【アナリスト水田雅展の銘柄分析】イーブックイニシアティブジャパンは電子書籍事業の成長力を評価して反発期待

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 イーブックイニシアティブジャパン<3658>(東1)は電子書籍配信サービスを展開している。株価は年初来安値圏でモミ合う展開だが調整のほぼ最終局面だろう。電子書籍事業の成長力を評価して反発展開が期待される。

■電子書籍配信サービスの大手

 電子書籍書店「eBookJapan」の運営を主力として、パソコン・モバイル向け電子書籍配信サービスなどを展開している。漫画コミックの分野で世界最大級の品揃えに強みを持ち、00年創業以来の累計販売数は15年4月に5000万冊を突破した。

 なおM&Aした子会社の新規連結などに伴って、事業セグメント区分を16年1月期から、電子書籍事業(電子書籍配信、電子書籍提供)およびクロスメディア事業とした。

 電子書籍事業の電子書籍配信は自社電子書籍配信サイト「eBookJapan」での電子書籍販売、書籍の電子化受託、電子書籍配信プラットフォームの受託開発、eBook図書券の販売など、電子書籍提供はパートナー企業への電子書籍配信システムや書籍データ提供(航空機内向けサービス等を含む)などである。クロスメディア事業はコンテンツ/キャラクターを活用した販促プロモーション、中華圏向けプロモーション支援、知育アプリの開発・販売などである。

 総合電子書店NO.1の確立に向けて総合図書などの取扱冊数を大幅に増加させている。15年4月末のジャンル別取扱冊数は、男性マンガが前年同期比24.0%増の6万3050冊、女性マンガが同37.0%増の6万3400冊、総合図書が同2.2倍の22万7190冊、その他が同68.7%増の1万7210冊、合計が同74.3%増の37万0850冊となった。登録会員数は14年11月に100万人を突破し、15年4月末時点では同15.4万人増加の107.4万人となった。

■中期成長に向けてクロスメディア展開とグローバル展開を推進

 中期目標値としては5年後に売上高300億円(電子書籍配信100億円、電子書籍提供100億円、クロスメディア100億円)および売上高経常利益率10%、日本発作品のグローバル電子書籍売上に占める当社電子書籍シェア7%を掲げている。

 中期成長に向けた重点戦略としては、ブランド力向上、品揃え充実、基盤システム刷新によるサイトの使い易さ向上、販促強化による新規会員獲得などで既存事業(自社直販)を一段と成長させるとともに、M&Aやアライアンスも積極活用して、クロスメディア展開による事業領域拡大や、取扱言語拡大によるグローバル展開で業容を拡大する方針だ。

 14年6月にはアニメキャラクターを活用した企業向けタイアッププロモーションなどを展開するトキオ・ゲッツを子会社化、14年10月にはスマートフォンアプリを中心とした知育コンテンツ企画・開発のフォーリーを子会社化した。

 15年2月には、中国最大級のソーシャルメディア「微博(weibo.com)」の日本にける総括代理店で、日本企業に対する中華圏向けプロモーション支援事業を展開するFind Japanを子会社化した。さらに当社、Find Japan、および中国・上海世紀出版集団グループの出版会社である上海故事会文化伝媒有限公司の3社共同出資で上海に合弁会社を設立した。中国においてコミックを中心とした電子書籍配信ビジネスを開始する。

 15年4月にはクックパッド<2193>と資本業務提携し、第三者割当増資でクックパッドが第1位株主(保有比率10.39%)となった。クックパッドの有するマーケティング・ノウハウの当社への提供など、業務提携の詳細については今後両社間で協議のうえ決定する。そしてクックパッドの子会社で漫画家・作家向け制作・配信システム構築を手がけるマグネットの第三者割当増資を引き受けて子会社化(保有比率50.98%)した。

 15年5月にはブークスを子会社化した。同社が運営するオンライン書店「boox」への電子書籍提供事業を拡大するとともに、両社で新たなBtoB展開(紙と電子のハイブリッド書店)の共同開発を推進する。

 6月18日には、邦訳アメリカンコミック出版会社であるSparklightComics社の作品の電子書籍化、および独占先行配信を開始すると発表した。

 6月30日には、インドネシア国内最大手の総合メディア企業グループ「コンパス・グラメディアグループ」傘下のELEX社およびM&C社と提携し、15年秋からインドネシア語に翻訳されたマンガを中心とした電子書籍配信事業を展開すると発表した。今回の提携はインドネシアでのプロモーションなどに多数の実績を持つ子会社トキオ・ゲッツのコーディネートにより実現した。

■16年1月期は中期成長に向けた先行投資期間と位置づけ

 なお15年1月期の四半期別推移(第2四半期から連結)を見ると、売上高は第1四半期(2月~4月、非連結)10億65百万円、第2四半期(5月~7月)13億01百万円、第3四半期(8月~10月)13億53百万円、第4四半期(11月~1月)14億10百万円、営業利益は第1四半期1億02百万円、第2四半期1億10百万円、第3四半期90百万円、第4四半期11百万円だった。

 また15年1月期のROEは8.6%、自己資本比率は59.3%だった。

 今期(16年1月期)の連結業績見通し(3月12日公表)については、売上高が60億円~70億円(前期比17.0%増~36.5%増)、営業利益が2億円の赤字~1億円の黒字(前期は3億13百万円の黒字)、経常利益が2億円の赤字~1億円の黒字(同3億16百万円の黒字)、純利益が1億28百万円の赤字~80百万円の黒字(同1億83百万円の黒字)のレンジ予想で、配当予想は無配継続としている。

 登録会員数増加や新規連結などで大幅増収見通しだが、16年1月期と17年1月期は中期成長に向けた先行投資期間と位置付けているため、基盤システムのリニューアル、中期注力領域への投資などを推進し、開発費・人件費・広告宣伝費の増加、新規連結会社ののれん償却費増加などで減益見通しだ。

 第1四半期(2月~4月)は売上高が13億30百万円、営業利益が10百万円、経常利益が11百万円、純利益が2百万円の赤字だった。前年同期の非連結業績との比較では、電子書籍配信の伸長や新規連結の効果で24.9%増収だったが、人員増や販促強化など積極先行投資の影響で89.0%経常減益だったようだ。ただし概ね計画水準での着地となったようだ。

 なおセグメント別売上高は、電子書籍事業が同8.0%増の11億50百万円(うち電子書籍配信が同9.5%増の10億83百万円、電子書籍提供が同11.5%減の66百万円)で、新規のクロスメディア事業が1億80百万円だった。

 16年1月期は先行投資期間と位置付けて慎重な見通しだが、新規事業の業績に与える影響を考慮して、立ち上がり状況を慎重に見極めつつ投資額をコントロールするとしている。電子書籍市場の拡大も背景として、収穫期と位置付ける18年1月期以降の収益拡大が期待される。

■株価は調整のほぼ最終局面

 株価の動きを見ると、クックパッドとの資本業務提携を好感した4月の年初来高値1419円から反落し、5月以降は安値圏の1000円近辺でモミ合う展開だ。ただし3月の年初来安値950円を割り込む動きは見られない。調整のほぼ最終局面のようだ。

 7月8日の終値971円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS上限値17円41銭で算出)は56倍近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS463円27銭で算出)は2.1倍近辺である。

 日足チャートで見ると25日移動平均線、週足チャートで見ると26週移動平均線が戻りを押さえる抵抗線の形だが、電子書籍事業の成長力を評価して反発展開が期待される。

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