【小倉正男の経済コラム】菅義偉政権が抱える日本経済の難題

小倉正男の経済コラム

■新型コロナ禍でデフレ再燃か

 阿倍晋三首相から菅義偉首相に代わった。ともあれ、国民の多くに支持される政策を行って、その結果として長期政権となってほしいものだ。

 安倍政権は2012年から2020年まで続いたのだから、長いといえば長い政権だった。しかし、逆にあっという間だったという感もある。この「経済コラム」も2012年からのスタートである。先代編集長の犬丸正寛氏(経済・株式評論家)からの依頼・指示だった。長いといえば長いが、実感ではあっという間というしかない。

 安倍政権が長期で続いたのは、「失われた10年」「失われた20年」といわれた日本経済の長期低迷の打開に必死で取り組んだことが大きいのではないか。2012年当時の民主党時代は、日経ダウ7000~8000円で株式市場は死んでいた。経済が死んでいたわけであり、金融の「異次元緩和」でデフレ打開を目指した。

 新型コロナ禍もあって、いまは克服どころかデフレが再燃しかねない状態だ。菅首相の前には新型コロナ、経済再生と難しいハードルが並んでいる。新型コロナを乗り越える、新型コロナの終息を図るというのが大変な難事だ。これを何とか果たしたとしても、経済再生にはデフレという解決されていない難事が控えている。これらと闘って克服していかなければ長期政権にはならない。

■先行きはインフレにはみえない

 米中貿易戦争の激化、国内的には消費税増税の影響もあって、この2020年度は当初から一般的には厳しいとみられていた。産業界各社ベースでいえば、慎重派企業は売り上げで横ばい維持なら上出来、下手をしたら5~10%減収という想定だった。しかし、これに新型コロナ禍が加わった。軒並みに決算時に業績予想数字を公表できないほどの苦境に追い込まれている。

 先行きはどうなるのか。インフレ、それも悪性インフレ、あるいはスタグフレーションと読む人たちも少なくない模様だ。各国の超金融緩和、中国のサプライチェーン寸断などがその要因として上げられている。しかし、中国のサプライチェーンは国内向けが回復、海外への輸出向けは遅れていたが徐々に回復に向かっているとみられている。生産は回復に向かっている。

 日本では大震災、大型台風による水害などで国内のサプライチェーンが打撃を受けた。それでもその都度復旧している。サプライチェーン、あるいは生産は何とか維持・継続されている。とすれば先行きはインフレにはみえない。産業界各社からもインフレを懸念する声はほとんど出ていない。

■デカップリング(切り離し)という難問

 菅首相は、誕生と同時にこれらの困難な経済状況を抱えている。しかも、米中貿易戦争の激化、半導体などハイテク製品のデカップリング(切り離し)という問題も加わっている。

 米中の覇権争いがさらにエスカレートすれば、日本の産業界各社は相当苦しいことになりかねない。いまでは日本の産業界各社は、中国の安い労働力ということではなく、巨大で意欲旺盛なマーケットに引き寄せられている面も少なくない。

 日本企業が、中国以外のアジアに資本を移す動きが一部にあったが、新型コロナは中国以外のアジアで猛威を振るっている。むしろ、最初に感染問題を引き起こした中国は新型コロナをいち早く克服しているようにみえる。これらのコロナ対応の動きが日本の産業界各社にどう作用するか。

 米中のデカップリングが進行すれば、日本経済にとっても、菅首相にとっても悩ましい問題になるのは間違いない。急務である肝心の新型コロナの終息もみえていない。嵐のなかの船出といえば厳しすぎるが、大枠そういう状況といえるに違いない。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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