加賀電子は上値試す、22年3月期1Q順調で通期上振れの可能性

 加賀電子<8154>(東1)は独立系の大手エレクトロニクス商社である。M&Aも積極活用して規模拡大と高収益化を推進している。22年3月期第1四半期は電子部品やEMSの需要が回復して大幅営業・経常増益と順調だった。通期予想を据え置いたが上振れの可能性が高いだろう。商社ビジネスとEMSビジネスのシナジー効果で収益拡大基調を期待したい。株価は年初来高値を更新した直後に一転して急反落の形となったが、利益確定売り一巡して切り返しの動きを強めている。上値を試す展開を期待したい。

■独立系の大手エレクトロニクス商社

 独立系の大手エレクトロニクス商社で、半導体・電子部品・情報機器等の商社ビジネス、および電装基板製造受託サービスのEMSビジネスを展開している。

 富士通エレクトロニクスを19年1月に子会社化(富士通セミコンダクターから株式70%取得、20年12月28日付で社名を加賀FEIに変更)した。さらに20年12月に15%、21年12月に15%を段階的に追加取得して、22年1月に完全子会社化予定である。

 21年3月期のセグメント別売上高構成比は、電子部品事業(半導体、電子部品、EMS)84%、情報機器事業(パソコン・周辺機器、各種家電、写真・映像関連商品)11%、ソフトウェア事業(CGアニメ映像制作、アミューズメント関連商品)1%、その他事業(エレクトロニクス機器修理、アミューズメント機器製造販売、スポーツ用品販売など)4%、営業利益(調整前)構成比は電子部品事業72%、情報機器事業22%、ソフトウェア事業2%、その他事業4%だった。

■商社ビジネスとEMSビジネスのシナジーで収益性向上目指す

 中期経営計画2021では、基本方針に収益基盤強化、経営基盤安定化、新規事業創出、経営目標値に22年3月期(為替前提1米ドル=110円)の売上高5000億円、営業利益130億円、ROE8%以上を掲げている。株主還元は連結配当性向25~35%を確保しつつ安定的な配当を実施する方針だ。

 中計に沿ったセグメント区分を電子部品事業、EMS事業、CSI事業(情報機器事業)、その他事業(ソフトウェア事業、その他事業)とする。21年3月期売上構成比は電子部品事業62%、EMS事業24%、CSI事業11%、その他事業3%、営業利益構成比は電子部品事業26%、EMS事業48%、CSI事業22%、その他事業3%だった。

 加賀FEI(旧:富士通エレクトロニクス)を子会社化し、商材の拡大や顧客基盤の共有によって、電子部品事業における業界NO.1規模を目指している。短期的な目標は商社ビジネスの量的拡大だが、中期的な目標として商社ビジネスとEMSビジネスのシナジーによる収益性向上(利益額の拡大と利益率の向上)を目指す。

 収益基盤強化では、成長分野(車載、通信、環境、産業機器、医療・ヘルスケア)への取り組み、EMSビジネスおよび海外ビジネスの強化・拡大を推進する。経営基盤安定化では、加賀EFIをグループ化した後の効率性および財務健全性の早期改善に向けて、グループ横断的なコスト削減、組織体制整備によるグループ経営効率化、コーポレートガバナンス強化を推進する。新規事業創出ではM&Aも積極活用して、保育・福祉・介護等の社会課題ビジネスや素材ビジネスへの取り組み、ベンチャー投資によるオープンイノベーションを推進する。

 EMSビジネスでは18年以降に稼働した新拠点のメキシコ、ベトナム、トルコ、インド、福島新工場、タイ第2工場が順次、収益寄与している。20年12月には中国内陸部におけるEMS事業の生産能力強化に向けて、湖北省孝感市に新工場(湖北加賀電子有限公司孝感工場)を竣工した。今後は車載、産業機械、空調、医療・ヘルスケア分野を成長ドライバーとして事業拡大を推進する。

 さらに「グローバル競争に勝ち残る企業」を目指してM&A戦略を加速している。19年10月パイオニアの製造子会社である十和田パイオニアを子会社化して商号を加賀EMS十和田に変更、20年4月エレクトロニクス商社のエクセルを子会社化、20年11月旭東電気(20年4月民事再生法適用申請)から新設分割された新:旭東電気を子会社化した。

 なお21年4月1日付でSDGs委員会を設置した。従前より取り組んできたCSRならびにESGへの対応を深化させ、グループ全体で横断的にサステナビリティ経営を推進する。21年7月には、ソフトバンクが設立したソフトバンク5Gコンソーシアムの5G関連パートナーとして参画した。5G関連通信設備・機器の提供などを通じて、5G普及促進とともに、事業を通じた社会貢献を追求するとしている。

■ベンチャー投資でイノベーション創出を支援

 創立50周年を記念して設立した「50億円ファンド」を通じてベンチャー投資を行い、イノベーション創出を支援している。

 出資実績としては、ウェアラブルコミュニケーションデバイス開発のBONX、前立腺癌生検および治療用システム開発の米HARMONUS、スマートセキュリティサービスのSecual、ソフトバンクグループで保育クラウドサービスを展開するhugmo、AIソフトウェア開発のハカルス、次世代蓄電デバイス「グリーンキャパシタTM」開発のスペースリンク、動画CM配信プラットフォーム事業やデジタルサイネージ事業のCMerTV、DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けたソリューション事業を展開するSun Asteriskなどがある。

 20年5月にはライブ配信アプリ「17Live」などアジア圏中心にソーシャルメディアを展開する台湾のM17に出資、20年6月には医療機器開発ベンチャーのニューロシューティカルズ(NCI)に出資、20年8月にはシェアリングプラットフォーム「Akice.style」を運営するレンタルサービスベンチャーのピーステックラボ(PTL)に出資した。

 20年10月には、独自開発の光触媒技術を活用して各種環境製品を展開するカルテック(子会社化したエクセルがスタートアップ資金を出資)と、光触媒除菌脱臭機「TURNED K」の販売および製造に関わる部品調達で協業した。20年12月には、オンライン診療システム「D―CUBE」などオンライン健康支援事業を展開するリンケージに出資した。

 21年5月には株式投資型クラウドファンディング事業者の日本クラウドキャピタルに出資、21年6月にはAI関連技術を開発するカタリナに出資した。

■22年3月期営業・経常増益予想、1Q順調で通期上振れの可能性

 22年3月期の連結業績予想は、売上高が21年3月期比11.3%増の4700億円、営業利益が13.4%増の130億円、経常利益が6.7%増の120億円、親会社株主帰属当期純利益が29.8%減の80億円としている。配当予想は21年3月期と同額の80円(第2四半期末40円、期末40円)である。

 当期純利益は負ののれん発生益が剥落して減益だが、電子部品やEMSの需要が回復して営業・経常増益予想としている。セグメント別の利益計画は、電子部品事業が21.5%増益、情報機器事業が7.3%減益、ソフトウェア事業が13.9%増益、その他事業が5.4%増益としている。

 第1四半期(収益認識に関する企業会計基準第29号適用で売上高が15億77百万円減少、利益への影響は軽微)は、売上高が前年同期比25.9%増の1059億49百万円、営業利益が2.7倍の44億52百万円、経常利益が3.0倍の45億66百万円だった。第1四半期として過去最高の営業・経常利益だった。親会社株主帰属四半期純利益は前期計上の負ののれん発生益の剥落で66.0%減の28億72百万円だった。

 電子部品事業が32.9%増収、3.2倍増益と大幅伸長して牽引した。半導体を中心に電子部品需要が回復し、EMSも好調だった。単体ベースで98.8%営業増益と大幅伸長し、M&Aで子会社化した加賀EFI(旧富士通エレクトロニクス)とエクセルも大幅営業黒字に転換した。

 情報機器事業はリモートワーク向けパソコン販売の反動減や、LED設置ビジネスでの顧客都合による工程延伸などで15.2%減収、2.6%減益だった。ソフトウェア事業はゲーム制作が堅調で15.5%増収だが、開発費の増加で赤字拡大した。その他事業はパソコンリサイクルビジネスの好調などで41.9%増収となり、黒字転換した。

 通期も、当期純利益は負ののれん発生益が剥落して減益だが、電子部品やEMSの需要が回復基調であり、増収、営業・経常増益予想としている。第1四半期の進捗率は売上高22.5%、営業利益34.2%、経常利益38.1%と順調だった。新型コロナ感染再拡大や半導体供給不足の影響などの不透明感を考慮して通期予想を据え置いたが、上振れの可能性が高いだろう。商社ビジネスとEMSビジネスのシナジー効果で収益拡大基調を期待したい。

■株価は上値試す

 株価は年初来高値を更新した直後に一転して急反落の形となったが、利益確定売り一巡して切り返しの動きを強めている。上値を試す展開を期待したい。8月25日の終値は2834円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS291円20銭で算出)は約10倍、今期予想配当利回り(会社予想の80円で算出)は約2.8%、前期実績連結PBR(前期実績連結BPS3311円24銭で算出)は約0.9倍、時価総額は約813億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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