【小倉正男の経済コラム】米国はコロナ禍で起業ラッシュ、日本は?

■適切な医療への接続サービス

 緊急事態宣言が延長されたが、「健康経営」といったテーマで勉強会があるというので出席した。東京都心部は、緊急事態宣言下というのに人出はほとんど少なくなっていない。そんなことを確認しながら向かったわけだが、ともあれ果たして健康経営とは何か――。

 勉強会の中身は、モバイル通信のNTTドコモ(株式保有51%)と医師など医療従事者向けWebメディアのエムスリー(同49%)の合弁による新企業エンフィール(empheal)の勉強会だった。

 エンフィールは、企業を顧客として、従業員やその家族に適切な医療への接続サービスを行うのがビジネスモデルということだ。

 エンフィールの創業は、2019年4月。新型コロナ感染症が勃発する以前のスタートだが、ともあれホヤホヤというか、ピカピカの新企業である。確かに、ビジネスモデルから勉強しないと企業のコンセプト、将来の成長性などなかなか理解できない。

■先行き睨んで新医療事業をスタート

 西口孝広社長は、「経営が従業員の健康管理を戦略的に考えて健康投資を行うことで企業の業績向上につながる。そうしたことをミッションとして目指している。ドコモとしては先行きを睨んでの新事業としてスタートさせた」と創業の沿革を説明している。

 例えば、ガンを発症したケースなどについて根橋拓也副社長は、「多くの人はガンパニックになる。ネットにありとあらゆる情報があるが、適切な医療に接続するための支援や情報を得るのはきわめて難しい」。これは初心者がガイドなしでヒマラヤ登山するようなもので、「ガイドなしでどうやって登る」という問題を解決するとしている。

 資金力、グループ力など経営資源はあるが、新事業を起こすノウハウがないといった大企業が少なくない。株式市場からは、内部留保(利益剰余金)ばかりではなく、資本効率を高めろという要望が強い。新事業が起業されれば、新しい雇用が生み出され、GDP(国内総生産)成長に貢献する。

 国も起業を支援しているわけだが、コロナ後に新しい企業が出てくる必要があるのは確かだ。新企業が順調に成長するのは簡単ではない。難しいハードルをひとつひとつ越えていかなければならない。エンフィールの創業は、コラボによるシナジー効果が見込める面があり、困難を何とか乗り越えて先行きに成長軌道を目指してほしいものだ。

■米国ではコロナ禍で起業ラッシュ

 いま世界は、新型コロナ禍で倒産、解雇=失業が大量発生し、新事業の起業が急増している。米国、EU(欧州連合)などでは「起業ラッシュ」となっている。コロナ後を睨んでダイナミズムの顕在化が起こっているようにみえる。

 しかし、日本は以前から起業率が低い。ただ、起業後の継続率は高いとされている。コロナ禍では、さすがに日本でも起業する動きが促進されているとみられる。それでも企業が「潜在失業者」を抱えている面があり、起業ラッシュまでは起こっていない。

 日本では大企業でもそうなのだが、新事業を育成するのが大変難しい面が存在した。「本業」「本家」という意識が強く、新しいビジネスを認めない傾向、クセを否定できなかったからである。

 例えば、1980年代に世界を制覇した日本の半導体は、米国のジャパンバッシングに見舞われたとはいえ、その後むざむざと衰退した。「半導体はどこも重電機会社の多角化部門で子会社だったから、本社、本体がその重要性を心底から理解しなかった」(半導体業界筋)。

 しかし、コロナ禍でそうしたことをいっていられる状況ではない。日本の起業支援環境そのものはそう悪くはないといわれている。国は起業ラッシュを呼びかけて、コロナ禍を転じて福となしてほしいものである。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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