シナネンホールディングスは上値試す、22年3月期減益予想だが上振れ余地

 シナネンホールディングス<8132>(東1)は脱炭素社会を見据えてグローバル総合エネルギーサービス企業グループを目指している。22年3月期は新規事業に係る先行投資やIT投資などで減益予想としている。ただし保守的な印象が強い。通期予想は上振れ余地がありそうだ。株価は9月の年初来高値圏から反落したが利益確定売り一巡感を強めている。自律調整を交えながら上値を試す展開を期待したい。なお10月29日に22年3月期第2四半期決算発表を予定している。

■グローバル総合エネルギーサービス企業グループ

 脱炭素社会の実現を見据えてグローバル総合エネルギーサービス企業グループを目指している。事業区分は、エネルギー関連のエネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)、エネルギーソリューション事業(BtoB事業)、および非エネルギー・海外事業としている。

 21年3月期セグメント別構成比(調整前)は、売上高がBtoC事業28%、BtoB事業64%、非エネルギー・海外事業8%、営業利益がBtoC事業46%、BtoB事業43%、非エネルギー・海外事業12%だった。

 BtoC事業は、家庭向け・小売事業者向けLPガスなど各種燃料販売事業、リフォーム・ガス器具販売などの家庭向けエネルギー周辺事業、家庭向け電力販売事業、都市ガス供給事業、LPガス保安および配送事業を行っている。

 BtoB事業は、大口需要家向け石油製品など各種燃料販売事業、ガソリンスタンド運営事業、電源開発および法人向け電力販売事業、太陽光発電システム販売および周辺サービス事業、省エネソリューション事業、住宅関連設備事業、国内外での再生可能エネルギー事業を行っている。マイクロ風車関連事業は21年3月末にさいたま市で実証実験を開始した。

 21年4月には再生可能エネルギー導入・調達ソリューションのクリーンエナジーコネクトと提携し、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)に依存しない非FITの太陽光発電所を活用したバーチャルコーポレートPPA(電力購入契約)による新たなビジネスモデル展開を共同構築すると発表した。PPAは企業が太陽光や風力などの電力を発電事業者から直接、長期に購入する契約で、次の再生可能エネルギー調達手段として注目されている。

 21年8月には非FITによる電力供給が環境省の「令和3年度オフサイトコーポレートPPAによる太陽光発電供給モデル創出事業」に採択された。22年2月からロールモデル確立に向けて事業開始予定である。

 非エネルギー・海外事業は、抗菌事業(抗菌性ゼオライトなど)、環境・リサイクル事業(木質系チップなど)、自転車の自社小売店舗「ダイシャリン」事業およびシェアサイクル「ダイチャリ」事業、コンピュータシステムのサービス事業、建物維持管理事業、バイオマス事業を行っている。

 なお、韓国での大型風力発電事業は21年度下期中の商業運転開始を目指していたが、許認可取得が当初予定から遅れているため、計画を見直して商業運転開始時期を未定に変更(21年10月8日付リリース)した。また、ブラジルにおけるバイオマス事業は撤退を決定したが、新たなバイオマス事業への展開を検討している。

 シェアサイクル「ダイチャリ」事業は、OpenStreetが提供するシェアサイクルプラットフォーム「HELLO CYCLING」を活用して、首都圏1都3県および大阪府を中心に展開している。21年8月末時点で、ステーション数が全国約2000ヶ所、設置自転車数が8200台を超えて国内有数の規模となっている。なお22年3月期第1四半期には、利用ユーザー数が前年同期比16.5万人増加の31.5万人、利用回数が71.5万回増加の130.7万回と大幅伸長した。第3の交通インフラとして定着傾向を強めている。

 21年4月には埼玉県ふじみ野市と基本協定」を締結(5月からシェアサイクル事業の実証実験開始)した。21年7月には埼玉県富士見市と基本協定書を締結(7月からシェサイクル事業の実証実験)した。21年9月にはジェイアール東日本開発と業務提携して「スタジオメイクオーバー武蔵浦和」に「ダイチャリ」を設置した。またエヌアセットと業務提携した。21年10月から川崎市高津区を中心に「ダイチャリ」の展開を拡大する。

■資本効率改善を推進

 第2次中期経営計画(20年度~22年度)は、第3次中期経営計画(23年度~25年度)の躍進に向けた基盤整備と位置付けて、定性目標に資本効率の改善、持続的成長を実現する投資の実行、社員の考え方・慣習・行動様式の変革を掲げている。

 資本効率・財務体質の改善では、既存事業の効率化と利益率向上、遊休・低稼働資産の有効活用または売却、資本効率の低い事業の撤退・売却と資本効率の高い事業への集中を推進する。

 持続的成長を実現する投資の実行では、既存事業の収益基盤強化のためのM&Aおよび建物維持管理事業におけるM&Aの実行、シェアサイクル事業・再生可能エネルギー事業・新規事業への戦略投資の実行、事業多様化や環境変化に値旺した基幹システムの整備・高度化およびDX(デジタルトランスフォーメーション)のためのIT投資を推進する。20年10月にはDX推進に向けて、インターネットイニシアティブ(IIJ)のデジタルワークプレース(DWP)を実現する各種サービスを採用して次世代IT基盤を構築した。

 定量目標「持続的にROE6.0%以上」を生み出す事業構造確立を目指し、エネルギー関連事業ではM&Aによる顧客基盤とシェアの拡大、新規商材による顧客層の拡大と深耕などで経営基盤を強化し、非エネルギーおよび海外事業では個々の事業環境や特性に対応した成長戦略を推進する。そして既存事業の安定的成長と新規事業開発による高収益化を図る方針だ。なお株主還元は配当を基本として、配当性向30%以上を目安に安定的に配当する方針としている。

■22年3月期減益予想だが上振れ余地

 22年3月期の連結業績予想は、売上高が21年3月期比12.4%増の2440億円、営業利益が28.5%減の21億円、経常利益が43.8%減の17億円、親会社株主帰属当期純利益が44.8%減の15億円としている。配当予想は21年3月期と同額の75円(期末一括)である。

 第1四半期(収益認識に関する企業会計基準第29号適用のため前年同期比増減率は非記載)は、売上高が493億59百万円、営業利益が4億17百万円、経常利益が5億78百万円、親会社株主帰属四半期純利益が3億77百万円だった。企業会計基準第29号適用の影響で売上高が31億38百万円減少、売上原価が28億90百万円減少、営業利益、経常利益、親会社株主帰属四半期純利益がそれぞれ2億48百万円減少した。

 収益認識基準適用前に換算すると売上高は前年同期比33.7%増の524億98百万円、営業利益が17.8%減の6億65百万円、経常利益が18.0%増の8億27百万円となる。原油価格高騰に伴う販売単価上昇で増収だが、営業利益は投資強化で減益、経常利益は前期計上の貸倒引当金繰入額が剥落して増益だった。

 エネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)は売上高が基準適用前で17.0%増の148億13百万円(基準適用後は138億47百万円)だった。春先の平均気温が平年と比べて高かったためLPガス・灯油の販売数量がやや低調だったが、原油価格・プロパンCP価格高騰に伴う販売単価上昇で増収だった。利益はLPガス差益確保や販管費抑制などにより、基準適用前で2.3億円増加の4.5億円(基準適用後は2.0億円)だった。

 エネルギーソリューション事業(BtoB事業)は売上高が基準適用前で49.1%増の330億62百万円(基準適用後は308億89百万円)だった。石油事業で前年並みの販売数量を維持し、販売単価上昇で大幅増収だった。利益は新規事業投資を含む費用増加や電力調達コスト上昇などで3.6億円減少の0.6億円だった。

 非エネルギー事業・海外事業は売上高が基準適用前で4.0%増の45億25百万円(基準適用後も45億25百万円)だった。自転車販売が前年の特需の反動減で低調だったが、ステーション数や利用者数が順調に増加したシェアサイクル「ダイチャリ」事業、医療施設の感染消毒清掃が好調な建物維持管理事業が牽引した。利益はシェアサイクル事業の収益改善などで0.2億円増加の1.2億円だった。

 通期予想は据え置いている。収益認識基準適用の影響は、検針日と月末のズレによって四半期ごとにプラスマイナスの影響が出るが、通期ベースでの影響は軽微の見込みとしている。売上面は原油・プロパンCP価格上昇を考慮して増収予想だが、利益面は新規事業に係る先行投資経営基盤整備に向けたIT関連投資を積極推進し、さらに韓国大型風力発電事業に係る支払利息増加なども考慮して減益予想としている。なお先行投資に伴う営業利益へのマイナス影響額は、BtoB事業の新規事業投資(人件費を含む)で6.1億円、非エネルギー事業のシェアサイクル事業投資で1.0億円、調整額のDX投資(人件費含む)で3.0億円としている。

 セグメント別営業利益計画は、BtoC事業が3.5億円増益の13.1億円(売上総利益の増加で7.0億円増益、住設機器の増販で4.0億円増益、不動産事業の開始で0.4億円増益、物流関係費の増加で2.0億円減益、人件費・営業関係費の増加で6.0億円減益)、BtoB事業が7.5億円減益の1.4億円(売上総利益の増加で1.1億円増益、環境ソリューションの増販で1.8億円増益、物流関係費の増加で3.0億円減益、マイクロ風車および韓国大型風力の新規事業投資で3.1億円減益、環境配慮型電力事業に関する費用等で3.0億円減益、その他費用の増加で1.3億円減益)、非エネルギー事業が0.7億円増益の3.1億円(シェアサイクル事業投資で1.0億円減益、シェアサイクル事業収益改善で2.8億円増益、自転車事業収益改善で0.7億円増益、システム事業インフラ更新で1.6億円減益、その他費用の増加で0.2億円減益)としている。

 通期予想に対する第1四半期の進捗率は売上高20.2%、営業利益19.9%とやや低水準の形だが、エネルギー関連の季節要因を考慮すれば順調だろう。そして通期予想は保守的な印象が強い。上振れ余地がありそうだ。

■株価は上値試す

 22年4月4日移行予定の新市場区分に関しては、上場維持基準への適合状況に関する一次判定結果でプライム市場適合を確認し、21年9月30日開催の取締役会においてプライム市場選択を決議した。今後、所定の手続を進める。

 株価は9月の年初来高値圏から反落したが利益確定売り一巡感を強めている。自律調整を交えながら上値を試す展開を期待したい。10月18日の終値は3555円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS137円93銭で算出)は約26倍、今期予想配当利回り(会社予想の75円で算出)は約2.1%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS4707円96銭で算出)は約0.8倍、時価総額は約464億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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