【小倉正男の経済コラム】「四半期決算見直し」はディスクローズでは大きな後退

■「四半期決算」と長期的利益は相関性がない

 岸田文雄新総理が所信表明を行った。そのなかの「新しい資本主義の実現」の部分で、「分配戦略」を第一の柱として演説している。

 「企業が長期的な視点に立って、株主だけでなく、従業員も取引先も恩恵を受けられる“三方よし”の経営を行うことが重要です」

 これに続いて語られたのが、「非財務情報の充実、四半期開示の見直しなど、そのための環境整備を進めます」というフレーズである。「そのための」というのは、企業が長期的な視点で株主、従業員、取引先の“三方よし”の経営を行うためということだ。

 違和感を持ったのは、「四半期開示の見直し」と企業が長期的な視点で経営を行うということの相関性である。

 四半期決算だからということで、企業が利益を出すのに汲々としている――。あるいは四半期決算だから、賃上げをしない、下請けなど取引先イジメをしている、という相関性は一般の企業経営者から聞いたことがない。

■ディスクローズへの不信感から四半期決算に移行

 四半期決算は、企業経営のディスクローズ(情報開示)として、いまでは不可欠なものとして定着している。

 四半期決算については、経団連などが以前から見直しを求めていた経過がある。経団連は既存の大手企業の利害を代表する団体で、揶揄的にいえば“ニッポン株式会社”の権化のようなものだ。「聞く力」は重要だが、利害関係者の一方に偏って「聞く力」を使えば間違になりかねない。

 バブル期などのかつての時代は、上期(中間期)、下期(通期)の六カ月単位の決算だった。決算情報は、企業経営では第一義のディスクローズだ。6カ月では期間が長すぎて、予想外の決算数字になることが少なくなかった。バッドサプライズ、グッドサプライズのオンパレードになりかねない。

 3カ月単位の四半期決算に移行した時に「バッドサプライズ、グッドサプライズが少なくなる」(市場関係筋)という説明を受けたものである。いまでは毎月ごとの売り上げなどをディスクローズする企業もまだ少数派といえるが増えている。これは株主には恩恵になっている。

 バブル崩壊後、多くの企業が不良債権隠し、粉飾決算めいたことを行った。不信感から株式市場離れが起こり、市場は長期低迷となり“死んだ”状態になった。四半期決算に移行した経過には、日本企業のディスクローズへの不信感があったわけである。

■成長戦略がなければ賃上げは波及しない

 四半期決算は企業経営情報では「見える化」(透明化)の到達点といえる。決算情報開示により、株主総会での「言える化」というトレンドにつながっている。四半期決算見直しは、とりわけ外人投資家には敏感な問題であり、株式市場にはマイナス作用を及ぼしかねない。

 1970年代までの成長力があった頃の日本企業にしてもいまや伝説化している。当時はいかにも「長期的な経営」をやっていたようにいわれている。しかし、あの時代で振り返ってみても、家電、精密機械、自動車などの各企業とも外資企業の巨大な資本力、競争力に恐怖しながら必死の生き残りに明け暮れていたのが現実である。

 結局のところ、「賃上げ」「分配」といっても、成長戦略、経済成長を促す政策を打ち出せるかどうかにかかっている。もちろん、現状でも賃上げ余力があるのに賃上げしない企業もないではない。税制支援などで賃上げが一部実現されるとしても、成長戦略がなければ全体に波及しない。

 株主への配当だが、かつては微々たるものだったが、徐々に改善されてきたのは事実だ。成長戦略の担保がないのに賃上げに重点が変われば、株主への分配=配当に影響が出る。そうした「キシダショック」といわれるファクターも市場に存在している模様である。

 政権というものも、経済を誤れば人々が離れていくことになる。とりあえず、「賃上げ」、「分配」をどう実現するのかどうかが試金石になる。「令和版所得倍増計画」にいたっては、企業経営層にしても「あり得ない」「絵空事か」「どうやって実現」と否定的な反応だ。風呂敷は大きい、いや風呂敷が大き過ぎて使えないということか。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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