【小倉正男の経済コラム】「ポスト新型コロナ」日本企業に待ち構える買収危機

小倉正男の経済コラム

■異例ずくめ決算「合理的算定が困難」

 4月末~5月には決算シーズンになる。今回の決算は異例ずくめになる模様だ。

 大半の企業は、予定通りの日時で発表する見込みである。ただし、なかには6月以降に時期を遅らせるという企業も出ているようだ。

 異例ずくめというのは新年度(2020年度)の予想数字だが、売り上げ、収益(営業利益など)を表記できない企業が続出する可能性が強まっている。「合理的な算定ができない」という理由によるものだ。ただし、予想数字が出せる時期が来たら公表することになる。

 2月期決算会社からそれは始まっているが、これからは3月期決算企業が大挙して発表する。新型コロナウイルスの収束時期が見えない。したがって経済の停止解除が見えない。新年度はどうなるかわからない。ということで売り上げ、収益見通しは出せないということである。

 決算などの“異常“から見ても新型コロナウイルスの猛威というか打撃の甚大さ、深刻さがうかがわれる。これまでにない事態なのは間違いない。

■急遽「10万円給付」に変わったのはよかったが・・・

 収入減の世帯向け30万円という条件付きの新型コロナウイルス対策の給付金は撤回された。給付条件がきわめて曖昧で、給付現場の自治体からは「専用アプリ」をつくってくれないと現場は大混乱といわれた代物だった。混乱はしたが、撤回はよかったのではないか。

 国民一人当たり10万円の給付に変わった。「お肉券」「お魚券」に始まって前宣伝ばかりで迷走に迷走を重ねたがようやく決着した。国民の支持や信頼を失うことばかりの連続だった。最初からやっておけば高い評価を得ただろうが、遅れに遅れた。

 緊急事態宣言もようやく全国に拡大された。だが、国としては、緊急事態宣言による飲食店などの休業補償をいまだ躊躇している。国民への給付を惜しんできたのと同じ構図とみられる。

■新型コロナとの戦争は長期化の公算

 問題なのは休業補償などを惜しむことで新型コロナウイルスの収束に遅れが生じかねないことだ。補償しないのだから、飲食店は許可されている範囲では営業を継続する。お客も少数だが入店している。

 一方、テレワーク・在宅勤務の実施で東京都心部からは人が減少している。ただ、郊外の住宅地ではスーパーなどが満員になっている。首都圏近郊の有名なお寺やその商店街も人で混んでいる。国民は要請に従って自粛しているが、ストレスがあるということなのか、徹底はなされていない。

 全国への緊急事態宣言の発布といっても緩いわけだから、新型コロナウイルスの収束には時間がかかる可能性がある。5~8月で片付けば幸運だが、感染の拡大、あるいは感染のぶり返しなどの可能性があり長引くことがあり得る。

 感染が長引いて経済停止が長期化すれば、中小企業、個人商店などの事業継続が危機に晒される。“無利子無担保”と強調されている融資を活用して危機を何とかしのいでくれとしている。
 だが、売り上げが大きく減少しているのに借金をして耐えるのは大変なことに違いない。最悪の場合、倒産や閉店が多発するリスクを抱えることになりかねない。

■日本企業が底値で軒並み買収されるリスク

 アメリカは、半導体など先端ハイテク産業、安全保障に関連する企業が中国などに買収されることがないように防止策を打ち出している。株価のテコ入れなどを行っているのも買収防止策といわれている。

 1930年代の「大恐慌時代」に現れたのがバイアウト・ファンドだ。「大恐慌時代」は銀行までが軒並み倒産したわけだから、民間に生まれたファンドが、企業を底値に叩いて買収して、再生して高値で売却するというビジネスが生まれた。

 今回の新型コロナ大不況でも、おそらく世界中でファンドが企業買収に出てくると思われる。ファンドとしては大きなチャンスにほかならない。

 「ポスト新型コロナ」の日本企業のリスクはここにある。ボヤボヤしていると日本のハイテク企業、安全保障関連企業などは軒並み底値で買収されるリスクもないではない。

 非上場企業はもちろんだが株式市場も低迷するとすれば上場企業も買収の危機から逃れられない。新型コロナウイルスの収束を誤って、経済停止が長引けば長引くほど、体力を弱めた日本企業が中国などに買収されるクライシスが膨らむことになる。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシス・マネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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