胞由来軟骨再生シートは東海大学が先進医療申請し、19年1月厚生労働省第71回先進医療会議で承認された。今後は東海大学から厚生労働省へ第2種再生医療等提供計画の申請を以って、最終的な承認手続に進む。本件が実施に至った際には当社が細胞シート受託加工予定である。また先進医療の状況を見据えて治験を実施する方針だ。

 同種細胞由来軟骨再生シートは17年2月東海大学整形学科の佐藤正人教授が、世界初の同種軟骨細胞シートの移植手術(多指症患者軟骨組織を採取し、同種細胞シートとして移植)を実施した。臨床研究は10名の患者に移植予定で、18年第2四半期までに3例を実施した。これに対応して、レギュラトリーサイエンス戦略相談・レギュラトリーサイエンス総合相談および治験準備を進めている。そして早期の治験開始を目指す。なお19年11月には移植用「軟骨再生シート」が米国で基本特許を取得した。

■海外は台湾で事業提携

 海外は17年4月台湾MetaTech社に対して、台湾における細胞シート再生医療事業(食道再生上皮シートおよび軟骨再生シート)の独占的開発・製造・販売権を付与している。マイルストーン収入、開発製造関連データ料、開発サポート料を受領し、上市時には売上高に応じたロイヤルティ収入を得る。

 台湾MetaTech社は食道再生上皮シート治験届提出に向けて準備中である。19年12月には、台湾MetaTech社の提携先病院である義大医療財団法人義大病院が申請した自己軟骨細胞移植が、台湾衛生福利部(日本の厚生労働省に相当)から細胞治療技術施行計画として承認された。

 19年8月には台湾MetaTech社と台湾での合弁会社設立に関する基本合意書を締結し、さらに19年9月には新たな出資者を加えた合弁契約の4者間での締結を発表した。日本および台湾における細胞シート再生医療の研究開発・事業化(20年1月合弁会社設立手続完了、20年4月事業開始予定)を進める。

 今後の世界展開に向けては、台湾MetaTech社の支援を推進しつつ、アジア諸国・欧米をターゲットに海外事業提携先を探索している。

■再生医療支援事業

 再生医療支援事業は、主要顧客である大学・研究機関向けなどに、細胞シート回収用温度応答性細胞培養器材UpCellを中心とした器材を開発・販売する。

 市販製品(研究開発用途に限定)については、大日本印刷<7912>に製造を委託している。またテルモ<4543>の「ハートシート」の温度応答性細胞培養器材について、市販製品とは異なる特別仕様製品を供給している。18年10月には再生医療等製品製造業許可を取得し、18年11月再生医療受託サービスに関する第1号案件を東京女子医科大学から受注した。同大学は今回受託製造する当該細胞シートを用いて医師主導治験を実施する。

■21年12月期収益化目標

 中期経営計画(20年12月期~22年12月期)では、目標値を20年12月期売上高3億10百万円、各利益10億20百万円の赤字、21年12月期売上高3億60百万円、各利益10億30百万円の赤字、22年12月期売上高14億円、営業利益と経常利益10百万円の黒字、純利益8百万円の黒字としている。

 なお自己細胞由来軟骨再生シートで20年上期以降、共同研究先である東海大学から先進医療(今後5年間で最大20症例を移植予定)に係る製造を受託する。

■株価は反発の動き

 株価は3月の安値圏から反発の動きを強めている。出直りを期待したい。4月13日の終値は340円、時価総額は約46億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■グローバルモデルに匹敵する日本語対応の高性能生成AIを4月から順次提供  ELYZAとKDDI<…
  2. ■優勝への軌跡と名将の言葉  学研ホールディングス<9470>(東証プライム)は3月14日、阪神タ…
  3. ■新たな映画プロジェクトを発表  任天堂は3月10日、イルミネーション(本社:米国カリフォルニア州…
2024年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

ピックアップ記事

  1. ■海運株と防衛関連株、原油価格の動向に注目集まる  地政学リスクによる市場の不安定さが増す中、安全…
  2. ■中東緊張と市場動向:投資家の選択は?  「遠い戦争は買い」とするのが、投資セオリーとされてきた。…
  3. ■節約志向が市場を動かす?  日本の消費者は、節約志向と低価格志向を持続しており、これが市場に影響…
  4. ■投資家の心理を揺さぶる相場の波  日米の高速エレベーター相場は、日替わりで上り下りと忙しい。とく…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る