【小倉正男の経済コラム】「コロナと共存」経済再開を急ぐが二兎を同時に失う不安

小倉正男の経済コラム

■実体は10倍か15倍か20倍

 日本の新型コロナウイルスの累計感染者は1万6024人、死者は668人となっている。各国に比べると感染者も死者も極端といえるほど少ない。(5月13日厚労省発表)

 しかし、尾身茂・専門家会議副座長は感染者の実体についてこう語っている。
 「症状が軽い、(症状が)ない人が多くいる。(実際の感染者数は)10倍か15倍か20倍というのは誰もわからない」(5月11日・参議院予算委員会)

 死者数もPCR検査が極端に少ないことから実体を反映していないという見方が出ている。新型コロナで死亡しても、肺炎などほかの病気で死んだことになっている人もいるというのである。

 結局、新型コロナの全容というか、概要というか、それを把握しきれていない。政府は、「専門家会議のお話を聞いて」など専門家会議に責任を背負わせるような言い方をしている。それでは、専門家会議もフラストレーションがたまるのも無理はない。

■気の緩み、都内の人出が戻る動き

 「緊急事態宣言」が延長されているのだが、5月14日には一部地域の解除を発表する模様だ。よい材料が少ないので、そうしたことを明らかにしたのかもしれないが、人々にも一部緩みが出ているようだ。

 東京都の感染者が減少してきている。人々のほうも巣ごもりに疲れてきたということもあるかもしれない。東京都内の人出はかなり戻ってきている。いまの時点での緩みは、危ないのではないかと思われる。

 「コロナと共存して」「コロナを前提として」――、延長されている「緊急事態宣言」を解除して経済活動を再開したいのが政府の意向とみられる。だが、確信があまりないためか、少し躊躇しながら提案している面が感じられる。

 一部のメディアなどはウイルスとの共存が人類の歴史だから経済活動再開は当然だと、こちらは躊躇なく書いている。精神論なのか、自分は安全だと思っているのか。

■経済再開に従業員も不安

 「緊急事態宣言」が解除され、経済活動が再開されるのは本来よいことなのだが、あくまで新型コロナウイルスの封じ込めが前提になる。

 経営サイドは、「緊急事態宣言」解除が接近ということで胸をなでおろしている。しかし、現状では経済活動再開に駆り出される従業員たちのほうは不安が大きい。

 「電車に乗るのもリスクがある。職場の仲間や顧客との商談などで人との接触がある。家族は心配するし、(感染リスクから)家族に嫌がられる。それに年配者は、感染が死につながりかねない」

 ウイルスとの共存が人類の歴史だ、と言われても「死との共存」には付き合いたくない。
 言うほうは気楽だが、行うサイドは感染リスクがある。経済活動の再開は、行うサイドとしては下手をすれば命懸けになりかねない。

■全社リモート勤務の企業もあるが・・・

 特に生産、営業など現場職が大変だ。建設土木などでは感染者が出て工事が止まっている。それでも工事が再開されれば、感染リスクがあっても現場に出なければならない。

 工場の生産ラインもチームで動いている。営業も顧客廻りなどを行う。社内の打ち合わせ、会議、顧客との折衝も避けられない。感染リスクはないとはいえない。どこの職場も現場は大変であり、感染リスクを抱えている。

 確かに、全社で「リモート勤務」という企業も出てきている。会議、ミーティングは中止、あるいはウェブで行っている。お客との営業などもウェブ、ウェビナー(ウェブセミナー)などを使っている。ただし、そうした企業はまだレアケースだ。

 「緊急事態宣言」で巣ごもりも大変だったが、解除で経済活動の再開というのも案外簡単ではない。しかも新型コロナの封じ込めと経済活動の再開という二兎を中途半端に追えば一兎も得ずという可能性もある。この難しい政策を誰がどうバランスを取って舵を取るというのか。

 「コロナと共存」「コロナを前提」、その程度や塩梅を誤るようなことになれば、新型コロナウイルス封じ込めと経済の二兎を同時に失うことになりかねない。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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