【小倉正男の経済コラム】中国=サプライチェーン分散・多様化の攻防

小倉正男の経済コラム

■経済を順調にリスタートさせた中国

 中国の7~9月期のGDP(国内総生産)は4.9%増と発表された。5%超増の事前予想よりは低かったが、これは輸入が増加したためとされている。機械、部品など生産財の輸入が増加しているとすれば、確かに中国経済にとってはよい兆候である。

 中国のGDPは、1~3月期は6.8%減と大幅にダウンした。しかし、4~6月期に3.2%増と回復に転じた。7~9月期はさらに回復幅を上乗せしたことになる。
 
 新型コロナ感染の発生源である中国は、経済回復を着実に加速させているようにみえる。皮肉なことだが、中国は「武漢封鎖」など強権的にいち早く新型コロナ抑え込みを図り、それに成功している。
 
 アメリカのトランプ大統領は、新型コロナ感染拡大による経済損失は中国に賠償させるとしている。「中国に責任を負わせる方法はたくさんある」、と。中国サイドは、トランプ大統領は新型コロナ政策の失敗を責任転嫁していると反論、自らに責任はないと賠償を否定している。
 
 ともあれ中国はアメリカなどの経済混迷を尻目に経済をリスタートさせている。並行して南シナ海、東シナ海などで現状変更の動きを活発化させている。新型コロナ感染のどさくさに覇権国を目指す戦略を進めているわけである。
 
■中国が新型コロナ抑え込み=経済再開を急いだワケ

 このところ米中貿易戦争の激化、そしてその結果として中国へのサプライチェーンの過剰な集中などを見直す動きが表面化していた。アメリカ、日本、ドイツなどが中国の覇権主義を警戒してサプライチェーンの分散・多様化を試みる動きをみせていた。

 中国が、コロナ抑え込みに必死に取り組み、経済再開を急いだのは、そうした中国を警戒する動きとおそらく無関係ではない。
 
 中国は、「中国封じ込め」の動きにストップをかけたい。それには中国におけるサプライチェーンの優位性を保つ必要性がある。新型コロナ抑え込みはそのためにも不可欠の要因だった。
 
 中国としては、アメリカ、日本、ドイツなどの企業が中国からASEAN諸国などにサプライチェーンを移動させるのは何としても阻止したい。外資企業がもたらした資本、技術、雇用といった中国の経済成長の原動力をいささかでも失いたくない。
 
 中国にはそうした危機感がある。外資企業が去れば、中国の「富」が失われ、社会主義市場経済=改革開放以前の貧困な停滞経済社会に戻ることになりかねない。中国にはそうしたハングリーな記憶が残っており、それが危機バネになっているとみられる。
 
■「管外交」=中国は本気かと疑心暗鬼
 
 仮に中国がコロナ感染抑え込みで後手に廻って、発生源にして感染蔓延という状態になれば、一気に外資企業が中国を逃げ出すトレンドが加速されていたに違いない。
 
 しかし、中国は必死にコロナを抑え込んだ。特に、武漢は中国の自動車、半導体産業のメッカのような都市であり、長期の「都市封鎖」を行って新型コロナ抑え込みを図った。
 
 一方、中国からサプライチェーンの受け入れ候補地のASEAN諸国などはコロナ感染が長期化した。中国からASEANなどへのサプライチェーン移転は頓挫したかにみえた。
 
 今回の菅義偉首相のベトナム、インドネシア訪問などは、中国としては当然ながら警戒しているとみられる。中国からは「新NATO構築」(王毅外相)いった牽制がすでに行われている。

 中国としては、日本の動きなどほとんど眼中にないと高をくくっていたら、案外本気なのかと疑心暗鬼を持たせたに違いない。

 中国からのサプライチェーンの分散・多様化は果たして動き出すのか。日本の経済界は、日中の緊密な貿易関係などから事を荒立てたくないのが本音である。中国もここは大人の態度で事を大きくすることなく、「管外交」の本気度を探っている段階とみられる。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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