【小倉正男の経済コラム】米国雇用統計:緩やかな回復、日本はまだ混迷

■米国の5月就業者数は55万9000人増

 米国の雇用だが、新型コロナに対するワクチン接種の浸透もあって、事前には好調な回復が予想されていた。消費者物価などのインフレ懸念も強まっており、雇用回復が顕著になれば、テーパリング(金融緩和策の縮小)が促進される可能性があるとされていたわけである。ドルが買われ、米国債金利が上昇する気配が強まっていた。

 4日に米国雇用統計が発表され、5月の非農業部門の就業者数は前月比55万9000人増という結果だった。4月の就業者数は27万8000人増だったから、4月に比べると大幅な回復にみえる。

 ただ、事前の市場予想は65万人増であり、雇用統計発表の直前にはそれを大きく上廻るかとみられていただけに回復トレンドは緩やかと受け止められている。発表後はドルが売られ、米国債金利が下げに転じた。NY株式、ナスダックとも金融緩和策の縮小は当面ないとみて上昇している。

 宿泊、飲食などが就業者増を引っ張っているが、それでも接客関連などには十分に戻りきれていない状況である。需給のミスマッチが起こっているということだ。失業給付の手厚い上乗せ補償も就業意欲を後退させており、就業を躊躇させているとみられる。

■次選挙は大荒れ必至か

 米国経済はコロナ以前の状態に戻るのはまだ時間がかかりそうだが、回復トレンドに入っているのは間違いない。

 問題は日本経済のほうでワクチン接種の出遅れが大きく響いている。テーパリング(金融緩和策の縮小)どころか、首都圏の1都3県などワクチン接種ではいまも混迷が続いており、順調とはいえない。特に神奈川県などの混迷は酷く、東京・大手町の大規模接種センターに予約が流れている。

 コロナは人々の生業、生活に密接に関連しており、国、地方自治体の手腕・能力が試されている。特にワクチン接種などは、打たないと自主判断されている人もいるが、一般は自らの身体に打つわけだから、自治体などのやり方にいちばん密接に触れる瞬間である。

 次の選挙は、国も自治体も大荒れが予想される。一部の自治体首長などでは次選挙をすでに諦めている向きもいないではないだろうが、何とか頑張って住民の生業、生活を守ってほしいものだ。

■「コロナ敗戦」、その責任は重い

 国、自治体の手腕、能力などは平時ならそう問題にはならない。だが、クライシス時には手腕、能力が凡庸では目も当てられない。これによって経済、景気動向の明暗は大きく左右される。

 経済の回復でも、米国、中国の回復スピードに比べるとすでに”周回遅れ”となっている。日本は経済危機を迎える度に米国、中国に引き離されている。クライシス時に手腕、能力を発揮するのがリーダーというものなのだが、国、自治体ともそうしたリーダーはほとんど見たことがない。

 自民党幹部など、「ワクチンでコロナを叩いて、東京五輪で国民を昂揚させて、秋の総選挙では人気・支持を挽回する」などと発言している。コロナ禍でもまったく同様だが、どこまでも「最善の想定」という“頭脳”で組み立てている。

 どこまで惨敗~敗北を極小化するかというのがまっとうな思考だが、「最悪の想定」など頭の片隅にもない。懲りないというか、現実を舐めているというか。

 「コロナ敗戦」、その責任に目をつぶって、東京五輪で昂揚させて――、そのようなことを繰り返されるのでは、この先の日本は衰退するばかりだなと思わないではいられない。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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