【アナリスト水田雅展の銘柄分析】テラは地合い悪化の影響を受けたが売られ過ぎ感

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 テラ<2191>(JQS)は、がん治療の樹状細胞ワクチン「バクセル」の薬事承認を目指すベンチャー企業である。株価は全般地合い悪化の影響を受けて水準を切り下げたが売られ過ぎ感を強めている。調整の最終局面で反発展開が期待される。

■独自開発のがん治療技術を医療機関に提供

 東京大学医科学研究所発のバイオベンチャーで、細胞医療事業(樹状細胞ワクチン「バクセル」を中心とした独自開発のがん治療技術を契約医療機関に提供)を主力として、医療支援事業(研究機関・医療機関から受託する細胞加工施設の運営・保守管理サービス、細胞培養関連機器の販売、治験支援サービスなど)、および医薬品事業(樹状細胞ワクチン「バクセル」の薬事承認取得に向けた開発活動)を展開している。

 樹状細胞ワクチン「バクセル」は、最新のがん免疫療法として注目されている。樹状細胞(体内に侵入した異物を攻撃する役割を持つリンパ球に対して、攻撃指令を与える司令塔のような細胞)を体外で大量に培養し、患者のがん組織や人工的に作製したがんの目印である物質(がん抗原)の特徴を認識させて体内に戻すことで、樹状細胞からリンパ球にがんの特徴を伝達し、そのリンパ球にがん細胞のみを狙って攻撃させる。独自技術で改良を重ね、がん治療用として最適化した。

 主力の細胞医療事業は契約医療機関における症例数に応じた収入が収益柱である。14年12月末時点の契約医療機関数は全国で合計37カ所、契約医療機関における会社設立以降の累計症例数は約8900症例である。

■M&A・アライアンス戦略を加速

 成長に向けたM&A・アライアンス戦略も積極展開している。13年4月iPS細胞による再生医療実用化を目指すヘリオス<4593、15年6月新規上場>に出資、13年5月がん新薬を中心としたCRO(治験支援)事業に参入するため子会社タイタンを設立、13年7月アンジェスMG<4563>と子宮頸がんの前がん病変治療ワクチンの共同研究・開発基本契約を締結、13年12月iPS細胞を利用したがん免疫細胞療法の開発に向けてヘリオスと業務提携した。

 14年1月樹状細胞ワクチン「バクセル」の薬事承認取得を目指して子会社テラファーマを設立、14年2月ゲノム診断支援事業に向けてゲノム解析ソフトウェア開発のジナリスと合弁子会社ジェノサイファー(14年9月オールジーンに商号変更)を設立、14年4月組織培養用培地のパイオニアであるコージンバイオに出資して資本業務提携、14年8月少額短期保険業者のミニンシュラーを子会社化(14年12月テラ少額短期保険に商号変更)して保険事業(免疫保険)に参入した。

 15年5月には、子会社オールジーンがハウステンボス「健康と美の王国」に先制医療のための新サービス「プリエンプティトータルチェック&ケア」の提供を開始した。遺伝子、腸内細菌バランス、免疫細胞活性の検査など5つのサービスがあり、自分の身体の状態を知ることで食生活や生活習慣の改善に活用することが可能となる。

 なお6月24日には、当社が参画している一般社団法人再生医療イノベーションフォーラムが15年4月設立した再生医療産業化拠点実証タスクフォース(RMIT)に参画して活動を支援すると発表した。

■樹状細胞ワクチン「バクセル」の薬事承認取得目指す

 日本では13年5月に公布された「再生医療推進法」の理念のもと、14年11月に「医薬品医療機器等法(旧薬事法改正)」および「再生医療等安全性確保法」の再生医療関連2法が施行され、再生医療・細胞医療の早期実用化の促進が期待されている。

 樹状細胞ワクチン「バクセル」に関しては「医薬品医療機器等法」に基づいて、がん治療用再生医療等製品として早期承認制度を活用した薬事承認取得に向けて開発体制整備を強化している。

 15年3月には再生医療・細胞医療の要素技術である免疫細胞用凍結保存液の製造・販売に関する独占的通常実施権を取得した。樹状細胞ワクチン「バクセル」の薬事承認取得を目指す子会社テラファーマに再実施権を許諾し、樹状細胞ワクチン「バクセル」を搬送する際に用いる凍結保存液の実用化を図り、薬事承認取得に向けた準備を加速させる。

 また15年3月には、一部契約医療機関において10年後、20年後のがん治療に備えるための「免疫細胞バンク」サービスを15年4月以降に開始すると発表した。アフェレーシス(成分採血)で単球を採取して樹状細胞に成熟させ、樹状細胞ワクチンの状態で凍結保管する。がんに罹患した場合に、健康な時に作成した樹状細胞ワクチンを用いて治療を行うことが可能になる。

 15年4月には、11年1月から進行膵臓がんを対象として慶應義塾大学医学部と共同研究を進めてきた、抗がん剤を併用したWTIペプチドを用いた樹状細胞ワクチン「バクセル」第1相臨床研究結果を発表した。

 樹状細胞ワクチン「バクセル」に関しては15年度中に治験届の提出を目指すとしており、中期成長に対する期待が高まる。

■15年12月期は薬事承認取得に向けた費用先行

 通期の連結業績予想(2月6日公表)は売上高が前期比19.1%増の22億21百万円、営業利益が3億65百万円の赤字(前期は2億93百万円の赤字)、経常利益が3億53百万円の赤字(同3億30百万円の赤字)、純利益が3億81百万円の赤字(同4億02百万円の赤字)としている。

 樹状細胞ワクチン「バクセル」の開発費用増加で営業赤字が拡大する見通しだ。しかし売上面では既存契約医療機関との連携強化、新規契約医療機関の開拓、新規がん抗原の実用化推進などで症例数の増加を図り、細胞培養関連機器の新規受注拡大も寄与して大幅増収の見通しだ。

 第1四半期(1月~3月)は売上高が前年同期比95.0%増の6億40百万円、営業利益が84百万円の赤字(前年同期は1億06百万円の赤字)、経常利益が93百万円の赤字(同1億23百万円の赤字)、純利益が96百万円の赤字(同84百万円の赤字)だった。

 セグメント別の売上高は、細胞医療事業が同7.9%増の2億71百万円、医療支援事業が同2.3倍の3億69百万円だった。細胞医療事業の症例数は約310症例(前年同期は約300症例)で、当社設立以降の累計症例数は約9250症例となった。

 医薬品事業における薬事承認取得に向けた開発費用の先行などで赤字だが、細胞医療事業における症例数の増加に加えて、医療支援事業における細胞培養関連機器の販売が好調に推移して大幅増収となり、前年同期に比べて営業赤字幅が縮小した。通期ベースでも大幅増収が期待される。

■株価は売られ過ぎ感

 株価の動きを見ると、1500円~1600円近辺でのモミ合いから下放れて水準を切り下げる展開となった。そして足元では全般地合い悪化の影響を受ける形となり、7月9日に1130円まで調整する場面があった。ただし14年5月安値978円まで下押すことなく、終値では1269円まで戻した。調整のほぼ最終局面だろう。

 週足チャートで見ると26週移動平均線が戻りを押さえる形となってモミ合い下放れたが、日足チャートで見ると25日移動平均線に対するマイナス乖離率が10%を超えて売られ過ぎ感を強めている。反発展開が期待される。

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