【小倉正男の経済コラム】「コロナ後」~米国はインフレ懸念、日本はデフレ懸念という対照

■米国は1・9兆ドルの経済対策でインフレ懸念

 バイデン大統領の1・9兆ドルの経済対策(アメリカン・レスキュー・プラン)だが、さすがにインフレ懸念を惹起して10年物国債利回りは1・7%台に急上昇している。

 バイデン大統領は、「アメリカン・レスキュー・プラン」で新型コロナ禍への景気テコ入れ策に覚悟を示したといえる。半端ない巨額の財政出動である。金利は上昇気配になるとしても、大枠で米国は景気回復に一歩を踏み出したようにみえる。
 
 中途半端なことではデフレ懸念になる。デフレよりはインフレ懸念のほうが格段にましだ。「アメリカン・レスキュー・プラン」のメッセージはそうしたものにほかならない。
 
 米国の長期金利が上昇傾向をみせてドル高に転じると、新興国などは通貨安の不安から利上げでこれに歯止めをかけようとしている。根底には新興国の債務問題などがある。だが、米国としても景気回復が最優先であり、 長期 金利上昇をある程度容認するしかない。
 
■日本はコロナ禍の長期化でデフレ懸念

 問題は日本経済である。首都圏の1都3県に出されていた緊急事態宣言は3月21日で解除される。新型コロナ感染者は、ひと頃からみると減少してきた。しかし、安心できる水準までの減少は実現できていない。あくまで警戒を継続しながらの解除となりそうだ。

 飲食店への「時短営業」では、午後8時で閉店を要請していたわけだが、午後9時閉店にしてくれというものになる。段階を踏んで、営業の通常化を目指していくというのだが、すっきりしないというか、先が見えていない。

 「コロナ疲れ」というか、飲食店のほうも諦めている様子だ。銀座などのお店に緊急事態宣言解除後の営業時間は、と聞いたら「とりあえず午後8時30分まで営業の予定」といった返事だった。

 これでは解除といっても経済はフル稼働には程遠い。コロナ禍は長期化しており、終息のメドはみえない。こうなると「デフレ懸念」が再燃しかねない。金融超緩和政策で株、不動産は上昇している。だが、実体経済というか、経済トータルでは低迷が避けられない。

■米国、中国に引き離されるGDP格差

 コロナのほうはワクチン次第という面もあるが、ワクチン接種のほうもスケジュールがはっきりしていない。国民としては、気長に順番の指定を待っているしかない。コロナ禍は果たしてどこまで長期化するのか。地域の居酒屋、外食店、アパレル店、クリーニング店などの休業・閉店もぽつぽつ目立ってきている。

 コロナ感染を終息させないと、経済は浮上どころか、底打ちを確認できない。製造業では、中国経済の立ち直りで半導体関連、工作機械など機械関連で底入れ傾向がみられる。米国経済が再稼働すれば日本にはプラス要因なのは間違いない。ただ、日本は、米中という他所さま頼みで、自ら景気を持ち上げる意思(政策)が脆弱である。

 米国は合計3回の家計給付(1人当たり3200ドル=34万8800円)を国民の85%に支給している。経済の最大ファクターである消費を活性化させようとしている。中国は「中国製造2025」によるハイテク強化に加えて内需拡大に焦点を合わせて経済を再稼働させている。中国は弱点であるハイテクを強化、内需を拡充するとしているわけである。

 バブル崩壊後、日本は世界的な経済危機に直面するごとに米国、そして中国にGDP(国内総生産)で格差を拡大されている。連戦連敗、いまではこの格差を縮めるのはほとんど無理なほど引き離されている。米国ではインフレ懸念、日本はデフレ懸念という対照的な不確実性は、日本経済のひ弱な「コロナ後」を指し示している。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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