アステナホールディングスは調整一巡、22年11月期も収益拡大基調

 アステナホールディングス<8095 旧イワキ>(東1)はヘルスケア・ファインケミカル企業集団を目指し、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。21年11月期は需要拡大、利益率改善、M&A効果などで大幅営業・経常増益予想としている。22年11月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。12月22日には固定資産譲渡を発表した。22年11月期に特別利益を計上予定である。株価は地合い悪化も影響して年初来安値を更新したが、調整一巡して出直りを期待したい。なお1月13日に21年11月期決算発表を予定している。

■ヘルスケア・ファインケミカル企業集団

 旧イワキが21年6月1日付で持株会社体制に移行して商号をアステナホールディングスに変更した。アステナは「明日(未来)+サステナブル(持続可能)」の造語である。ヘルスケア・ファインケミカル企業集団を目指し、M&Aも活用して、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。

 20年11月期セグメント別売上高構成比はファインケミカル事業(CMC研究開発、医薬品原料)が33%、医薬事業(医薬品、医療機器)が16%、HBC・食品事業(化粧品、食品原料、ファルマネット)が40%、化学品事業(表面処理薬品、スペシャリティマテリアル、表面処理設備)が11%、営業利益構成比はファインケミカル事業が59%、医薬事業が49%、HBC・食品事業が▲24%、化学品事業が16%だった。

 なお営業利益の構成比を製造・非製造で分解すると、15年11月期は製造業分野が35%で非製造業分野が65%だったが、20年11月期は製造業分野が92%で非製造業分野が8%となり、専門商社からメーカーへの変貌を鮮明にしている。M&Aも活用して4つの新しい戦略的ビジネスモデル(調達プラットフォーム事業、インキュベーション事業、注射剤CDMO事業、塗り薬CDM事業)を構築した。

■グループ組織再編

 ファインケミカル事業は、20年3月に子会社化した医薬品CMC研究・製造受託のスペラファーマと、スペラファーマの子会社として20年7月に設立したスペラネクサスが展開している。さらに岩城製薬のファインケミカル事業をスペラネクサスに承継し、医薬品原薬のCMC研究開発から製造・販売まで一貫体制を構築した。また20年6月にスペラファーマが創薬ベンチャーのジェイファーマに出資、21年4月にスペラファーマがペプチド合成技術を保有するJITSUBOを子会社化した。

 医薬事業は岩城製薬と、20年7月に鳥居薬品佐倉工場を継承した岩城製薬佐倉工場が展開している。さらに20年1月には医療用後発医薬品・一般用医薬品開発の前田薬品工業に出資、21年1月には岩城製薬が医薬品開発のキノファーマに出資して業務提携している。12月10日には岩城製薬が22年4月1日より、ヤンセンファーマから「ニゾラールローション2%」の日本における製造販売承認を承継し、販売移管を行うと発表した。岩城製薬にとって初の長期収載品の扱いとなる。

 HBC・食品事業はイワキ(イワキ分割準備会社が21年6月商号変更)とアプロスが展開している。20年12月には健康食品・化粧品販売のマルマンH&Bを子会社化した。21年7月にはイワキがスカイネットから薬事サポート事業、自社開発事業および輸入製販事業を譲り受けた。21年9月にはイワキが住建情報センターのヘルスケア事業を譲り受けた。

 化学品事業はメルテックス、東京化工機、および海外子会社等が展開している。

■SDGsへの取り組み強化

 持株会社体制への移行に伴って、グループ全体のBCP(事業継続計画)対策および従業員の働き方・生き方の選択肢多様化を目的として、21年6月に本社機能の一部を石川県珠洲市に移転した。さらに、石川県珠洲市が地方創生に向けた人材育成事業の一環として行っている能登SDGsラボと協業し、30年までにSDGsの達成と社会変革の実現を目的とする売上100億円規模の新規事業を推進する。

 21年6月には新規事業のインキュベーションを担う専任部署として新規事業推進室を設置した。SDGs推進に向けて、化粧品原料・製品(グループ会社JITSUBOのペプチド合成法Molecular Hivingによる高品質で環境に優しく、コスト優位性のある化粧品原料・製品)事業、地方創生に繋がるハイブリッド型ふるさと納税プラットフォーム事業、健康食品原料事業(国産の安心・安全な健康食品原料・製品の第6次産業化を目的として、石川県珠洲市で健康食品の原料となる植物等の栽培を行う事業)などを推進する。

 21年7月には、奥能登地域のSDGS達成支援を目的とするファンド「奥能登SDGs投資事業有限責任組合(奥能登SDGsファンド)」への出資を発表した。特定子会社となる。21年8月には、グループの業務サポートやファシリティーサービスを提供するアステナハートフル(21年6月設立)が、障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく特例子会社の認定を取得した。

 21年11月には能登地域のSDGs達成の支援を目的として、能登地域の自治体3市(七尾市、輪島市、珠洲市)・2町(穴水町、能都町)、および国立大学法人金沢大学、奥能登信用金庫、のと共栄信用金庫、北國フィナンシャルホールディングス、BPキャピタルと、SDGs推進に係る連携と協力に関する協定を締結した。

 なお21年12月1日付で子会社のイワキ総合研究所が商号をアステナミネルヴァに変更した。新規事業推進室を移設し、事業内容も地方創生に関連する事業に変更した。

■中長期ビジョンの目標は売上高1300億円以上、ROE13%以上

 2030年を目標とした中長期ビジョン「Astena2030」では、定量的ターゲットとして30年11月期連結売上高1300億円以上、ROE13%以上を掲げ、中期連結数値計画は23年11月期売上高820億円、営業利益42億円、ROE9.7%としている。

 セグメント別30年11月期目標値は、ファインケミカル事業が売上高400億円で営業利益率9%、医薬事業が売上高228億円で営業利益率13%、化学品事業が売上高130億円で営業利益率10%、HBC・食品事業が売上高450億円で営業利益率3%とした。

 基本戦略は、プラットフォーマー戦略(CMC=医療用医薬品研究開発の国内トップレベルでの受託、ヘルスケア調達プラットフォーム=医薬品・化粧品・機能性食品製造会社の全ニーズをカバー、創薬インキュベーション=CMC提供を通じて新薬開発の成功確率を高める、CDMO=注射剤・外皮用剤・治験薬の受託製造)、ニッチトップ戦略(外皮用剤ジェネリック医薬品=国内塗り薬ジェネリック医薬品市場NO.1、ハイエンド表面処理薬品=エレクトロニクスに特化した表面処理薬品)、ソーシャルインパクト戦略(シニア・アクティベイト=化粧品・機能性食品の提供を通じてシニア総アクティブ化推進)としている。

 ファインケミカル事業は、CMC・CDMO事業および調達プラットフォーム事業を2本柱として、原材料調達からCMC研究、原薬商用生産までの医薬品開発・製造の幅広いサービスを提供する。21年3月には、岩城製薬(スペラネクサスに承継)が、オンコリスバイオファーマ<4588>が開発中の新型コロナウイルス感染症治療薬OBP―2011の、臨床試験開始に必要な治験薬原薬の製造法開発とGMP製造を受託することで基本合意した。21年7月にはスペラファーマがオンコロスバイオファーマからOBP―2011の治験薬製剤のGMP製造を受託することで基本合意した。

 医薬事業は、皮膚科領域をベースとして外皮用剤品目数および生産キャパシティでトップ、グローバル要求水準に対応して高活性注射剤CDMOのトップを目指す。また外皮用剤、注射剤導入、新薬共同開発、M&A・アライアンスで事業基盤強化・拡大を目指す。21年4月には岩城製薬がインタープロテインとCOVID―19治療薬の共同研究契約を締結した。

 化学品事業は、エレクトロニクス実装市場のトレンドを捉えたニッチトップ商品の継続的開発、ハイエンドパッケージ基板での地位確立、チップ部品用途の台湾・中国大手での採用、半導体パワー・センサー系薬品の差別化を推進する。またグローバル企業との共同開発も推進して成長を目指す。

 HBC・食品事業は、原料ビジネスのDX化による顧客の開発・調達プロセスの課題解決プラットフォームの提供、独自性を高めた商品・サービスの提供による市場価値増大を推進する。またダイレクトマーケティング領域への投資を実行して、領域特化型ネットワークを構築する。

 その他では既存事業との親和性、将来に亘る成長性、グループ全体への波及効果なども勘案して、SDGsの達成と社会変革の実現を目的とする売上100億円規模の新規事業を推進することを目標とする。

 なお、資本効率向上に向けた拠点見直しの一環として、21年6月に名古屋オフィスおよび福岡オフィスの不動産を譲渡すると発表している。譲渡時期は未定だが、譲渡後も賃借で継続利用する。

■21年11月期大幅営業・経常増益予想、22年11月期も収益拡大基調

 21年11月期の連結業績予想は売上高が20年11月期比11.7%増の730億円、営業利益が27.8%増の26億円、経常利益が37.2%増の27億円、親会社株主帰属当期純利益が0.8%増の20億円としている。配当予想は2円増配の18円(第2四半期末9円、期末9円)である。5期連続増配となる。

 第3四半期累計は売上高が前年同期比13.0%増の537億27百万円、営業利益が39.0%増の19億54百万円、経常利益が43.7%増の20億41百万円だった。新規受注や需要回復などで大幅営業・経常増益だった。親会社株主帰属四半期純利益は26.7%減の11億30百万円だった。前期計上の負ののれん発生益6億20百万円が剥落した。

 ファインケミカル事業は、売上高が10.5%増の169億50百万円で営業利益が19.4%増の10億15百万円だった。医薬品原料分野では風邪薬関連等のOTC用原薬や国内ジェネリック用原料が低調だったが、ジェネリック新規品採用などでカバーした。CDMO分野の安定的稼働も寄与して大幅増収増益だった。

 医薬事業は、売上高が30.7%増の96億91百万円で営業利益が49.6%増の11億09百万円だった。医療用医薬品分野で主力の副腎皮質ホルモン剤をはじめとする外皮用剤、男性型脱毛治療薬、アトピー性皮膚炎治療薬などが好調に推移し、岩城製薬佐倉工場における新規受託や増産要請対応も寄与して大幅増収増益だった。

 HBC・食品事業は、売上高が7.0%増の208億49百万円だが、営業利益が4億42百万円の赤字(前年同期は4億01百万円の赤字)だった。食品原料および機能性食品原料分野は堅調だったが、一般医薬品が主体の卸売、化粧品原料分野、通販化粧品分野が低調だった。

 化学品事業は、売上高が17.1%増の62億35百万円で営業利益が45.7%増の3億10百万円だった。表面処理薬品分野の需要が半導体・電子部品向けに拡大した。

 四半期別に見ると、第1四半期は売上高169億75百万円で営業利益6億63百万円、第2四半期は売上高192億74百万円で営業利益8億32百万円、第3四半期は売上高174億78百万円で営業利益4億59百万円だった。

 通期は親会社株主帰属当期純利益が特別利益の剥落で横ばいだが、需要拡大、利益率改善、M&A効果などで大幅営業・経常増益予想としている。コロナ禍で医薬事業やHBC・食品事業を中心に不透明な状況が続くが、化学品事業では5G関連やパワーデバイス半導体分野の表面処理薬品の需要が拡大基調である。また全社的に積極的な営業展開による案件獲得、不採算品目や活動費の見直しなどによる利益率改善に取り組むとしている。

 第3四半期累計の進捗率は売上高が73.6%、営業利益が75.2%、経常利益が75.6%と順調だった。さらに22年11月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。なお12月22日には固定資産譲渡(IW日本橋ビル、引渡日22年3月予定、譲渡益約6億50百万円)を発表した。22年11月期に特別利益を計上予定である。

■株主優待制度は毎年11月末時点で1年以上保有株主対象

 株主優待制度は毎年11月末時点で100株(1単元)以上を継続して1年以上保有する株主を対象として実施している。グループ化粧品詰め合わせセットなどを贈呈(詳細は会社HP参照)する。

■株価は調整一巡

 22年4月4日移行予定の新市場区分については、新市場区分における上場維持基準への適合状況に関する一次判定結果でプライム市場適合を確認し、21年9月17日開催の取締役会においてプライム市場選択申請を決議した。所定のスケジュールに基づいて手続を進める。

 株価は地合い悪化も影響して年初来安値を更新したが、調整一巡して出直りを期待したい。12月22日の終値は479円、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS60円65銭で算出)は約8倍、前期推定配当利回り(会社予想の18円で算出)は約3.8%、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS656円54銭で算出)は約0.7倍、時価総額は約195億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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